第74話 格別の味
「アストさん、お手紙が届いてます」
「俺にですか?」
「はい、アストさんにです」
自室で封筒を開き、中身を確認。
「…………仕事が早いですね」
手紙には、王都から近い場所で確認されたBランクモンスターの情報と、漆黒石が採掘出来る鉱山の情報が記されていた。
「……良い時間だし、早速出発するか」
アストは目的地へと向かう護衛依頼などをギルドで探すことなく、直ぐに……ソロで出発。
先日の間に全て準備は済ませている為、買い物をする必要もなく、脚力強化とスタミナ強化のマジックアイテムを装備してダッシュ。
当然だが、アストはあっという間に王都から近場の街に到着。
道中、道沿いに獲物を狙いに来るモンスターや盗賊もいるが……高速で走り続けるアストはあっさりと置き去りにしてしまう。
途中途中で一応休息を挟んでいるとはいえ、昼食頃には街に到着し、街の店で空いた腹を満たす。
「ふぅ~~~……っし、もうひと頑張りだな」
エネルギーを補給した後は、軽いランニングペースで進み……リバースする心配がなくなれば、再び普通に考えれば長時間走り続けるのには不向きなペースで走って走って走る。
そしてその日の夜のうちに……マティアスが送った手紙に記されていた、周囲にBランクモンスターの存在が確認されている最寄りの街に到着。
「はぁ、はぁ…………いやぁ~~~、走ったなぁ~~~~」
その日、アストは訪れた街でバーを開くことはなく、とりあえず賑やかな酒場に入り、エールを注文。
「っ~~~~~~~~~~!!!! 美味い!!!!!」
がっつり働いた、という訳ではないが、朝から夕方にかけて走って走って歩いて走って走って休憩して歩いて走って走ってと……とにかく動いて動いての一日だった。
その為、エールに悪魔的な美味さを感じつつ、なんて事のない料理も最高に美味く感じ……食べ終えた後は大浴場で汗を流し、宿を取って直ぐにぶっ倒れる様に寝た。
翌日、九時前には起きたアスト。
朝食を食べ終え、他の冒険者たちよりも少し遅れてギルドに入り、ひとまずクエストボード前に向かった。
「あっ、一応依頼は出てるんだ」
依頼、と言うよりも賞金首的な形として、Bランクモンスター……空の死神、グリフォンの情報が一枚の紙に記載されていた。
(……巣らしき場所があるところまでは、少し距離があるけど…………戦闘を避けて向かえば、そこまで問題はなさそうだな)
クエストボードに張られている他の依頼書にも目を向けるが、ランクの高い依頼書は張られておらず、討伐系の依頼書に記されているモンスターのランクもDランク以下が殆ど。
「おい兄ちゃん、見ねぇ顔だな」
「どうも、初めまして。先日この街に来たばかりです」
いきなり見知らぬ冒険者に声を掛けられても、動じず普段通りの表情で返す。
「そうかそうか。クエストボードと睨みっこしてたけどよ……もしかして、こいつに挑むつもりか?」
声を掛けてきた男はガタイが良く、背にはポールアックスを背負っており、一目で前衛タイプの冒険者である事が窺える。
「そうですね。ちょっと事情があって、Bランクモンスターを討伐したという証明が必要なんです」
適当に躱すのが面倒だと思い、特に隠すことなくガタイの良い男が指さす先にあるグリフォンを討伐するつもりだと口にした。
すると、アストの言葉を耳にした冒険者たちから、大なり小なり差はあれど笑い声が零れる。
「おいおい兄ちゃんよ、死に急ぐにはちょっと早ぇんじゃねぇか」
声を掛けた男は……軽く笑ってはいるものの、何か事情を抱えているのかと予想し、他の冒険者たちの様に、アストを単なる無謀なバカ野郎だと判断して笑うことはなかった。
「大丈夫……という証拠には薄いと思いますけど、俺はこれでも一応Cランク冒険者です」
そう言いながら、ガタイの良い男に自身のギルドカードを見せるアスト。
「なっ!!!??? ……マジか。すげぇな」
男がギルドカードにいちゃもんを付けなかったことで、先程までアストの発言を嗤っていた冒険者の表情に変化が起こる……ただ、それなら大丈夫か、と思う者は一人もいなかった。
「……兄ちゃんよ、文字は読めるのか?」
「えぇ、読めますよ」
「なら、このグリフォンが他のモンスターも従えていることは、解るよな」
賞金首認定している紙には、確かにこれまで他のモンスターを連れて冒険者を襲撃したという情報が記されている。
「みたいですね」
「俺らが兄ちゃんの実力を視誤っていたのは認めるが、それでも……死に急いでるのと変わらねぇぜ」
世の中には、決死の覚悟を携えて挑み……ソロでBランクモンスターを討伐出来るCランク冒険者というのは確かに存在する。
そんな紛れもない研磨中の原石であっても、その他に複数のモンスターがいるとなれば、話は変ってくる。
「先程言った通り、Bランクモンスターを最速最短で討伐する必要があります。心配してくれて、ありがとうございます」
見ず知らずの、初対面の後輩を心配する。
そんな先輩の優しさにきっちりと礼をし、ギルドを出て紙に記されていたグリフォンの巣がある場所へと向かった。
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