第83話 駆けつけてくれたという事実
「店主、ありがとな」
「お客さん、それさっきも聞きましたよ」
「……改めて言いたくなってな」
「では、改めて感謝の気持ちは受け取らせていただきます」
「そうしてくれ……ところで、店主な何が目的で鉱山に来てたんだ?」
Cランクの男も体力が戻り、バカ三人と共に鉱山を出て街へと戻り始めた。
男は店主が冒険者としても活動しているという話は聞いていたが、コルバ鉱山に何用があるのかは聞いていなかった。
「ちょっと事情があって、漆黒石が必要なんですよ。それでわざわざこの時期にコルバ鉱山に来て、採掘してたんです」
「そうだったのか。それにしても、やはり店主も勇気があるようだな」
「過大評価ですよ。俺は人肉大好き系のモンスターは今でも恐ろしいと思ってますけど、目の前にいても動けはします。全速力で走れば逃げ切れる自信があったので、人肉大好きアイアンイーターの情報を知ってても、採掘してただけです」
遭遇すれば、絶対に逃げようと考えていた。
アストの言葉が……嘘とは思えない。
それが悪い考えだとは、勿論思っていない。
それでも、男には危機を察知して駆けつけてくれたという事実がある。
「分かった分かった……それでも、俺達が助かったことに変わりはない」
「どうも。それよりお前ら、金は冒険者になったばかりのルーキーが真っ先にぶち当たる問題なのは、俺も解る。けどな、これからは人肉大好きな個体がうろついてるエリアには金の匂いがしても足を踏み入れるなよ」
「あ、あぁ。解ってるよ……もう懲りたって言うか…………こんな事言うのはあれだけど、マジで……マジで、恐ろしかった」
「リーダーの言う通り、本当に、恐ろしかったです。動けただけ奇跡だったと言うか」
「本当に、ご迷惑をおかけしました」
三人には、まだ相手の実力を視ただけである程度把握する眼力はない。
それでも、自分たちが完全に男の足を引っ張っていた。
自分たちがいなければ……男は、一人でも人肉大好きアイアンイーターを倒せる可能性があったのではないかと考えられるぐらいの頭は持っている。
「……同世代の俺とかに言われるのはあれだろうけど、あの鉱山平気でCランクのモンスターとかもいるから、採掘が目当てだったとしても、もう少し強くなってからの方が良いぞ」
「「「は、はい……」」」
「店主の言う通りだぞ、お前ら。コルバ鉱山にはミスリルゴーレムが現れたこともある。今回は今回で不運だったが、今回だけとは限らない。厳しいとは思うが、今以上に金を稼ぐたいなら、必死で強くなれよ」
「う、うっす!!! ……あの、さっきから気になってたんですけど、なんで先輩はこいつの……この人の事を店主だと呼んでるんすか?」
「なんでと言われてもな。この人が店主だからだ」
三人とも揃って頭を捻る。
その後、アストが冒険者は副業で、本業がバーテンダーという事を知り……どういう反応をすればいいのか解らなくなっていた。
街に戻った後、当然と言えば当然ながら……冒険者ギルドに報告しなければならない。
「ほ、本当にあのアイアンイーターをっ!!!???」
当然なら、物凄い驚かれる。
実際に見たことがなくとも、対峙した冒険者たちの情報から、人肉を好むモンスターがどれほど恐ろしい存在なのか把握している。
そしてこれまで冒険者だけではなく、領主の息子が腕を食われるという被害が出ていた。
「あぁ、本当だ。勿論、俺一人じゃ無理だった。店主の……アストの力があって、なんとかな」
モンスターの解体に使用する倉庫へ移動し、アストは亜空間から人肉大好きアイアンイーターの死体を取り出した。
「こ、これがあの…………っ、確かに資料に書かれてある内容よりも大きく、側の堅さも増してそうですね。っと、では皆さん。解体の方をよろしくお願いします」
「「「「「「おうっ!!!!」」」」」」
専属の解体士たちは気合を入れて解体開始。
「あの、素材の方はどうなさいますか?」
「……店主、どうする?」
「俺は特に必要な素材とかはない、な。それに、あれ……結構良い値段がしたんじゃないですか?」
男が……パルクが使用した使い捨てのロングソードには、ライトニングハザークランスの魔法が埋め込まれていた。
「必要な代金だった。それだけだ」
「だとしても、それなりの金が吹き飛んだのは間違いないでしょう。分け前は受け取りますけど、俺は四で良いですからね」
「…………店主は頑固なところがあるな」
「俺はただほんの少しの勇気を振り絞って、魔力を消費して……少し精神をすり減らしただけなんで」
放たれたライトニングハザークランスはかなり圧縮されていたこともあって、討伐するのに必要最低限の部分しか削っていなかったこともあり、買い取れる部分が多い。
通常のアイアンイーターよりも諸々の部分が向上していることもあり、高額で買い取られる。
偶々現場に向かうことになったアストとしては、四も貰えれば十分だった。
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