第2話 本当の強さとは

村を出て、都会で冒険者として活躍することを夢見ていたが、結果は現実を見せ付けられる日々が続く。


村に戻ろうかと思ったが、親の反対を振り切って出たため、戻ろうと思っても戻れない。

でも、都会に出てからは理想が崩れ、誠に才がある同世代の者の力を見て……いつの間にか前に進もうとする意志すら消えていた。


「このまま、終わりたくないって気持ちは、あります。ただ……自信が、なくて」


「なるほど」


悔しい、負けたくないという気持ちは良く解る。


前世では才能がなかった訳ではないが、実際の動きを見れば即真似出来るほど器用ではなく、何度も失敗を重ねてきた。


今世では……誰がくれたのかは解らないが、素敵なスキル……力を授かったことで、上手く生きられているという自覚はある。


しかし、冒険者として嘗められたくないといった気持ちなども解る。


「……自分が思うに、見た動きを即座に真似られて、技術とも言える思考を自分のものに出来る……そういった天賦の才を持つ者たち……彼ら以外が持つ本当の才能は、努力を続けられるか否かだと」


「努力を続けられるか否か、ですか」


「その通りです。どこかで区切りを付けなければならない日は、いつか来てしまいまうと思います。ただ……そこに辿り着くまでに、納得出来るほど努力を積み重ねてきた場合は……迷うことなく、区切りを付けることができる……と、冒険者としての先輩が口にしてました」


英雄を目指したからといって、全員が英雄になれるのか?

答えは否。


世の中そんなに甘くない。

全員が同じ訓練を同じ時間だけ行っても、同じ結果に辿り着くとは限らない。

現実は残酷ではあるが……それでも、クロンバにはまだ頑張れる力が残っている。


「お客さんは、もう自分の全てを出し切ったと誇れるほど、頑張りましたか?」


「全て、は………………いいえ。出し切って、ませんね」


「勿論、口では何とでも言える。それが解らないほど楽観的な考えは持っていません。しかし……前を向いて頑張らなければ、目指した目標に進めない」


何があっても、そこだけは変わらない事実を伝えられたクロンバは……飲み干す勢いでジントニックを呑んだ。


(エールにはあまり感じられない、強い酸味…………でも、知ってる)


これまで幾度となく味わって来た辛さに似ていた。


「これは個人的な感想ですが、泥にまみれも前に進んで来た強者程……本当の強さを持っていると、思います」


「…………っ」


残っていたジントニックを全て呑み干し、再度強い酸味を感じながらも……意外と後味がスッキリしている事に気付く。


(……まだ、俺の中にも、諦めたくないって気持ちが残ってるって、ことか)


これからも辛い経験を重ねるかもしれない。

だが、それでもあの日憧れた目標を追い続けたいという自身の気持ちに気付けた。


「店主、美味いですね。この……カクテル?」


「本当ですか。ありがとうございます」


ジントニックのカクテル言葉は……強い意志。


クロンバの中に、憧れに追い付くまで諦めないという着火剤に火が付き、その火は彼が心の底から満足だと思える日まで……決して消えることはなかった。



(今日はどんな依頼を受けようかな~~~)


翌日、アストは冒険者として冒険者ギルドに出勤しており、依頼書が張られているクエストボードの前にいた。


「っし、行くぞ!!」


「おう!!!!」


(ん、あれは…………ふふ、良い顔じゃなか)


同世代の冒険者たちと共に気合を入れ、仕事へ向かうクロンバを見かけ……その引き締まった面を見て、ふっと頬が緩んだ。


ベテラン達が見れば「いったいお前は幾つなんだよ」とツッコみたくなる顔ではあるが、アストは全く気にしていない。


「よぅ、アスト。良かったら一緒にこの依頼を受けないか?」


「えぇっと……リザードマン六体の討伐、ついでに鱗の回収、か。良いぞ」


現在活動している街に訪れてから知り合った冒険者たちに声を掛けられ、本日の

仕事が決定。


受付嬢に手続きを行ってもらい、早速出発。


「そういえば、昨日も夜は……あれだ、バーテンダー? をしてたのか?」


パーティーのリーダーである二十代前半の男が、昨日も仕事をしてたのか尋ね……アストは当然といった顔で頷く。


「あぁ、そうだな。俺にとって、バーテンダーの方が本職だからな」


「…………そこに関しては、マジで訳解かんねぇって感じだぜ」


一緒に仕事をしたことがあるからこそ、解る。

今はまだCランクの冒険者ではあるが、絶対に今よりも上にいく存在だと。


「リーダーは酔い潰れてたから知らなかったのよね。アストが造るカクテルは安いのにどれも美味しいのよ」


「そうだな。いつもはエールこそが最高だと思っているが、良いものを知ったと感動したもんだ……アスト、ずっとこの街で活動しないか?」


「嬉しい申し出だけど、それは出来ないかな。あんまり同じ街でバーテンダーとして活動し続けると、同業者たちに恨まれてしまうからな」


女性冒険者が口にした通り、アストが作るカクテルは美味い上に安い。

その安さには……アストが所有するスキルが関係していた。

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