032 愛の証明【鏖殺恋慕】


「私は……私はッ! 貴方達を殺して、刻印深度を上げてやるッッ!!」

 クリスタルが叫んだ。叫んだ彼女は地を蹴り、自身へと迫る吸血鬼の集団へと身を投じた。


                ◇◆◇◆◇


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 ステータス

 名前:クリスタル・ブラッドプール

 年齢:9

 レベル:40

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 ◆ステータス(ポイント残:0 使用済み:205 初期10 獲得195)

 力:0(+20) 体:20(+20) 器:0(+20) =20

 速:40(+20) 命:0(+2)  神:0(+20) =60

 知:20(+20) 魔:40(+30) 精:20(+20)=100

 感:15(+20) 運:0(+20) 魅:10(+20) =25

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 ◆魔法刻印【真祖吸血鬼】 深度【Ⅱ】

  ▽第一セットスキル:『真祖吸血鬼』

   ・『身体強化【Ⅴ】』――全ステータスを特大上昇させる。

   ・『吸血鬼の祖【Ⅴ】』――神聖特攻Ⅴと生命特攻Ⅴを持ち、日光や十字架などの一般的な吸血種の弱点を持たない。

   ・『眷属生成【Ⅲ】』――取得スキルに合わせた眷属を生成可能。(上限10)(個体ごと設定ステータス合計100)

   ・『邪眼【Ⅲ】』――視線を合わせた相手に複数の状態異常を与えることが可能(眩惑・発狂・魅了)。

   ・『吸血鬼の変身』――霧、蝙蝠、狼などに変身可能。

   参照ステータス:【知力】【魔力】 消費コスト:【魔力】


  ▽第二セットスキル:『影魔法』

   ・『魔力強化【Ⅲ】』――魔力ステータスを中上昇させる。

   ・『影感知』――影を感知可能。

   ・『影操作』――影の形状を操作可能。  

   参照ステータス:【知力】【魔力】 消費コスト:【魔力】

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 ◆スキル構造:

  ▽『真祖吸血鬼』

  ――スキル特性1『吸血魔法』

  ・耐久を無視して『魔ステータス×1』の魔法属性のダメージを与える。

  ※例:牙による吸血時に相手の装甲である体力ステータスを無効化する。魔法属性ダメージには相手の精神ステータス対抗が行われる。

  ――スキル特性2『生命転換』

  ・吸血で与えたダメージを自身のHPに変換する。

  ――スキル特性3『スキルリンク』

  ・他のスキルにこのスキルの効果を付与する。

  ――スキル特性4『魔力転換』

  ・吸血で与えたダメージを自身のMPに変換する。


  ▽『影魔法』

  ――スキル特性1『影の矢』

  ・『魔ステータス×2』の威力を持つ闇属性の魔法の矢を『1本』生成し、射出する。

  ――スキル特性2『影潜り』

  ・影に潜ることができる。

  ――スキル特性3『影の物質化』

  ・影を物質化させることができる。

  ・『影の矢』の属性を【魔法】から【物理】に変更できる。

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 ◆称号

 『貴種吸血鬼』:真祖吸血鬼の魔法刻印を獲得。

 『ジャイアントキリング』:自身より圧倒的に格上の存在を打倒した証。自身よりレベルが高い相手へのダメージが25%増加する。

 『疾風迅雷』:難易度の高い戦闘で一秒以内で勝利を収めた証。相手に与える最初のダメージを50%増加する。

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 ◆備考マスクデータ

 ・この情報を閲覧するには権限が必要です。貴方は権限を保持していません。


 ・肉体を構成する血液がセイメイのものだけに変わっています。

 ・吸血回数、吸血量、吸血した血液の質、体内の血液量から内部好感度の増加が行われています。(好感度5500)

 ・セイメイのためならば肉親を含めた全人類を殺害できる程度の執着を抱いています。


 ――――――――――◇◆◇――――――――――


                ◇◆◇◆◇


 戦場は夜の闇が支配する廃墟内の、ぽっかりと空間の開けた、何もない広場だった。

 先手はクリスタルだった。小さな少女の手から次々と影魔法の矢が放たれると、それらは防御など関係なくあっけなく吸血鬼たちを貫いていく。

 加えてアイオライトほどの強さを持っている者は混じっていなかったのか。吸血鬼たちはクリスタルが魔法の矢を放てば、クリスタルの眷属の攻撃が混じっていないものでも一撃で殺される者が多かった。

「な、な、なぜだ! 我ら吸血鬼が真祖とはいえ子供に! こんなにもあっけなく!」

「お、お嬢様! おやめください!!」

「う、うわあああああああああ! やめ、やめてくれえええええええ!!」

 影の魔法は吸血鬼に着弾するとその体内へと潜り込み、心臓へ影の茨を這わせると、一撃で貫きクリティカル、影の薔薇を咲かせ、殺していく。

 影魔法と吸血魔法を融合させた、心臓を貫き影の薔薇を咲かせるクリスタルのオリジナル魔法――『散華』。

 吸血鬼に限らず、生物は心臓を破壊されるとHPに大ダメージを負う。

 加えてこの魔法によるダメージは継続ダメージや確定クリティカルなどの付属効果によって、致命傷以上に致命的・・・な傷となる。

 散華を回避するためには薔薇が咲く前に影魔法を破壊するか、攻撃を受けても耐えられるだけのHPやスキルが必要になる。

(うまくいってるわね)

 アイオライトを一撃で殺せたことから自信は深めていたが、クリスタルは魔物相手に使っていた自身の魔法が、無数の吸血鬼相手でも十分に威力を発揮するのを見て、深まっていた自信を確固たるものにしていた。

(それにそれなりの相手と戦ってるせいか、ステータスの上昇に肉体が慣れていくわね)

 レベルアップで上昇させたステータスにもこうして同輩の吸血鬼との戦闘でクリスタルは慣れていく。

 最初はただ獣のように、近くの敵に魔法を放つだけだったそれも、次第に優先順位を決めるなどの工夫が交じる様になっていく。


 ――クリスタルは、レベルを40まで上げていた。


 上げたステータスは、吸血によるHP回復が有効に働くように。また一撃死への警戒のため、最大HPが増加し、物理攻撃への耐性を高める体力ステータスを20まで。

 魅了や混乱などの状態異常に加え、魔法攻撃に対抗できるよう、精神ステータスも20に上げた。

 また反応速度を高めるべく速度を40に。魔法刻印に備わっている補正を含めればこれで速度は60だ。相当なことがなければ先手を取られることはないだろう。

 最後に感知に15。補正を加えれば数値は35だ。

 35もあれば、感知ステータスの高い者が敵対者にいたとしても、自身の感知で未来予知にも似た直感を防ぐことは可能だろう。

(特化型は、いないと思うけど……)

 とはいえ少なくとも35もあれば、クリスタルのすべての動きを読まれて完封されるような事態は防げる。

 もちろん父が寄越してきた連中の中に感知特化な存在がいる可能性もなくはないが、そういう存在は打撃力に欠けるものだ。

 戦場に出てきたところで補正を加えれば体力は40に、精神が40にもなったクリスタルを殺すことはできない。

(懸念は感知結果を共有できるスキル持ちがいる場合だけど……)

 まぁいないか、というのがクリスタルの結論だ。そもそも戦闘力が欠如する感知共有持ちなんかは戦闘能力至上主義の吸血鬼たちの中では存在を軽視されるためにレベルが低い傾向にある。護衛の必要のある、こんな危険な場所には連れてこられない。

 護衛の必要のない強い感知特化がいる可能性も考えたが自分を舐めきっていた八血陣のアイオライト・デッドリィが連れてくる配下ならせいぜいか刻印深度Ⅱ程度だろう。

 刻印深度Ⅲのような、アイオライトの本領を守護する重要な役割を与えられる配下を、アイオライトがクリスタルの捜索に動員するわけがなかった。

 ゆえに魅了特化と違って、感知特化の敵を戦場で警戒する必要は薄い。

 もっとも魅了特化なんて存在が吸血鬼部隊の中で味方に殺されずに生き残れるとも思えないのでそちらも警戒はしなくてよかったが。

(それに私だって成長してる。格上の高位吸血鬼であるアイオライトを殺したことで第一スキルの四番目の特性も開放された)

 真祖の吸血鬼の真髄を掴んだというか。下位の吸血鬼どもを掣肘する方法を本能的に体得したとでもいうべきか。

 とにかく開放された特性の四番目にクリスタルが選んだのは『魔力転換』だった。

 これは吸血魔法でダメージを与えた相手から魔力を吸収する効果のある特性だ。

 これによってクリスタルは戦場に敵が存在する限り、ガス欠を気にせず、いくらでも魔法が仕えるようになった。

 腕に絡みつく、九本の触腕から影の魔法が放たれ、次々と自分を探し、保護するために危険な場所にやってきてくれた吸血鬼たちが倒れていく。

 十か二十か。すでに二桁の同胞をクリスタルは倒していた。

 無論、彼らだって強力な吸血鬼たちだ。やられるだけじゃない。魔法刻印に備わった魔法や、近接攻撃による反抗を行おうとするものの。


 ――クリスタルの影が蠢き、盾となって攻撃を防ぐ。


 影の盾。それは薔薇を咲かせるのにも使っている影魔法の特性『影の物質化』の効果だ。

 周囲の吸血鬼たちからは雷や炎、氷などの矢系魔法が飛んでくるものの。周囲の影を操作し、波立たせるようにして壁を生成するとそれらはクリスタルを覆う盾となって迫る魔法のすべてを完璧に防いでいく。

「くそぉ! なんだあれは!!」「影の盾か! 攻撃しろ! 潰せ!!」

 攻撃が苛烈になるも、無駄である。物質化したことで物理の属性を与えられてはいるものの、その正体は魔力値70で生成された影魔法だ。それ以上の魔力をぶつけなければ貫くことも破壊することもできない完全なる盾である。

「ぐあッ!」「うわぁッ!!」

 同時に、影魔法による『影潜り』によって、隠れていた影の盾から気づかれることなく静かに移動したクリスタルが敵中に突如出現し、周囲に影の矢をばら撒いていく。

 影の矢によって貫かれる。吸血鬼は死ぬ。心臓を破壊される。吸血鬼は死ぬ。薔薇の華が咲く。吸血鬼は死んでいく。

 この圧倒的な戦果の裏側には、相手に与える初撃ダメージが50%増加する、クリスタルが新たに得た称号『疾風迅雷』の効果ももちろんそこにはある。

 だがもっと重要なことがあった。


 ――戦意の差だ。


 クリスタルには殺意があった。絶対にこの場の全員を殺し、セイメイのもとへ戻るという決意があった。

 だが吸血鬼たちには戦意が欠けていた。

 戦う覚悟はあった。だが主家の娘を戦闘ができないように痛めつけ、連れ帰る覚悟までしかなかった。

 上役であるアイオライトが死ぬようなことも想定していなかった。

 第一彼らには命数があった。残機があるがゆえに必死になることもできず蹴散らされるがままにやられてしまっていた。

 反面、クリスタルにはあとがなかった。

 保険は仕込んである。だが、保険は保険だ。その保険さえも今無事であるかわからない。

 セイメイがクリスタルの手から完全に逃れる前に、クリスタルは自身の深度を上昇させ、セイメイに自分の価値を認めさせ、ついでに圧倒して絶対に逃げられないようにしなければならないのだ!!

 深度Ⅲ。9歳の子供が抱くには遠い、遠すぎる目標。

 だが彼女は天才だった。戦意に欠けるとはいえ、吸血鬼どうほうの集団に飛び込んで戦うことで、吸血鬼の魔法刻印の真髄を彼女は掴みかけていた。

「おい! やるぞ! このままじゃ吸血鬼どもが全滅しちまうぞ!!」

 遠くに誰かの声が聞こえ、クリスタルはそちらへと注意を向けた。そこにいるのは今戦っているのとは別の吸血鬼――を含めた様々な魔族や殺人鬼――の集団だ。

「なによ、あいつら?」

 クリスタルの疑問の声。あの集団は自分を捜索していた吸血鬼たちとは所属が異なるように見えた。

「いえ、でも、どこかで、見たような」

 彼らの雰囲気に、どこか既視感を見たような感覚に陥るクリスタル。

 顔も、姿かたちも違う。だけれどどこかで見たような者たち。セイメイの前に出会った、あの不気味な男に酷似しているようにも思え、警戒心が高まる。

「いけ! いけいけ!! 攻撃しろ!! 突撃~~!!」

 そうして、捜索部隊を全滅させようとしているクリスタルに向かって吸血鬼や他の魔族、殺人鬼で構成された新手が突っ込んでくる。


 ――カオスオーダーの参戦だ。


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