第84話 世界の真理
「「「「「「「「「「乾杯!!!!」」」」」」」」」」
アストとCランクの男……パルクがギルドに到着し、人肉大好きアイアンイーターの討伐を報告してから約二時間後、ギルドに併設されている酒場で宴会が行われた。
(……なんだか、少し前にもこんな感じで酒を作るんじゃなくて、呑む側に回ってたような)
ほんの少し前、アストは王都からなるべく近い場所に生息しているBランクモンスター……グリフォンを討伐した。
賞金を懸けられていた存在ということもあり、結果としてアストが討伐したことで宴会が行われた。
そして今回……まだアストの目標である漆黒石を樽一杯分採掘し終えてはいないものの、一旦考えることを止めて注がれるエールをどんどん呑み干していく。
「さすがバーテンダー、まだまだ余裕そうだな」
「全てのバーテンダー酒に強いわけではないと思いますけど……確かに、俺は強い方ではありますね。それより、ちゃんと呑んでますか、パルクさん」
「おぅよ。周りの奴らがどんどん注いでくれるからな……金を気にせず呑めるってのは、やっぱり良いもんだな」
「……カクテルを作って売る者がこんな事を言うのはあれかもしれませんけど、人の金で呑む酒が……一番美味いかもしれませんね」
この世界に転生する前から、何度も経験したことがある。
「はっはっは!!!! まさに、世界の真理ってやつだな」
「そうですね。ところでパルクさん、呑み友達に報告しに行かなくて良いんですか?」
「必要ねぇよ。そもそもギルドに伝えた時点で、自ずと伝わるだろ。なにより……わざわざ弟の腕の仇を討ってやったって俺から伝えるのは……ダサいだろ」
「……ロマンや漢といった部分を気にするのであれば、そうですね」
アストは、決してそのロマンや漢といった感情、考え方がダサいとは思わなかった。
「ありがとよ。まっ、そもそもな話……あいつは、誰かが倒さなきゃならなかった」
「偶々、パルクさんに勇気が溢れ出したから、と言いたいんですね」
「偶々……そうだな。と言いたいところだが、アスト……いや、店主。あんたあの店で出会いがあったからだ。だから、偶々勇気が出たって表現は違うかもな」
「……反応に困りますね」
頼んでもいないのに次々とテーブルに置かれる料理に手を付けながら、アストの表情には……苦い笑いが浮かんでいた。
「なんでだ? やっぱり、あのアイアンイーターは自分一人で倒してみたかったか?」
「そんな勇気、自分にはありませんよ。ただ、俺が背中を押してしまったと考えると……って、考えるのは駄目ですね。そう考えるのは、冒険者であるパルクさんに失礼でした」
「ふっふっふ、本当に可愛気が全くねぇぐらい優秀だな、お前は。本当に二十を越えてないのか?」
「えぇ、そうですね。まだまだ世間知らずな若造です」
冒険者は、基本的に自己責任。
パルクはアストと出会えて勇気が出た、振り絞れたことは偶然ではないと答えた。
大金を使い、使い捨てのマジックアイテムを購入し……人肉大好きアイアンイーターに挑んだ。
たとえそこで人肉大好きアイアンイーターに食い殺されても、運良く生き延びられたけど貯金がなくて宿を追い出されたとしても……そうなってもそれは全てパルクの自己責任。
何もアストが気にするところはない。
脅した訳でもなければ、茶化してその気にさせた訳でもない。
「俺はバーテンダーで、冒険者……それ以上の、何者でもない」
「そういうこった。まっ、店主は責任感が強そうだからな。色々考え込んでしまうかもしれないが、それを忘れてないなら、変に悩むことはないだろう」
「無茶言わないでくださいよ。まだまだ若造なんですから、これからまだまだ悩みまくりの人生ですよ」
「はっはっは!! 本当に悩んでる奴は、そんな事言わねぇよ」
こうしてこの日の宴会は終わり、人肉大好きアイアンイーターが討伐されたという情報は直ぐに広まり……翌日には再びコルバ鉱山に向かう冒険者たちが増えた。
「……昨日は割と勇気を出して、結果的に四人の命を助けたと思うんだけど……善行を積んだからって、そう簡単に運良くことは運ばないか」
当然、二日酔いにならず、鉱山で採掘を行っていたアストだったが……この日も鉱石を採掘出来ない訳ではないのだが、肝心の漆黒石が殆ど見つからなかった。
「もしかして、あのクソワームが食い荒らしてたのか?」
仮にそうだとして、やはり殺すサポートを行って良かったとは思うものの、だからといって全く何も解決しない。
「もうちょい掛かりそうだな~~」
樽の中を見るが……まだ半分も漆黒石が溜まっていなかった。
そして夜、夕食を食べ終えたアストは眠気が欠片もなかったため、適当な場所でミーティアを開店。
すると……数組の客が訪れ、帰った後、見覚えのある客と見覚えのない客が一緒にミーティアへ向かってきた。
「よぅ、店主。二人、いいか」
「えぇ、勿論ですよ。いらっしゃいませ」
一人はパルク。そしてもう一人は、大して特徴は聞いていなかったが、アストは直ぐに心当たりが浮かんだ。
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