第52話 それを忘れるな
「アストッ!!!!」
「了解!!!!!」
接近してきたモンスターの危険度に速攻で気付いた二人。
フランツの意図を察したアストは直ぐに必要なグレーウルフの死体を回収し、ルーキー三人を守る体勢に入る。
そしてフランツは先程まで保護者モードが本気モードにチェンジ。
自分の獲物を奪ったと思っているリベルフというモンスターの襲撃に対応。
「あ、アストさん……あ、あいつはいったい」
「あれは多分…………リベルフだ」
「り、リベルフって……っ、それならもしかして、俺達があいつの獲物と思ってるんじゃ!!??」
「だろうな」
リベルフ……Bランクモンスターの巨狼。
先程までアストたちが戦っていたグレーウルフと同じく、ウルフ系のモンスターに分類される個体だが、何故か自身の同系統のモンスターを狙いにすることが多い。
どのウルフ系のモンスターからも進化する場合がある。
特殊な能力はないものの、Bランクモンスターらしく……全体的に強い。
爪撃、噛みつく力、脚力。
どれも油断ならないレベルで強く、熟練の騎士だったフランツであっても、タイマン勝負では負ける可能性がゼロとは言えない。
「お前ら、しっかりと互いの背を合わせて、他の場所から別のモンスターが来ないか見張っててくれ。何か発見したら、直ぐに伝えるんだ」
「お、俺らも「その気持ちだけ貰っとく。悔しいって思うなら、それを忘れるな」ぁ……っ」
早口で伝えたい事を伝え、アストもダッシュで戦場に向かい、戦場に参戦。
「っ!!」
「お待たせしました、フランツさん」
「あいつらは、大丈夫か?」
「戦えない現状に、悔しさを感じてる、ようなので、大丈夫かと、思います!」
「はっはっは!!!! そいつは頼もしい、なっ!!!!」
ルーキーたちの現状に対する心情を聞き、後進達に頼もしさを感じつつ……アストと共に戦うのであれば、いきなり現れたBランクモンスターが相手でも冷静に対処出来る……そう思ってたいのだが、中々良い一撃を与えられないまま一分が経過した。
(このリベルフ……かなり、一対多数の戦いに、慣れているな)
ウルフ系のモンスターは高ランクの個体でなければ、群れて行動することが多い。
そんな同族を獲物として狙うリベルフが一対多数の戦いに慣れていることは全くおかしくないのだが……それでも、今のところ隊長という地位まで上り詰めた元騎士とスピード出世の有望株が真面目にロングソードを振るっても、致命傷を与えられないでいた。
(モンスターっていうのは、つぐつぐ……面倒で、強い、なっ!!!!!)
実力者二人で戦ってることもあり、アストとフランツも致命傷は負っていない。
しかし、それでも攻めきれない現状が続く。
(この前戦ったリザードマンの集団ほど、上手く近づけない感じ、だし……ロールで力を流したとしても、ネコ科の野郎どもみたいに、空中で簡単に体勢を、立て直しそうだし!!!!)
オオカミは正確にはイヌ科の生物なのだが、身軽な動きが出来るというのは正しく、ロールによる受け流しが……結局のところ大して効果を発揮せず終わることもある。
(って、なると……あれか…………いや、ぐちぐち言ってても、仕方ねぇ)
腹を決めたアストはリベルフの領域にがっつり入ると決めた。
「フランツ、さん! 殺る、準備を!!」
「っ、おうよ! 任せろ!!!!」
思いっきり前に出てきたアストに……リベルフは容赦なく魔力を纏った爪撃を叩き込む。
それをアストは……ロングソードで受け止めるのではなく、両手で受け止めた。
(ぬ、ぅ、りゃっ!!!!!!)
「っ!!!!!?????」
当然だが、アストとリベルフでは体の大きさが違う。
純粋な力ではリベルフの方が上であり、真正面からタンクではないアストが爪撃受け止めようとすれば……潰されてしまう。
そこでアストはスキル、カクテルの技……ロールとリバーサルを連動させて発動。
リベルフがぶちかまそうとした爪撃をロールで受け流す……だけではなく、対象を逆回転させる技、リバーサルを発動し……爪撃による衝撃を受け流すだけではなく、そのままリベルフに返した。
「最高だ、アストッ!!!!!!!!」
自分の攻撃をそっくりそのまま返されたリベルフの腕は……外傷こそないものの、骨はバキバキで筋肉はズタズタ。
戦闘中に大興奮して痛みに鈍くなっていたとしても、思わず動きを止めてしまう。
事前に意図を汲み取っていたこともあり、フランツは千載一遇のチャンスを逃すことなく、リベルフの首を切断した。
「ふぅ~~~~~。どうよ、アスト。素材になるんだから、頭を潰さず首を斬った方が良いんだろ」
「……ふっふっふ、そうですね」
子供の様に笑うフランツの姿に、アストも釣られて笑みを浮かべて答えた。
「…………凄ぇ。本当に、凄ぇよ」
「あぁ、そうだな…………凄ぇ、悔しいな」
冒険者として、戦闘者として先輩である二人の戦いっぷりに衝撃と悔しさを同時に
感じた三人の心は……下を向かず、確かに前を向いていた。
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