第3話 あまり痛くはない?

この異世界にはスキルと呼ばれる特別な力があり、修練次第で得られる後天的なスキル……一定の才を持つ者にしか得られないスキルもある。


別世界からの転生したアストは特別なスキルを二つ持っていた。

それがネットスーパーとカクテル。


前世では多少、自分が体験した経験に類似する小説を読んだことがあり、神という存在から授けられたのではないか……と、思いはしたものの、その肝心の神には出会っていないため、詳細は不明。


「恨まれるって……なんでだよ」


「他の店より、メニューを安くしてるからに決まってるだろ」


「そいつは…………恨まれそうだな」


「だろ」


どんなバカであったとしても、その短い説明だけで、少し考えれば何故同業者に恨まれるか解らないことはない。


他の店と比べてメニューの値段を抑えられる理由は……ネットスーパーという、文字通りのスキルに異世界の金を投入し、カクテルを作るのに必要な材料などを安く購入している。


他のバーで販売されているカクテルの値段は、決して貴族だけの飲み物や冒険者の中でも小金持ちの連中しか呑めないほどの高級ドリンク、ではない。


ただ、安く吞めるなら安く吞むのに越したことはないという考えを持つ者は多い。


「だから、同業者たちの邪魔にならない程度のペースで移動してるんだ」


「……経営者? ってのも大変だなぁ~」


「俺はたくさんの客と話せて、最高の一杯を提供したい。それが出来れば良いと思ってるから、そんなに気にはしてないよ」


ネットスーパーの買取以外の能力を利用することで、アストは冒険者として並みのCランク冒険者以上に稼いでいた。


そのため、バーに訪れる客の数がぼちぼちであったとしても、経営に困ることは全くなかった。


「アストは大人ね~~~。でもさ、そうやって転々と移動してたりしても、嫌がらせとかされたりしないの?」


「あることにはあるな。でもさ、こう…………人の心理って単純だからな」


冒険者は単純だからな、と言いかけたところでぐっと飲み込み、言葉を変えた。


「他の店より安い値段で呑めるなら、別にどんな噂があっても構わないって思いそうだろ……特にお酒が大好きな人達は」


「うん、解らなくもねぇな。つか、こうして昼間は俺たちとかと真面目に働いてるんだし、くそみたいな評判を流したところで、俺たち冒険者からすれば関係ねぇって話しだよな~~」


同じCランクの冒険者でありながら、自分たちよりも稼いでいるアストに対して、彼らは多少は嫉妬心を持っていた。


しかし、一度一緒に仕事をしてみれば本当に気の良い奴ということが解り、そんな小さな嫉妬はあっさりと消え去った。


「そう言ってくれると嬉しいく思う。とはいえ、いくら同業者があれこれ噂を流したとはいえ、バーの店主が流すとなると……あんまり力がないのも同然だからな」


多数の商売を手掛ける大きな商会は、貴族以上の力を持っている組織も決して少なくない。


だが、バーを経営している店主は主に自身の城であるバーしか経営していない。

オーナーがそれなりの商会ということはあるにはあるが……バーで得られる利益はさほど多くない。


エロい服を着たエロいお姉ちゃんと呑める店などの利益に関しては、バックに付いている黒い組織の皆さんが敏感に反応する場合もあるが……バーの利益に関しては、商会であっても黒い組織であっても、そこまで気にしない。


一度バーの店主がオーナーが商会のトップである人物に、クソ生意気インチキ小僧に罰を!!!! 的な申し出をしたが、トップが軽くアストを調べたところ……商売を始めた時点で一つの街にまず半年以上滞在することは絶対にない。


基本的に一か月から数か月ほどで別の街に移っており、商会のトップである人物はアストが色々と意味を理解してそういった行動を取ってるのだと直ぐに把握。


バーの店主にそんな事を気にしてる暇があれば腕を磨けと一喝し、この件に関しては何事もなく終わった。


「っと、今日は早く仕事が終わるかもね」


斥候である女性冒険者が数体のリザードマンが近寄ってくるのを察知。


「向こうから来てくれるったぁ、ありがてぇじゃねぇの。アスト、この前みたいに臨機応変? って感じで頼むぜ」


「あぁ、任せてくれ」


現れたリザードマンの数が三体なのに対し、アストを含めた冒険者の数は四人。


全員がCランクの冒険者ではあるが、リザードマンもモンスターランクではCに該当する強者であるため、全く油断出来ない強敵。


(リザードマン三体はちょっとあれだが、パーティーのバランスは良いから、遠距離からの攻撃と、動きを止めた際の確殺。もしくは妨害……それが出来れば十分かな)


今日も特に何も問題無く副業を終え、間食を済ませたら本業に移れる……そう思っていたが、冒険者という副業は思った以上に予想外の展開が起こりやすい。



「ぃよし! 終わった終わった。んじゃ、とっと解体しちまおうぜ、って……おい、んな真っ青な顔してどうしたんだよ」


「……ごめん。私の、せいだ」


斥候担当の女性冒険者は真っ青な顔をしながら、とある方向を指さした。

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