第75話 最後まで冷静に?
「あの人、割と良い人だったのかな?」
冒険者ギルドを出て、目的の場所へ向かう中、アストは自分に声を掛けてきた同業者のことを考えていた。
(俺がグリフォンを倒すつもりだって口にしたら、他の人たちみたいに爆笑するもんだと思ってたけど……まっ、人は見かけによらないのは今更か)
見た目通りのチンピラもいれば、人情深い兄貴肌の者もいる。
やはり多くの人と関わるのは面白いと思いながら、グリフォンの巣へと続く道を……今日も今日とて走って走る。
「ッ! ギギャ!!」
「「「ギャギャギャっ!!」」
道中でアストの姿を発見し、襲い掛かろうとするモンスターが当然いるが、今回は無視。
脂の乗った美味そうな腹をしているオークがいても無視。
イノシシ系、や熊系のモンスターが襲い掛かってこようとしても、走って振り切る。
「キシャァアアアアアアッ!!!!」
「っと、お前は討伐しておこうか」
「シャアっ!!??」
急降下しながら攻撃してきた鳥系モンスターの攻撃を開始、再び上空に戻ろうとしたところを、木を駆けて追跡し、ロングソードで一閃。
グリフォンが従えている可能性が高い鳥系モンスターのみ、襲撃を受ければ討伐。
そんなやり取りを繰り返し続け……日が暮れる前に、グリフォンの巣と思わしき場所に到着。
「ん? なんだよ……グリフォンのやつ、いないじゃないか……仕方ない。待つしかないか」
グリフォンにはドラゴンと同じく物を集める習性があり、巣にはこれまで襲撃してきた冒険者や商人から奪って来たであろう物を全回収。
戻ってくるまでの間に、アストと同じ冒険者を襲撃しているかもしれない。
だが、それはアストにとって関係無いことであった。
冒険者とは基本的に自己責任であり、巣と思わしき場所でアストがグリフォンの帰還を待っていたからといって、同業者が死んだ責任がアストにあるとは言えない。
「っ、この感じは……ようやく帰還か」
アストがグリフォンの巣で待っていた間、普段はしない気配を感じたグリフォンの配下が襲撃に来たが、全て返り討ちに合い……現在、巣一帯は血の匂いにまみれていた。
「勇ましき雄牛よ、吼えろ」
アストは……本業はバーテンダーであり、冒険者は副業。
「たとえその身が傷付こうとも、猛れ」
そう、騎士ではなく冒険者。
わざわざ真正面から、正々堂々と戦う必要は、欠片もない。
「猛れ、猛れ、猛れ暴牛よ。荒野を突き進み、その背で示せ」
命を懸けた野性での死合いであれば……尚更である。
「ブレイブブル」
「ッ!!!! キィィィィイイエアアアアアアアっ!!!!!!!」
「オオオオオァァアアアアアアア゛ア゛ッ!!!!!!!」
巣に戻る途中で、自身の巣に誰かがいること察知していたグリフォン。
ここで躊躇なく風のブレスや、風魔法を発動していれば……また戦況は変っていたかもしれない。
しかし、自身が溜め込んでいるお宝(自称)を破壊してしまうことを恐れ、アストの
準備を許してしまった。
「ゥォオオラッ!!!!!!!」
グリフォンの威嚇をものともせず、相殺。
不味いと思った瞬間には、宙に跳んで接近。
ブレスで迎撃しようと口を開くも、旋風の刺突が先に放たれた。
「っ!!!!???? ………………」
並みの斬撃では斬れず、温い打撃では逆に弾き返されてしまう肉を持っているグリフォンだが……残念ながら、口の中までは頑丈ではない。
ブレスを放とうとしていたこともあり、喉に集まっていた魔力も暴発し、そのまま頭部は爆散。
「っと……勿体ないことをしたな。けど、こいつの脳や眼球が目的じゃないんだ。別に良いか」
アストはその場でグリフォンの死体を解体しようとはせず、アイテムバッグに丸々収納。
日が暮れるて街に入れなくなる、という心配もあるが、アストとグリフォンの雄叫び、加えてグリフォンの頭部が爆散した音などによって、まだ巣に訪れていない配下がいるかもしれない。
これ以上戦うつもりがないアストは再び全力疾走。
走って走って襲撃してくるモンスターを全力で振り切り、無事門が締まる前に街へ
戻ることが出来た。
「はぁ、はぁ……ちょっと、最近走り過ぎかもな」
人族の中でもスタミナがある方ではあるものの、街に到着するころには息切れ状態。
速攻でベッドにダイブしてしまいたい気分ではあるが、その前に冒険者ギルドへと向かった。
中に入ると、併設されている酒場では既に仕事を終え、呑んで食って騒いでいる冒険者が多数。
「倉庫を使いたい」
そんな中、直ぐにベッドにダイブしてしまいたい気分ではあるものの、頭が回らないほど疲弊はしておらず、アストは「グリフォンを討伐した」と、うっかり漏らすことなく騒ぎを回避。
受付嬢はほんの少し疑問を持つも、ギルドカードにはしっかりとCランクという記載がされているため、ギルドが持っている倉庫へと案内。
すると数分後……倉庫に防音機能が無ければ、受付嬢が恥も外聞も無意識に捨てた叫び声が間違いなくロビーや酒場まで届いた。
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