第47話 どこが魅力的?
(フランツ先生は、本当に生徒たちから愛されていたんだな~)
門限の関係でまだ店を閉める前に学園の寮に帰って行ったカインたち。
彼等との会話から、どれだけフランツが学生たちから頼られ、愛されていたのかが良く解ったアストはコップを洗いながら小さな笑みを零していた。
そんな中、二組目の客が来店。
「ここが、ミーティアという店で合っているか?」
「いらっしゃいませ。当店が屋台バー、ミーティアでございます」
来店してきたのは一人の男性。
(……もしかしなくても、貴族の方だよな?)
これまでの経験からカインの時と同じく一目で来客した人物が貴族の関係者であると見抜いたアスト。
とはいえ、そもそもこういった屋台のバーに訪れる貴族は一風変わっていることが多く、バーの主として活動を始めたアストとしては……そこまで警戒する必要はなかった。
ただいつも通り……初の来客と接するように、丁寧な対応を心がければ良い。
「こちらがメニュー表になります」
「…………噂に聞いた通り、メニューが豊富なのだな」
ミーティアに来客した男はこれまで、同僚たちとバーに訪れたことがあり、それなりにカクテルの種類や、バーで提供される料理も知っていたが……店主から渡されたメニューには、予想の三倍……もしくはそれ以上のメニューが掲載されていた。
「よければ、一杯目はマスターがお勧めの一杯をくれないだろうか」
「かしこまりました。お好みはございますでしょうか」
「……今日は、強めのカクテルを呑みたい気分だ」
「かしこまりました。それでは、少々お待ちください」
アストはロックグラスとテキーラ、カルーアのコーヒーリキュールを用意。
グラスに氷を入れ、軽くバー・スプーンでステアしてから、テキーラを四十ほど注ぎ、その後にカルーアコーヒーを二十注ぎ……再度ステア。
「お待たせしました、ブレイブ・ブルでございます」
「ブレイブ・ブルか……ありがとう」
男はほんの少し口に含み、満足気な笑みを浮かべる。
「綺麗な琥珀色とは裏腹に、重鈍なアルコールの強さ……良いチョイスだ、マスター」
「光栄でございます」
「では、料理を頼ませてもらおう」
三品ほど注文した後、男は他のカクテルを頼まず……チビチビとブレイブ・ブルを飲み続ける。
「…………時にマスター、あなたはこうして夜はバーテンダーとして働く傍ら、冒険者としても活動していると聞く」
「お客様の仰る通り、私は夜はこうしてバーテンダーとして働き、昼間は冒険者として活動しています」
「……冒険者という職業は、魅力的なのか?」
職業として、冒険者は魅力的なのか。
これまで様々な質問をされ、アドバイスを求められてきたアスト。
しかし、冒険者という職業のどこが魅力的なのか、という質問はあまりされたことがない、
「噂で聞いたところによると、マスターは自身の本業はバーテンダーだと公言しているのだろう」
(そこまで知ってるのか。もしかして、割と調べられてる?)
これまで来店してきた初客の中では、中々にアストの事を知っている男。
「……冒険者の方が、稼げるからか?」
「上の方に登れば登るほど、懐に入ってくるお金が増えるのは間違いありませんね。ただ、私の場合はなるべく提供するカクテル、料理を安く提供したいという思いがあります。っと、お待たせしました」
注文された三種の料理がカウンターに置かれ……男は湯気が立ち上る暖かい料理を見て、思わず涎を零しそうになる。
「…………っ…………っ……………………」
三つの料理を一口ずつ食べ、男は再度メニューの横に書かれている金額に目を向けた。
(この味で、この値段、なのか……)
男はアストの思いに納得し、感嘆さえ覚えた。
「……納得だ。して、先程の質問に戻りたい。冒険者という職業は、魅力的なのかと」
「個人的な意見にはなりますが、冒険者とはまさに出会いと別れ、そしてまた出会いを続けていく職業です。一つの街で活動していても、多くの方と関わっていくでしょう」
「…………」
「何度も街から街へ移動する、私の様なタイプの冒険者であれば、その数は更に増えます。旅立たなければ出会えない縁というものがございます」
同業者だけではなく、様々な客と出会って来たアストの言葉には、初対面の客が相手でも納得させる力があった。
「その街々で出会った者たちと共に戦い、街に帰ってから共に呑んで騒ぐ……冒険者にとって日常ではありますが、命懸けで戦う日々が多いからこそ、そういった日常が更に楽しく感じるのかと」
「…………そうか。確かに、覚えがある」
(ふむ。やっぱり、職業は戦闘に関わっていたか。けど、結構強いよな? 冒険者で例えるなら確実にBランク…………でも、貴族だよな?)
高位騎士と呼ばれる存在なのか? そう思いながら会話を続けていくと……頑張って驚きを隠さなければならないほど、強烈な衝撃を体験。
「そういえばまだ自己紹介をしていなかったな。私はルンバ―ト・ボルド。元騎士で現在はこの街の未来の騎士を育成する学園で教師を務めている」
(……待って、待て待て待て。もしかしなくても、そう言うことなの、か?)
アストの頭の中で、色々と合致し始めた。
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