第51話 重用すべき意思
「どうぞ」
「「「……」」」
既に日が暮れており、野営の準備を行っていたアストたち。
そんな中でアストはというと、当然の様に……当たり前の様に夕食の準備を始めた。
「あ、アスト……さん」
「ん? どうした。冷める前に食べてくれよ」
「う、うん…………あのさ、俺ら今そんなに金持ってないんだけど」
調理中、アストは平然と調味料に塩や香辛料、チーズなどを使用していた。
ルーキー三人からすれば、目の前の料理は……下手すれば酒場で食べる料理よりも豪華に思える。
「うん、美味い!!!!」
「フランツさん。あまり大きな声を出すと、モンスターに気付かれてしまいます」
「おっと、そうだったな。いや、しかし大絶賛したくなるこの料理も罪だな~」
ルーキーたちが本当に金を払わず、目の前の料理を食べても良いのかと悩んでいる中、フランツは一切遠慮せずに食べていた。
「フランツさんもこうしてがっつり食べてるんだ。ほら、冷める前に食べちまいな」
「う、うっす」
三人とも非常に固い動きをしながらも、ゆっくりを目の前のトロッとしたチーズが掛かった肉料理に手を伸ばす。
「っ!!! ……や、やべぇ…………や、ヤバい、っすね」
「ふっふっふ、そう言ってくれると嬉しいよ。ただ、この料理に関しては塩や胡椒がなくても、チーズがあれば良い触感になる。気に入ったくれたなら、野営にチーズを持参すると良い」
野営という場所で食べるからこそ、チーズの悪魔的な美味さ、満足感が体を満たしていくが……これに関しては、アストが何か特別スキルや技術を持っているからではない。
「昼前に言わなかったが、金に余裕があるなら。冒険中にテンションを上げる為に、多少金をかけても良いと思うよ」
「………………俺、これからちょっと酒に使う金を減らします」
「俺もだなわぁ……酒代減らしって、野営でこんな美味い飯を食えるなら、我慢する価値ありだな」
「おいおいお前ら、酒代を減らしちゃったら、アストの美味い酒……カクテルが呑めなくなるぞ」
「あっ! そういえばアストさんって、一つの街に長期間滞在しないっすもんね」
「一応な」
今回はアストにしては珍しく一つの街に長期間滞在しているが、そろそろ移動しようかなとは考えていた。
「財布に余裕があるなら、来てくれると嬉しいよ」
「アストの店は超安いぞ!! なんなら、今回の依頼が終わったら俺が奢ってやるぞ!!」
「「「良いんですか!!!!」」」
「おうよ! 勿論だぜ!!!」
(……酔ってないよな?)
フランツがもしや酔っているのでは? と疑うも、元々の性格が出ていただけであった。
そして翌日、夜中の間にモンスターや盗賊に襲われることなく、朝を迎えた。
「……アストさん、今度絶対にお店に行かせてもらいます」
「そうか? 楽しみに待ってるよ」
朝食は簡素なサンドイッチ……ではあるが、非常に温かい。
加えて肉厚であり、悪くない満腹感を得られ……ルーキー三人は、本当にこれをタダで食べられることに対して、金を払わないことに罪悪感を感じてしまう。
そのため、フランツに奢って貰うのとは別の機会で、必ずアストの店を訪れようと決めた。
「おっ、アスト。ありゃあ、目当てのモンスターだよな」
「そうですね。ただ……ちょっと数が多いですね」
昼食を食べ終えてから約一時間後、標的のモンスター……グレーウルフを発見。
しかし、その数が十を越えていた。
(半分で良いんだが……ちょっと多いな)
離れた場所で固まって行動しているグレーウルフたちは……まだアストたちの方に気付いていない。
(……俺は助っ人みたいな立場だし、優先すべきか三人とフランツさんの意思だよな)
チラッと視線を向けると、フランツは戦る気満々な表情を浮かべているが……アストと同じく、ルーキー三人の意思を窺っていた。
「……どうする、戦るか?」
「…………戦りたいっす。逃げたくないっす」
「俺も同じですね」
「私もです」
「オッケー。フランツさんは……」
「全力で戦ろうか!」
全員の意思が決まったところで、襲撃開始。
アストは前に出てロングソードを振るわず、遠距離で攻撃を行いながらサポートを行う。
フランツも前には出るが、ルーキーたちの成長の機会を奪わず……器用に立ち回り続けた。
その結果……ルーキーたちが重傷一歩手前の傷を負うも、三人の中で誰一人欠けることなく討伐に成功。
「っしゃ!!!!!」
リーダーの青年が喜びに震えながらガッツポーズを行い、残り二人もそれに釣られる。
(懐かしいな……バーテンダーとして活動するっていうのは、この世界に生まれてからの目標は変わらなかったけど、危機を乗り越えてモンスターを討伐出来た時はあんな感じで盛り上がってたよな……本当に懐かしいな)
完全に爺臭い……保護者的な眼を向けていることに気付かないアスト。
「「っ!!!!」」
だが、伊達に経験は積んでおらず、フランツとほぼ同じタイミングである方向に体を向けた。
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