第49話 認められるか否か
「勇気、勇敢さ、か………………そうだな。私は、恐れているのだな」
ただでさえ、あまり良くない別れ方をしてしまった。
仲直りをしようと歩み寄ったとしても……もう関係の修復は出来ないかもしれない。
だとしても、勇気を振り絞り、勇敢に一歩踏み出さなければ……何も変えることは出来ない。
「……マスターは、本当に凄いな」
「ありがとうございます。ただ、冒険者として経験から……その気持ちが、心構えの差によって死線を乗り越えられる変わってくることを思い出しまして」
「…………ふっふっふ、そうだな。その通りだ。乗り越えなければいけない時、その気持ちが大事だった……いつの間にか、そういった気持ちを忘れてしまっていたのかもしれない」
「であれば、遅くはないかと。己がその気持ちを忘れていたと認められたのですから」
間違いとは少し違うが、自分が失っていたものに気付くことが出来た。
そしてルンバートの場合、まだ完全に手遅れになった訳ではない。
「自分で認められるか、認められないか……そこでこれから先の行動が上手くいくか否かが変わるかと」
「認めたからこそ、上手く進むことができる。確かにこの歳になってくると……自分の間違いというのを、中々認められなくなるものか」
実際のところ、ルンバートにはそういった老害……害悪っぽい部分はない。
ただ……これまでそういった人物を何人か見てきたため、アストが何を言いたいのかよく解った。
(認めるのにも、勇気や勇敢さが必要なのかもしれないな………………ふっふっふ、私は本当に色々と忘れてしまっていたようだな)
ブレイブ・ブル……勇気ある雄牛の名を持つカクテルの意味は、勇敢。
二杯目を吞み終えたルンバートに、更なる酔いが追加されるも……心の中は、自分はここで停滞しないと……前に進もうと、激しい炎を滾らせていた。
「よっしゃ! そんじゃ行こうか!!!!」
二日後、アストはフランツに誘われて一緒に依頼を受けていた。
メンバーはフランツ以外にも、三人の冒険者いるのだが……まだ冒険者になって二年のルーキー。
ここ最近フランツと交流し、歳は離れていれど仲良くなったいた。
そこでフランツが歳の近いアストもいた方が良いと思い、誘った。
「「「……」」」
しかし、ルーキー三人はアストという一つ上の先輩に対し、かなり緊張してしまっていた。
「おいおい、どうしたお前ら。何をそんなに緊張してるんだ?」
「い、いや……だって、あのアストさんと一緒って思うと」
(? あのアストって……なんだ? 確かにソニックイーグルの討伐に貢献したりはしたが、そこまでこいつ人外じゃね? って思われる様な派手な事はしてないと思うんだが)
確かにアストの考え通り、派手過ぎる事件は起こしてない。
それでも、そういった件がなくともアストは冒険者の中で異例の存在であることに変わりはない。
「? アストは超良い奴だぞ」
「でも、まだ二十歳になってないのにCランクに到達していて、副業……じゃなかった、本業でバーテンダーをやってるんだろ」
「謎が多いっつーか、ちょっと普通じゃないよなっていうのが、俺らルーキーの中での認識なんっすよ、フランツさん」
「二人の言う通りよ。勿論実は裏で、とかを疑ってる訳じゃないの。でも、自分たちと色々と違う存在なんだっていう意識があって」
「はっはっは!!! そういう事だったか。確かにアストはその歳からは考えられない良いアドバイスをくれるからな! けど、アストとしては歳が近い冒険者と仲良くしたいんじゃないか?」
前回、アストはそこまで話していなかったが……フランツはそこまで解っていた。
「そうですね。面倒な態度がいつまでも変わらない奴はお断りだけど、できれば同世代の同業者とは仲良くしたいと思ってるよ」
「だ、そうだ! だから、そんなに緊張しなくても大丈夫だって!!!」
「そ、そういうことなら」
頼れる大人、元騎士であるフランツとアスト本人がそこまで伝えたことで、ようやくルーキーたちの緊張感が和らいだ。
「何かアストに質問とかないのか?」
「答えられる範囲であれば答えるぞ」
「……それじゃあ一つ訊きたいんだけど、冒険者が副業で、バーテンダー本業っていうのはその……本当なのか?」
「あぁ、そうだな」
人族の男性冒険者の質問、アストは間を置かずに直ぐ答えた。
「人によっては、そこを不快に思うこともあるよな。俺はその感情を否定するつもりはないよ。そこだけを聞けば、遊び半分で冒険者として活動してる様に思えるもんな」
「っ、いや……ま、まぁ……正直なところ、そう思ってた部分はあった」
「正直に答えてくれて嬉しいよ。でも、俺は俺で目標があるから、これからも冒険者は副業として活動して、本業はバーテンダー。そこは変わらないよ」
遊び半分で活動してるのに、フランツなどの大人たちがやたら褒める。
そこが気に食わない点ではあったものの……ルーキーさんにんは、副業云々関係無しに……アストが自分を同世代の者たちがそういった思いを自分に向けていると気付いている。
そして、そういった思いを持っていた事を素直に口にしてくれたことを嬉しいと答えたアストを見て…………彼が、本当の意味で大人なのだと感じ取り、くだらない嫉妬心などが三人の中か霧散した。
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