第3話 ニコルから泥棒扱いされました

 それ以来、ハーマンが私の身体に触れてくることもなくなったのでホッとしていました。ところが、ニコルのお部屋を掃除し終わったある日のことです。


「私のネックレスがないわ。お父様からお誕生日にもらったものよ」


 ひときわ大きな声が屋敷中に響き渡りました。ニコルが私に人差し指をビシッと向けながら「カトリーヌが犯人に決まっているわ」と言ったのです。途端に使用人たちが騒ぎだし、もちろんその場には伯父様とモクレール侯爵夫人もいました。


「ネックレスなんて盗っていません」


「絶対、カトリーヌよ。だって、カトリーヌは私が羨ましいはずだもの。いつも着飾って宝飾品を身につけている私に嫉妬していたのに決まっているわ。だって、カトリーヌは宝石なんて一個も持っていないでしょう?」


「宝石ならお母様の形見がいくつかありますし、人の物を盗むなんてしません」


 私は本当にそんなネックレスなど盗ってはいません。けれど、ニコルは私の部屋を探し回り、机の引き出しの奥からネックレスを見つけ出しました。


「嘘つき! 引き出しに入っていたこのネックレスは私の物よ。カトリーヌは泥棒のうえに嘘つきだわ」


「私は知りません。引き出しにネックレスなんて入れた覚えは全くありません」


「あら、では、無意識に窃盗をしでかしたわけね? カトリーヌは生まれつきの泥棒なのよ。ところで、私への謝罪とお詫びに、持っている宝石を私にちょうだい。慰謝料の代わりにもらってあげるわ」

「嫌です」


 私が宝石を差し出さないとわかると、モクレール侯爵夫人までが手伝って、私の部屋を探し回り宝石箱を見つけだします。


「返してください。それはお母様の形見です」


 モクレール侯爵夫人は、私が宝石箱を取り返そうとするのを阻止し、伯父様もいる前で宝石箱を開けました。なかにはエメラルドやルビーのネックレスにイヤリングなどが綺麗に収められています。そこには真珠などもあり、艶やかな輝きを放っていました。


「ほぉーー。これは以前、母上や父上がサーシャにプレゼントした宝石だな。当時のモクレール侯爵家の事業の業績は驚くほど良かったからなぁ。それに生前の父上たちはサーシャに甘かった。今のモクレール侯爵家では到底買えない品質のものばかりだぞ。よくサーシャは売らずに持っていたもんだ」


「まぁ、これは本当に上等な宝石だこと。こんな小娘には相応しくないものですよ。私がもらってあげますわ」


「えぇーー。ずるいわ、お母様。私が見つけたのだから私のものだわ」


「だったら、この真珠をあげましょうね。残りの宝石は私が使います。子供にはまだ早いですし、なくしたら大変ですもの。いずれ、ニコルの物になるのだから我慢しなさい」


「いや、これは転売してお金に換えたほうが良いと思う。かなり高値で売れるに違いないぞ」


 伯父様たちは私を無視して、どんどん話を進めていくのでした。


「それはお母様が私に残してくれたものです」


 勇気を出してそう言うと、伯父様は私を罵倒します。


「ここに置かせてもらっているだけでもありがたいと思いなさい。毎日の食事や着る物に困らないのは、私がお前を引き取ってやったからだぞ。恩知らずな欲張り娘めっ!」


 それから15才になるまでメイドの仕事をしながらモクレール侯爵家で過ごしました。使用人たちからは避けられ、伯父様の家族たちからは意地悪をされ罵倒される日々でした。




 私とニコルが15才になってすぐのことです。魔法庁から魔力鑑定士が訪ねてきました。私たちの魔力測定を行うためです。この国では15歳になると個々の魔力が開花します。大抵の平民は魔力を持たず、持っていたとしてもごくわずかな魔力しか宿していない者が多いです。一方で、貴族階級は魔力を開花させる確率が高く、特に高位の貴族ほど強力な魔力を秘めていると言われていました。


「カトリーヌや。お前はずっとここにいなさい。部屋も日当たりの良い場所に移らせよう。早急にドレスを仕立てないといけない。メイド服なんて着させている場合じゃなかった。こりゃ、忙しくなるぞ」


 伯父様やモクレール侯爵夫人が手のひらを返したように態度を変えたのは、私に膨大な魔力量が宿っていることがわかったからなのでした。

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