第76話 証明書

「あ、アストさん……こ、この死体、って」


頭部はなくとも、ある程度知識を持っている受付嬢であれば、体だけで何のモンスターなのか解る。


「グリフォンです。巣まで行って、その時にはまだいなかったので、戻ってくるまでそこで待ってました」


「つ、つまり、グリフォンが帰って来たタイミングで戦闘を始めて……一人で、討伐したと」


「そうなりますね。あっ、お手数かけますが、こっちの素材の査定をお願いしても良いですか」


アストにとって、鳥系モンスターの肉は店で提供する料理の素材として使うので売却しないが、羽や魔石、眼球などに関しては自身で使用する予定はないので、全て売却する。


「こ、こんなに……しょ、少々お待ち頂いでもよろしいでしょうか」


「分かりました…………あの、良かったらこの倉庫で待っていても良いですか?」


「えぇ、それは大丈夫ですが、解体に慣れた冒険者が見ていても、面白い光景とは思えませんが」


「ロビーの方に居たら、絡まれるかもしれないので」


まだ二十に達していない若さに加えて、併設されている酒場で騒いでいる冒険者たちは……まだアストという冒険者がBランクモンスターであるグリフォンを討伐したという話は知らずとも、何人かの冒険者はCランクであることを知っていた。


若くてCランクという、そのままリスクを冒さずそれなりの生活を送り続ければ、生きていくのに困らない財産を蓄えられる域にまで達しているとなれば……やっかむ者もそれなりにいる。


そんな事情を察し、受付嬢は了承。


ギルド専属の解体士たちはグリフォンの死体と、その死体を討伐した冒険者の姿に驚きつつも、冷静に……素早く、それでいて丁寧に解体を進めていく。


(マジで、あの冒険者が一人でこいつを仕留めたのか?)


(冒険者は人は見かけによらないって連中がそれなりにいるのは知ってるが……それでも驚きマックスだぜ)


(あの坊主…………坊主、なんだよな? なんつ~か、雰囲気は俺みたいな三十代と変わらねぇ気がするんだがな)


解体士たちはグリフォンの解体に集中はしてるものの、時折チラチラと倉庫の片隅に居る討伐者……アストの方に視線を向けており、本人もそれに気付いていた。


(本当にこいつが仕留めたのか、とか思われてるんだろうなぁ……うんうん、仕方ない仕方ない)


本人達が口に出さずとも、何を考えているのかある程度解ってしまう。


それでも、悪意や負の感情が視線に籠ってないこともあり、気分が下がることはく……十数分後には解体と査定が終了した。


「お待たせしました、アストさん。こちらが解体したグリフォン素材になります」


「ありがとうございます。それでは、グリフォンの肉と爪と魔石以外は売却でお願いします」


「かしこまりました」


一分も経たず、査定の修正を行い……アストの元に、グリフォンとその他の鳥系モンスターの素材を売却した額にプラス、グリフォンにかけられていた賞金が贈られた。


「こちらが、査定額とグリフォンにかけられていた賞金の合計額になります」


「ありがとうございます。あっ、その……可能であれば、自分がグリフォンを討伐したという証明書みたいな物を頂いても良いですか」


「証明書、ですか? かしこまりました」


受付嬢はグリフォンが討伐されたことでウハウハ気分のギルドマスターにアストから頼みを伝えると、百枚でも二百枚でも書いてやる!!! といったテンションの高さで直ぐに証明書を製作した。


「お待たせしました。こちらがアストさんがグリフォンを討伐した証明書になります」


「ありがとうございます」


証明書を受け取り、ロビーに戻って来たアストはそのまま直ぐにギルドを出て、適当な酒場で晩飯を食べようと思っていたが……ロビーに戻ってくるなり、出発前にギルドで声を掛けてきたポールアックスの男に捕まった。


「兄ちゃん……もしかしなくても、あんたがグリフォンを倒したんだな」


何故をそれを知っているのか、という感情は顔に出さなかった。


(確かに他の冒険者たちにバレないように事を進めたんだが……なんでこの人は、その結論に至ったんだ?)


チラッとクエストボードの方に視線を向けると……ここ最近、冒険者や商人にクソ迷惑掛けていたグリフォンを賞金首だと記す紙が消えていた。


一人の冒険者が倉庫の方へ向かい、その間に紙が消えたとなれば……その結論に至っても、なんらおかしくはない。


「あぁーーー……ま、まぁ色々と策を駆使してなんとか」


もう諦めるしかないと思い、小さな声量で伝えるも、男の耳にはしっかりと聞こえていた。


「お前ら!!!!! あの憎きグリフォンが、この英雄によってぶっ殺された!!!!!! 今日は呑んで食って、騒ぐぞ!!!!!!!」


既に吞んで食って騒いでいたが、その報告を聞いた冒険者たちは大なり小なり酔っていて思考力が低下していたのか……アストがソロでグリフォンを討伐したということに疑問を持たず、男の言葉に続いて手元にあったエールの入った杯を上げ、祝杯を上げた。

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