第4話 揺らして揺らす
「チっ!! わりぃのは俺らもだ。クソったれが……」
視界の先には十以上……合計、約三十体のリザードマンたちがアストたちに狙いを定めていた。
(あっちゃぁ~~~~…………こいつは、ちょっと不味いな)
心の中で不味い不味いと思いながらも、アストの顔は全く絶望に染まっていなかった。
(不味いっちゃ不味いが、リザードマンだからか、メイジとかの上位種がいないのは幸いだな。上位種は……奥のリーダーだけか)
若干震える彼らの肩を叩き、一歩前に出るアスト。
「三人とも、俺がやつらの動きを止めていく。俺がやつらの頭部に触れたら合図だ」
「お、おい。アスト…………死ぬ気じゃねぇだろうな」
誘ったパーティーのリーダーは、それだけは許せない。
自分が今日、アストに一緒にモンスターの討伐依頼を受けないか誘った。
そんな自分には、アストだけでも生き残って街に戻らせる義務があると思っていた。
「ふっ……当然だろ。この戦いが終わったら、俺の店で乾杯だ。だから、そっちこそうっかり死ぬなよ」
そう言うと、アストは亜空間から取り出した腕輪……マジックアイテムと呼ばれる、特別な効果が付与されたアイテムを装着。
肉体の能力を向上させる強化スキルを発動し……駆け出した。
「シャッシャッシャ!!!!!」
飛んで火にいる夏の虫。
わざわざ自分たちに向かって走り出し、死に来た人間を嘲笑いながら、魔力を纏ったロングソードを振り下ろすリザードマン。
「遅い」
斬撃をあっさりと躱したアストは腕を伸ばし……指先をリザードマンの頭に振れた。
「シェイク」
「っ!!!???」
次の瞬間、リザードマンは次の斬撃を放とうと、ロングソードを振り上げることが出来ず、ふらふらと揺れた。
「っ!! うぉらああああッ!!!!」
これがアストが言っていた合図だと判断し、リーダーの男は決定的な隙を見逃さず全力でロングソードを振り下ろし、首を刎ね飛ばした。
「シャっ!!??」
「ジャジャっ!?」
味方が訳解からない死に方をした。
首を斬られたから死んだ。
それは解る……それは解るが、その前の行動が訳解らなかった。
「シェイク、シェイク、シェイク、っと、シェイク、シェイク」
アストは淡々と動き続け、振るわれる斬撃を……魔力による斬撃刃を躱し、頭部に指先を触れ、その度にリザードマンの脳を揺らしていく。
リザードマンの見た目は、確かに人間と違う。
人型ではあるが、人間ではなくモンスターという存在。
ただ、体の構造上……脳という重要な器官は存在する。
アストはそこにスキル、カクテルの技の一つ……シェイクを与えた。
本来は両手を挟んで発動する技ではあるが、冒険者として活動を始める前からモンスターとの戦闘で使用しており、がっつり頭を掴めばフルシェイクで脳を破壊することも出来るが……指を触れただけでも、頭の内部に振動を伝えることが出来る。
(おいおいおいおい!!! 流石に頼もし過ぎんだろ!!!!!!)
ズル過ぎる技? そう思う者がいても、不思議ではないだろう。
ただ、いくらシェイクを使い続けて何年も経っているとはいえ、さすがに狙った箇所に触れなければ揺さぶることは出来ない。
そして腕を振れたとしても、一瞬だけでは振動を脳に伝えることは出来ないため、速攻で大きな隙を生み出すには頭部を触れるしかない。
「ジャァアアアアアアッ!!!!」
「リーダーが高みの見物を続けないのは、立派だな」
タイミングを合わせられてしまったアストは慌てることなくそれなりに良い値段がするロングソードを抜剣。
振り下ろされた斬撃を防ぐ……のではなく、そのまま受け流して懐に入った。
「シェイク」
「っ!!!???」
「ぬぅおっしゃッ!!!!!」
防御、引き付け約を担う大男の冒険者が振り下ろした戦斧により、頭部を切断され、リーダーは死亡。
その後もアストがリザードマンの脳を揺らし続け……なんとか無事、約三十体のリザードマンを討伐することに成功した。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……く、クソ焦ったぜ」
パーティーのリーダーは地面に腰を下ろし、完全に緊張の糸が解けた状態となった。
「つーか、アスト……ありゃなんだ?」
「俺のとっておきだ」
「そ、そうか」
切り札なのだと教えてくれた。
そこまでしか教えてくれなかったという事は、知人友人とはいえあまり教えたくない手札だということ。
「助かったよアスト~~~。今日お店で一杯呑むからね~~~~~」
「ありがとう。とりあえず……それよりも先に、まず解体しようか」
合計で三十体弱の死体。
リザードマンは人間の男性の平均よりも一回り……二回りほど大きい個体も珍しくないため、解体するのにそれなりに時間が掛かる。
まずアストが亜空間にリザードマンの死体を放り込んでいき、四人で解体していく。
遭遇した時間が昼より手前だったこともあり、日が暮れるまで解体を行うということはなかったが……昼飯を食べる時間はなかった。
「え、ええええええええ~~~~~~~~~っ!!!!!????? ちょ、ちょっと待ってくださ~~~い!!!!」
四人はリザードマンの鱗、六体分を回収という依頼を達成し、その他の売れる素材はギルドに買い取ってもらうのだが、そのあまりの多さに担当した受付嬢は慌てて応援を呼びに行き……その間、彼らは同業者たちから注目を浴びる続けることになった。
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