第46話 越えてきた数が違う

「ま、マスターはフランツ先生の事を知ってるのですか!?」


「え、えぇ。この前お客様として店に来ていただいたので」


「なるほど……そうでしたか」


普通に考えれば、珍しい事ではない。

冒険者でなくとも……カインたちの様な学生まで来れる。


あまり一般人には知られていないが、アストの店……ミーティアでは一般人の客であってもある程度飲み食い出来る値段。


基本的に誰でも来店できる店ということを考えれば、教師から冒険者に転職したフランツが来店していてもおかしいことではない。


「……フランツ先生は、お元気だったでしょうか」


「はい。少しお悩みはあったようですが、それでも冒険者として活動出来ることを大変喜んでいたかと」


「…………元気なら、なによりです」


(フランツさん……本当に、生徒たちから好かれていますね)


四人の表情を見る限り、とても心の底かっらフランツが教師から冒険者に転職したことを喜んでいる様には見えない。


「フランツさんは、やはり人気の教師だったのですか?」


「そうですね。強くて……誰に対しても平等で、私たちにとっては気軽に相談できる兄の様な存在でした」


「カインの言う通りだな。普段から笑ってるから、新入生とかには嘗められやすいみたいだが、本当に強いんだ。どう考えても、今から現役復帰できるぐらい強い」


「僕たちが複数人で挑んでも、結局一度も敵わなかったもんね」


(複数人、とはそこにカイン様も入ってるのか? そう考えると、やはりフランツさんは思っていた通り、真の強者のようだな)


視る目はこれまでの経験で養われており、フランツが客として店に訪れた時から平均以上の強さを有していることは解っていたが、生の戦いっぷりは見たことがなかったため、細かいところまでは知らなかった。


「フランツ先生が平民出身だからって、生意気な態度で反抗した生徒が何人もいたけど、全員もれなく返り討ちにあってたものね」


「元騎士となれば、より強い殺気を持つ者たちとの修羅場を潜り抜けてきたのでしょう。それを考えれば、才溢れる学生たちがどれだけ生意気な態度を取っても……彼の心に恐怖を与えることは出来ないかと」


「実戦経験の有無、か。つっても、俺らもそれなりに戦って来てると思うんだが……マスター、さっきと似た様な質問になるが、俺たちとフランツ先生はどういった部分が違うんだ」


「…………戦闘者といった部分で考えると、やはり潜り抜けてきた修羅場の数、自身に向けられてきた殺気……加えて、悪意の数。言葉は悪くなりますが、フランツさんがこれまでに体験してきたそれらの経験を考えると、学生が発するものなどは、本当に悪ガキのそれと変わらないかと」


「悪ガキ……はっはっは!!!! そうか、そうだな……ぶっちゃけ、本当に面倒な大人たちの世界はまだ知らねぇわけだしな」


学校は社会の縮図。


そういった言葉は……この世界にもある。


しかし、実際に学生という立場から社会人……大人という立場になれば、学園は社会の縮図だった、それだけの言葉に収まるほど変化は温くない。


加えてフランツは平民という立場から、貴族という自分とは本当の意味で立場が違う者たちが大半の世界へと足を踏み入れた。


自分が貴族の令息だから偉そうな態度を取り、威圧して虎の威を借りるようとするクソガキなど、これまで何度も何度も見て対応してきた。


「…………そう思うと、まだまだフランツ先生から学びたかったな……はぁ~~~~。マジで将来は冒険者になろうかな」


「……副業でも一応冒険者として活動している身としては、お金にさえ余裕があるのであれば、そちらの冒険者の道に進むのもお客様にとって一つの道かとは思います」


「騎士でも武器のあれこれで悩みはするけど、やっぱり冒険者って金に苦労するのか」


「一定のランクに上がる、一定の金額以上の額を定期的に稼げるようになれば話は別ですが、冒険者になりたてのルーキーたちはそこに至るまで中々苦労します」


冒険者の中には、貴族の坊ちゃんや嬢ちゃんが道楽で俺たちの世界に来るんじゃねぇ!!! という少々面倒な考えを持っている者がいる。


アストはそんな彼らの考えが……多少解らなくもない。

ただ、職業選択の自由は彼ら彼女たちにもあると思っているため、貴族の子供たちが冒険者の道を選ぶことを激しく反対しようとは思わない。


「ただ、貴族出身の肩が冒険者になると、その……多少面倒なことにはなるかと」


「帰ってママもおっぱいでも飲んでなって言われるのか?」


「…………一応、噂で耳にするだけの出来事ではないと、言わせていただきます」


貴族出身の彼らには、まず言われることがないであろう言葉。

しかし冒険者たちは……ならず者のあつまり、と言われていることもあり、そういった態度を取る俺カッケー!!! と思っている勘違い野郎も絶滅危惧種……とは言えない程度に残っている。

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