第112話 認識させれば……
(この人……マジか? 正気か?)
失礼なのは解っているため、言葉には出さない。
ただ、心の底から目の前の女性は正気なのかと疑ってしまった。
「大丈夫、です。ただ……何故、ナツキさんがヴァレアにその様な提案をしたのか、解らなくて」
「簡単なことだよ。あの子はアスト君も知ってると思うけど、貴族令嬢なの。でも、今は誰かの正妻や騎士じゃなくて、冒険者」
「……つまり、この先の事を考えれば、そういった体験は早めに済ませておいた方が良いと」
「そうそう、そういう事! 話が解かるね~~~。あれでしょ、アスト君だってどうせやれるなら。それなりに慣れている子の方が良いでしょ」
(この人…………アマゾネスみたいな人だな)
性に奔放であり、交わって生まれてくる子は全員女の子という特異な女戦士、アマゾネス。
外見的に、清楚と元気が混ざっているナツキからは想像出来ないほど、一種の緩さを感じ取ったアスト。
「そうですね。そちらの方が、楽しみはあるかと」
「良いね良いね~~。そこで変に隠さないのは良いよ~~~!! やっぱり、君にヴァレアを任せて本当に良かったよ」
「……ナツキさん。お願いですから、それを他の人がいる場所で言わないでくださいよ」
「分かってるって~~。うちの可愛いバカたちはヴァレアのこと大好きだしね~」
「ノヴァだけじゃなく、他のクランの若い人たちからも人気ですからね」
ヴァレアとの冒険から戻ったアストは普段通り夕食以降にミーティアを開いており、店には比較的若い冒険者たちも来店している。
そんな客との会話の中で、いかに自分がいたしてしまった相手が人気なのか思い知らされてた。
「でもあれだよね。アスト君なら、同世代の子たちなんて余裕であしらえるでしょ」
「……昼間の話をしてますか?」
「それもあるけど、ちょっと君のことを調べたら、もう……うん、ちょっと可哀想に思えるぐらい絡まれてるな~って思って」
王都のトップクラスのクランということもあり、その情報収集力は並の貴族よりも優れている。
「けど、君は相手がルーキーであろうと、ベテランであろうと上手くやってきたよね」
「……まだ村で生活してた時に師事してくれていた師が良かっただけですよ」
転生者であるアスト(錬)は、幼い頃から年齢不相応な賢さを持っていた。
教えられたことを貪欲に取り込み、一を聞いてその次の二を考えていた。
そんなアストを見て……村一番の戦闘力を持っていた元騎士の男は、色々と欲が湧いてしまった。
まだ子供と言える年齢だが、これを教えても良いんじゃないか。実戦ではまだ使えずとも、頭では理解するかもしれない。
そうして他の子供たちには配慮しながらも、アストは師と言える人物から早い段階から多くのことを教わっていた。
「ふ~~~ん? でも、それを差し引いても、本当に上手く対処してるよね」
「…………昼間は、対処するのが面倒だったので、無理矢理丸め込ませてもらいました」
「あっはっは!!!! 聞いたよ、それ。確かにな~~って思ったよ。勝気、負けん気が強いっていうのは冒険者として良い事だけど、純粋な勝負じゃないことを考えると、あの子たちは中々バカなことをしたよね~~~」
「ナツキさんって、ノヴァの幹部的な立ち位置なんですよね。俺はあそこで争わずに済んでたから、まぁ良いかと思いましたけど………………クランに加入した人物なら、もう少し教育した方が良いんじゃないですか?」
普段のアストであれば、大きな組織に所属する猛者に対し、挑発とも捉えられる言葉を口にすることはまずない。
しかし……アルコールが入っているのに加えて、つい先程までその一件に関してマスターと話をしていた。
それもあって、つい口から思いがポロっと零れてしまった。
「ふっふっふ。手厳しい意見だね……そうだよね~。迷惑をこうむりかけたアスト君からすれば、あまり笑って済ませられることじゃないよね。でもさ、冒険者になろうって人たちをしっかり教育出来ると思う?」
「クランに所属してない冒険者であればともかく、クランに所属しているのであれば、昼間にノヴァの新人たちが俺に絡んできたような行為が、どれだけノヴァの看板に、名に泥を塗っているのか……これでもかと伝えれば、バカでも理解出来るのではないですか?」
「……あれだね。無理って解ってても、勧誘したくなっちゃうね」
「それはどうも。話の続きですが、冒険者は強気でなければならないといった考えを持つ者がいたとしても、ナツキさんたちの様な圧倒的な強さを持っていない者であれば、ただゴブリンがドラゴンの威を借りて吠えてるだけだと教えてあげれば、どれだけ自分たちが愚かなことをしていたのか……どれだけ恥ずかしい行為なのか、納得出来るかと」
「ふっふっふ……良いね良いね、もっと聞かせてよ。マスター、私とアスト君に適当に一杯ずつお願い!!」
「かしこまりました」
ちゃんと話を聞いてるのか? とツッコみたくなるも、ナツキとの会話は悪くない気分であり、奢りのカクテルを手に取った。
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