018 次元精霊
(さぁて、何から始めるべきか)
モンスターの育成を始める、ということでいろいろと準備をすることにする。
俺の周囲をふよふよと浮いている子供の拳サイズの無色精霊を見ながら考える。
(餌は、俺の魔力でいいとして、首輪とか予防接種とかもいらないしな。あとはええと……)
何を用意すれば良いか悩むも、そういった諸々は俺が持つ図書館スキルの魔物知識がここで役に立つ。
しかし、次元属性の魔石を手に入れる準備のための準備――という服を買いに行くための服を買うみたいな状況に呆れが少しばかり出てくる。
とはいえ、結局のところ自分の魔法刻印の強化のためだと思えば頭を悩ませながらもなんとかやりきらないといけない事柄だ。
本当は、ふわふわのモンスターとぬくぬく暮らせればそれでよかったのにな。
教会のせいで俺の人生の予定がだいぶ狂ってしまっていることに苛立つも、巨大な組織をどうにかしてやろうという気概は湧いてこない。
(……まずは、あー、育成でミスしたらまずいから『
隷属の第三特性――取得可能になってはいるものの、何を取得するか悩んでいたそれは、モンスターの育成を始めると決まった時点で取得するものの候補が確定した。
なお基礎の基礎たる第一や、スキル把握のための助走たる第二と違い、第三ともなれば強力な特性や便利な特性、テイマーならば必須の特性と様々なものが存在する。
隷属できる数を増やせる隷属数強化。隷属している対象の反抗を阻止する支配力強化。そもそもの隷属に対する成功率の上昇。
また隷属した対象のステータスを強化したり、HPやMPの即時回復特性、状態異常に対する抵抗力を与えるものなどもある。
(ただ、とりあえず、これだな)
隷属している吸血鬼の少女であるクーに、廃墟型荒野の中に自生していた薬草や霊草、抜け落ちた鹿型モンスターの角、薬品の材料になる昆虫の抜け殻、冬虫夏草モンスターの死骸などを集めさせる。
「頼まれたものは、これでいい?」
「ああ、ありがとう」
にこにことした顔で俺を見てくるので頭を撫でてやれば「ふふふ」と笑ってからクーは離れていく。影の眷属の操作や次元鎌鼬の監視などをして貰っている。
なぜ次元鎌鼬の監視をするかと言えば、生態観察もそうだが、自然死や縄張り争い、他のモンスターに襲われて死んだ個体がいればこっそり魔石を回収してもらうように頼んでいるからだ。
収穫の魔法で集めたアイテムを取り込み、取得候補に現れたそれを俺は取得した。
――第三特性『生命強化』
隷属した対象のHPを強化し、生命のストックを一つ与える特性だ。無色精霊なんて死にやすいモンスターを育てるなら、確実に持って置かなければならない特性である。
またこれは育成が終わった個体が事故死することを防ぐためのものでもあった。
なお取得条件は先程俺が取り込んだアイテムに加え、体と精ステータスが10以上、命ステータスが2以上という、テイム持ちからするとかなり厳しい条件のものになる。
特に命ステータスは獲得にポイントを10も消費するのでこれを取得するとなると合計で40ポイント、俺以外の人間なら8レベル分のポイントを隷属に関係のないステータスに注ぎ込まなければならなくなる。
もちろん体に精、命は生存力を上げるのに重要なステータスではあるが、隷属の魔法刻印の依存ステータスが魔と魅であるため、メインでないステータスにポイントをつぎ込むと隷属の効果がそれほど高くならないというジレンマを抱えることになるのだ。
俺もクーやサーシャに貰った称号がなければ取得しようか迷う特性でもある。
(そもそも一日に二回以上死ぬことってないから、命ステータスを2以上にするのって結構抵抗あるんだよな)
そう、一度死んだ時点で命数回復のために拠点に籠もるから、まず二回死ぬような状況にはならない。
もちろん保険としてあれば嬉しいだろうが、10もステータスポイントを消費して保険を買うよりは、二度も死なないよう立ち回れるステータス構成にした方がいいのだ。
そんな条件があるこの特性をわざわざ俺が取得したのは、一重にモンスターが命ステータスを取得できないからであった。
(で、と。モンスターの生存問題はこれで解決したから、次は俺の魅力ステータスを60まで上げるか)
なぜ60なのかと言えば、魔法刻印の深度がⅢだと上げられるステータスの限界値が60だからである。
なお刻印深度Ⅳで限界値が80で、刻印深度Ⅴだと限界値は100。
この100がポイントで鍛えられるステータスの限界である。
これ以上ステータスを鍛えたいならスキルや特性、称号などで補強するしかない。
そういう面でもサーシャやクーのような強力なステータス倍率補正を持っている魔法刻印の非凡さは明らかだった。なにしろ最大ステータスは120。サーシャはエンゲージリングがあるから、144だ。驚異的な数値である。取得した魔法刻印でこれだけ差が出てしまうのだ。
(ま、俺は隷属の方が好きだけどな)
ふわふわのもこもこの動物モンスターをペットにできるという一点で、あらゆる魔法刻印よりも俺のテイムは優秀だ。
(というか強さとか興味ないからな、俺は)
強くなって何がしたいというわけではない。強さを目的とするのではなく、目的のために強さを得たいタイプなのだ俺は。
――
先日魅力ステータスを上昇させたことでわかったが、魅力を上げると好感度の上がりが良い。
あと魅力を上げることでクーに対する牽制になる。いずれクーをどこかで解放するとしても俺の魅力が高ければ殺されずに済む可能性が高いと期待できる。
(クーか。クーを解放するとして俺を好きすぎて殺すか。テイムされたことを恨んで殺すかの半々なんだろうけど……)
人間の心は複雑すぎて予想はできない。
現状のクーに姿勢からして、俺が恨まれているとは思わないが、テイムから解放された人間がどうなるかなんて俺にはわからない。
ちなみにクーをテイムから解放するのは人道というか道徳というか、間違って人間をテイムしてしまったから、その間違いを正すために解放するというそれだけの話だ。人間として当然すべき行為である。
(クーは友達だからな。当たり前なんだよなぁ)
便利だから開放しないとか、悪魔の所業かよって感じだ。
ただし今ここで解放するとテイムの
未来において社会生活を健全に営む予定である俺としては人倫と道徳は守りたいが、それはそれとして自分の身も限りなく守りたいのである。
(それに好かれてるとしてもテイムから解放したら最悪、骨と皮になるまで血を吸われる危険があるからな)
現時点で俺が吸い殺されないのは単純に彼女が俺の隷属下にあるだけだからだ。
隷属というストッパーが外れた場合、俺はたぶんクーに血を吸い尽くされて殺されるだろう。蘇生地点も把握されてしまっているので、そのままもう一吸いされてしまうと本当の死に一直線である。テイム解除したら寵愛称号消えて命数も1に戻っちゃうしな。
怖いなぁ、と近くの木の根元で眷属に指示しつつ、俺を見ているクーをじとっとした視点で見れば「なになに? セイメイ? なにかして欲しいことでも?」と彼女は嬉しそうに聞いてくる。
それに対してなんでもないと答えてやればふーん、と彼女は再び俺を見つめる作業に戻った。
クーは魅力を上げてから、俺をじっと見つめる時間が増えている。不安にもなるが、これだけ気に入ってくれれば俺を襲う際になにか手心を考えてくれるかもしれないからな。やはり魅力は上げておきたい。
なお他のステータスを上げて対抗しようとかは考えない。影魔法だけですでに俺が何をしようとも負けるのだ。
クーの戦いぶりを見ている俺からすると戦闘用のスキルを持っている相手に対して非戦闘スキルで抗うのは不可能だ。
力や体を上げ、攻撃力や耐久力を上げたところで遠距離から影魔法で滅多打ちにされれば死ぬしかないのである。
そもそもクーは眷属がいるので下手に敵対すれば囲まれてボコられる危険もあった。
(というわけで、クーに対抗するためにもレベルアップ、と)
ダンジョン苔から採取した極小の魔石をじゃらじゃらと出しつつ
レベルは9上げてレベル33に到達。獲得したステータスポイントは63。
現在の魅力は40。41からの必要ポイントは1ステータスごと3ポイントかかるので20上げるのに60ポイントを消費。
結構かかったがこれで魅力は60。余った3ポイントは知能ステータスに振っておく。知能はこれで5だ。
――――――――――◇◆◇――――――――――
◆ステータス(ポイント残:0 使用済み:234 初期10 獲得224)
力:10 体:10 器:10 速:14 命:1(+1) 神:5(+5) =59
知:5(+10) 魔:20(+31) 精:10 感:10 運:10 魅:60 =175
――――――――――◇◆◇――――――――――
「ふぁ、ふぁあああああああああ」
クーがキラキラとした目で俺を見て、歓喜に絶叫を上げたが気にせず俺は自分のステータスを眺める。うむ、問題ない。よな?
ふよふよと俺の傍を漂っていた無色精霊をつんつくつんと突つけば楽しそうに無色精霊は漂っている。
(心なしか、楽しそうな雰囲気が増した、か?)
精霊の気持ちなんぞわからないが、まぁいいかと俺はとりあえず好感度上げに費やすことにする。
どうせ無色精霊を育てるなら、他にも育てるモンスターを増やしたい気分はあるが、ううむ、どうしようかな。
◇◆◇◆◇
というわけで数日が経過。破格に上昇した魅力ステータスのおかげで早々に無色精霊に対する好感度上げは終了だ。
好感度100で得られた称号は『精霊の親愛』。効果は精霊種から好かれるようになって、魔法耐性Ⅰを獲得するだけのものだ。
(サーシャやクーに比べるとあんまり効果はよくないな)
それになんだか
なお他にも育てるべくシェイドという影魔法が使えるモンスターをテイムしたものの「影魔法なら私が使えるじゃない」とシェイドくんはクーに殺されてしまった。南無。
テイマーの多頭飼育は大変なんだなぁと思うことしきりだ。
少女型モンスターとかもたぶん無惨に殺される気がするので、次にテイムするモンスターはもう少し吟味する必要がありそうである。
というかサーシャとクーの相性はどんなものなんだろうかと悩むも、それはそれとしてようやくこれで本題に入れると俺は作業を開始する。
そう、極小魔石を無色精霊に与え、限界までレベルを上昇させるのだ。
とはいえそう高く上げるわけではない。幼体モンスターである無色精霊の限界レベルは20だからな。
「というわけでレベルアップしてくれ」
極小魔石の山を用意して、無色精霊の前に押し出せば、小さい体でむしゃむしゃと無色精霊は魔石を食べだす。その中には進化用素材である次元属性の『魔石(小)』も混じっている。
(というかコイツに名前つけるべき、なんだけどな)
ネーミングセンスのない俺に期待できる行為ではないが、この精霊をちゃんと育てるなら、なにか考えないと不便だろうな。
いろいろと考えてみるものの、特に思いつかず、精霊の食事風景を眺めるだけになる。
「で、レベル20か」
名前を思いつかないままに精霊のレベルアップが終わる。
終わった瞬間に、ぴかぴかと精霊が光り出す。慌てたようにふよふよと俺の周囲を漂うそいつに俺は一言。
「次元精霊で頼む」
無色精霊は多彩な進化先を持つので、何も進化素材を与えなくても中精霊や治癒精霊、音精霊なんかに進化が可能だ。
とはいえ、それらの精霊は目的ではないからスルー。
俺の目的は次元鎌鼬に対抗するための次元精霊なのだ。
俺の指示を聞いた精霊は了承したようにぴかぴかと眩しく光りだし――それが次第に明滅を終えると、そこに浮いていたのは少しだけ黒色が混じった野球ボールサイズの光の玉だった。
「ほー、これが進化か」
楽しげに俺の傍でふよふよ浮いているそいつを指で突きながら俺はテイムモンスターのステータスを見た。
――――――――――◇◆◇――――――――――
ステータス
テイム名:次元精霊Ⅰ
年齢:0
レベル:20
――――――――――◇◆◇――――――――――
◆ステータス(ポイント残:163 使用済み:0 初期:30 獲得7/1レベル:133)
力:0 体:0 器:0 速:0 命:-(+1) 神:0
知:0 魔:0(+20) 精:0 感:0 運:0 魅:0
――――――――――◇◆◇――――――――――
◆魔物刻印【精霊】 深度【Ⅱ】
▽第一セットスキル:『精霊種【Ⅱ】』
・『精霊【Ⅱ】』――物理攻撃耐性Ⅱ。物理状態異常無効。
・『魔力体【Ⅱ】』――魔力ステータスを中上昇させる。HP-40% MP+60% MP枯渇時死亡
参照ステータス:【魔力】 消費コスト:【魔力】
▽第二セットスキル:『次元魔法』
・『魔力強化【Ⅲ】』――魔力ステータスを中上昇させる。
・『次元感知』――次元の流れや歪みを感知可能。
・『次元操作』――次元を操作可能。
参照ステータス:【知力】【魔力】【感覚】 消費コスト:【魔力】
――――――――――◇◆◇――――――――――
◆スキル構造:
▽『精霊種【Ⅱ】』
――スキル特性1『浮遊』
・貴方は浮遊する。大地の影響を受けない。
▽『次元魔法』
――スキル特性1『次元の矢』
・『魔ステータス×2』の威力を持つ次元属性の魔法の矢を『1本』生成し、射出する。
――――――――――◇◆◇――――――――――
◆称号
『――』:なし。
――――――――――◇◆◇――――――――――
◆
・この情報を閲覧するには権限が必要です。貴方は権限を保持していません。
・特になし
――――――――――◇◆◇――――――――――
人間の魔法刻印と違い、モンスターの魔物刻印は獲得ステータスポイントが5ではなく7だった。
ただしステータスが高いとはいえ、人間より魔物が優れているわけではない。
モンスターの場合、スキル数はともかく獲得できる特性数は2個までだ。
モンスターは強力な効果を持つ第三特性以降の特性が取得できないため、最終的に人間より優秀になれるわけではない。
とはいえステータスの暴力は怖いし、魔物は人間と違って魔法刻印を使い込まなくてもレベルアップするだけで刻印深度が上昇する。
魔石さえ確保してレベル上げすればいくらでも強くなれるのだ。
「ふむ……とりあえず、最初の進化は終わりだな」
なお、これから精霊のステータスを振るが、これで次元鎌鼬に勝てるとは全く思わなかった。
「戦わせるならもう一回進化させた方がいいかなぁ?」
もしくはクーの眷属のサポートが必要だ。
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