異世界バーテンダー。冒険者が副業で、バーテンダーが本業ですので、お間違いなく。
Gai
第1話 転生しても同じ道を
(ヤバい……俺、は……死ぬのか?)
不慮の事故に遭遇し、意識が朦朧としかけている男の名は
(ようやく、これからだって、いうの、に……)
二十歳を迎えて酒に、カクテルに出会い、バーでバイトを始めた。
そして大学卒業を迎え、二十二歳……新社会人として新しいスタートを切りだし、本格的にバーテンダーとして活動を始められるタイミングで……この世を去ってしまった。
(……あれ、俺は死んだんじゃ……なかったの、か?)
自分は不慮の事故に合い、死んだ。
自分の命が蠟燭に灯されていた日の如く、消えたのを感じた。
だが、何故か……再び意識が芽生えた。
しかし…………以前まで決定的に違うところがあった。
(上手く、体が動かない……って、誰だこの人たち!!!???)
視界には知らない大人達が何やら感極まった表情を浮かべており、涙を流している者もいた。
そんな周囲の状況をざっと数十分観察し終えた錬……改め、アストは自身が別の世界に転生したことを把握した。
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(さてさて、今日は何人来てくれるかな)
既に時刻は七時を過ぎており、夕食を食べ終わっている人もいる時間帯。
そんな時間帯に……通りに一つの屋台があった。
この世界、異世界で屋台の存在はそこまで珍しくはなく、昼間には多くの屋台で料理人たちが商売をしている。
ただ、夕食時から少し遅れた時間帯に屋台を出す者は、まずいない。
「すいません、ここってバー、なんですか?」
「いらっしゃい。えぇ、そうですよ。屋台バーです」
「屋台バー……って、あなたは……お、俺と同じ冒険者、ですよね」
偶々アストが経営する屋台バーに訪れた青年は、冒険者というモンスターという凶悪な怪物と戦い、街から街へ移動する商人を盗賊などから守り、薬草など巡り巡って自分たちの仕事に役立つ薬草などを採集する職業。
屋台バー、ミーティアに訪れた青年の名はクロンバ。
冒険者の中でもEランク……まだケツに殻が付いたルーキーであり、豪遊して浴びるほど酒を呑むほど金を持ってはいない。
だが、ふと視界に入った屋台が気になった。
「はい。昼間は冒険者として働き、夜はこうして屋台でバーテンダーとして働いています。こちらおしぼりとメニュー表になります」
「あ、ありがとうございます」
同じ冒険者……とは思えないほど丁寧な対応に、少し戸惑いながら暖かいおしぼりとメニュー表を受けった。
(………………………………な、何を頼んだらいいのか、全然解らない!!!!)
クロンバは酒を呑める年齢であり、これまでもエールならば何杯も呑んだことはあるが、バーという店に入ったことがなく、カクテルを呑んだことがなかった。
「お客さん、もしかしてバーは初めてですか?」
「う、うっす。エールなら何杯も呑んだことがあるんですけど、カクテル? ってやつは吞んだことがなくて」
「なるほどなるほど。では、今日は初バーということですね。では、記念に私から一杯、無料で提供しましょう」
「あ、ありがとうございます」
バーに初めて訪れる、初めてカクテルを呑む。
そんな経験を自分の店で体験してくれる。
それはアストにとって非常に嬉しい出来事であった。
心の中でニコニコと笑みを浮かべながら、スムーズな流れで制作を行う。
ジン、トニックウォーター、ライムと氷を用意。
氷を入れたタンブラーにジンを注ぎ、キンキンに冷えたトニックウォーターで満たし……バースプーンといった細長い道具でステア(材料をかき交ぜる)する。
最後に刻んだライムを添えれば……ジントニックの出来上がり。
「お待たせしました。こちらジントニックになります」
透明感が強いが……ただの水ではないことが一目で解る。
「い、いただきます」
初めてカクテルを口に入れ、喉に流し込んだクロンバの感想は……エールとはまるで違う、であった。
(こ、これが……アルコール、なのか? ていうか、むっちゃ冷えてやがる!!??)
いつも吞むエールも……一応、マジックアイテムという道具によって冷やされてはいるが、今喉に流したジントニックほどキンキンに冷えてはおらず、この冷えたカクテルを吞めるだけでも決して小さくない感動を覚えた。
「あ、あんた……店主は、魔法使いタイプなのか?」
仕事終わりの冒険者たちが仕事を求める場、ギルドのロビーで見たアストの格好は後衛の魔法使いというよりも、前衛の軽戦士に見えた。
しかし、水……もしくは氷の魔法を会得しているか、口かなマジックアイテムを使用しているのか……どちらかでなければ、タンブラーに入っている氷も説明がつかない。
「一応後衛としても戦えますが、前衛の方が得意ではありますね」
「そうなん、ですね……」
もう一口ジントニックを呑み、口の中に広がる悪くはない酸味を感じながら……初対面であるアストに対し、冒険者になってからの愚痴を零し始めた。
アストはそれを特に不満に思うことはなく、寧ろ優しい顔で聞き続けた。
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