011 狼じゃない
レベルを上げ、ステータスを上げた翌日のこと。俺は森を駆けていた。
駆ける。駆ける。駆けていく。
「はッ、ははッ、はははははははッ!!!!」
問――肉体に寄与する全ステータスが5になると何ができるのか。
答――不整地の森林地帯を時速40キロで駆け回っても転ぶことがなくなるようになる。
そして森林で一時間ほど全力行動してステータスの確認を行った俺は、今度は全力は出さずに――しかし高速で移動し始めた。
木から木へと、樹皮を蹴り飛ばしながらだ。
跳躍しての移動後に――跳躍や曲芸のスキルなんかがあると擬似的な飛行にも似た行動ができるらしいが――そのまま落下。裸足の踵を、眼下で地面に顔を突っ込んで、なにかの根を貪っていた大柄な猪の背中に落とした。
なお、この猪はセミとの感覚共有で見つけておいた個体である。
野生の動物特有の獣臭さが鼻に香った。同時にメキメキと俺の踵が猪の背骨を砕いていく感触が伝わってくる。
子供の、成長途中の人間の、柔らかい踵で猪の骨が砕けていく前世では異常な光景。しかしこの世界ではこんなことは当たり前だった。
体のステータスを耐久性に直結する。24の体ステータスを持つサーシャが銃弾を皮膚で弾いたように、体が5もある俺の踵は猪の脂肪や筋肉に負けることなく、猪の体を貫き、猪の太い背骨を砕いていく。
ぷぎぃ、という悲鳴がようやく眼下の獲物から上がった。
骨を砕かれながらも猪が体を跳ね上げると同時に俺の体は猪の体を土台に跳躍。体勢を変えて上半身で猪の身体に掴みかかる。
猪がその巨体で暴れようとするも力のステータスが5もある俺の手は奴の体を絶対に離さない。背中に全身でしがみつく。
猪がなにかをしようとするも俺の速ステータスは5もある。
速――速度ステータスは移動速度ではなく反応速度だ。これをいくらあげても足は早くならないが、速ステータスが神経系に作用することによって、反応速度が早くなって先手を打てるようになるのである。
速ステータスは低いと、魔物との遭遇戦で何もできずに相手に先手をとられて瞬時に殺されるから、冒険者になって前衛を勤めるなら力や体並にあげておかなければならない重要ステータスの一つだった。
「ッ――おらぁッ!!」
反応速度が猪を越えている俺は猪の動きを制しつつ、力で抑え込んで、
力が5もあれば膂力は皮を突き破り、ずぶずぶと分厚い脂肪を抜き、その下の筋肉に指先から手首、腕、肘と沈み込んでいく。まだ俺の身体は児童だから、腕も短い。めいいっぱいに腕を伸ばしていく。
死が間近に迫っているのを感じたのだろう。猪が悲鳴をあげて暴れようとするも、俺はがっちりと片手と両足で奴の体を抑え込んでいる。
周囲では、この猪と同じようになにかの根を貪っていただろう、他の猪やウリ坊が今頃襲撃者の存在に気づいて逃げ出していった。
冒険者的に言うなら、自分たちより強いモンスターが突然襲いかかってきて反応速度や感知ステータスの低い前衛が奇襲を食らった状態という感じかな。
一目散に逃げるよな。死にたくないし。
そんな感想を懐きつつも俺の方では狩りが終わろうとしていた。
「暴れるな! 早く死ね!! おら!!」
ずぶずぶと沈み込んでいた手が猪の心臓に触れた。よし、と握りつぶそうとした瞬間に「あ、やべ」と俺はそれを中止した。
(そうだよ。血抜きしないといけないんだった)
心臓潰したら血抜きが面倒になる。
この心臓抜きはなんか漫画でよくやってるから真似してみたかっただけで、別にこうやらないと倒せないわけではないのだ。
俺は肉から手を引き抜き、猪の頭に向けて拳を振り抜くと、手のひらに骨と脳を砕いた感触が伝わり、命を奪ったことがわかった。
なお、転生主人公特有の命を奪っただのなんだのという葛藤はバッタを食ったあたりで投げ捨てている。
正気で虫が食えるかよ。
◇◆◇◆◇
川辺にやってきた俺は、生物はいれられないために――脳は砕いて命は奪ったが、まだ微妙に肉体は生きている――インベントリにはいれられなかった、5の力ステータスで担いできた猪の死体を川に投げ込んだ。
肉を冷やすと同時に放血を試みるのだ。なんか血の味がどうとかで肉がまずいみたいな話があるが、正確には肉に残った血が腐るなり、血中で細菌が繁殖するから肉がまずくなるらしい。
だから冷やしておけば細菌の繁殖を防げるので血が残ろうが別にまずくならないとかなんとか。
ブラッドソーセージとかいう珍味もあるらしいし、通常では摂取できない栄養素を得るために生き血を啜る文化もあるから、血自体に問題があるわけではない――と思う。
(まぁ、俺は血液を美味しいと思わないから血抜きするけど)
ついでに言えばインベントリ内に入れても時間は経過する。細菌の繁殖は抑えられるわけではない。
まともな味を期待するなら面倒くさがらずに血抜きをする必要があった。
(ただの細菌による食中毒は体ステータスの上昇で抑えられるらしいけど)
さすがに魔物が生成した毒なんかや致死毒などは防げないらしいものの、魔力を持たない細菌なんかが原因の食中毒なら、ステータスの力だけで抑え込めるらしい。
(とはいえ、腐ったら不味くなるかもだし。ちゃんとした処理をしない理由にはならないよな)
放血のついでにインベントリから錆の浮いた包丁を取り出し、河原や川底を探して得た砥石で研ぐことにする。
なお整備されていない山であるため、俺がこの場から離れることはない。
放血中の猪を肉食の獣が持っていってしまうこともあり得るからだ。
(そういや猟師なんかは放血が終わったら、川の中に沈めてしまうらしいな)
インベントリがあるけど、この肉の保存方法、どうしようか。
包丁を研ぎながら考える。
魔物知識の中に動物型モンスターの解体方法などがあるため、解体知識は問題ない――と思う。
力以外にも器用ステータスが5もある以上、道具が包丁だけと言ってもベテランの猟師以上の速度で解体できるはずだ。
とはいえ道具も何もかも足りてないから、解体はできても何もかも上手くというわけにはいかないだろうが。
(保存するなら、燻製肉にするしかないよな)
インベントリ内に乾いた木材はある。サバイバル生活で溜め込んでいたものだ。
木の樹皮で燻製用の箱も作れるだろう。
一日潰れるだろうが……今後を考えれば動物性タンパク質をいつでも簡単に摂取できる状態にしておくのは必要なことだ。
(育ち盛りだしな)
素人仕事になるし、塩だの醤油だのもないから肉の味そのものになるが、バッタだのカマキリだのを焼いて食うよりずっといいと思う。
(それと食料ができたら、荒野の探索だな)
廃墟には住居なんかもあるし、レベルを上げれば倒せるモンスターや隷属させられるモンスターも増えていくだろう。
◇◆◇◆◇
そうして一週間。森を拠点にし、レベルアップしつつ荒野にある廃墟の探索に勤しむことになった。
一日に集められる経験値量は200ちょっとが最大だ。少ない日もあったが、ちょっと頑張って七日で1500とちょっと。最初に集めた経験値200を足して1800にちょっと足りない経験値で到達できたレベルは18だった。
安全な木陰に腰を下ろしながら俺はステータスを眺めていた。
――――――――――◇◆◇――――――――――
ステータス
名前:セイメイ・ゴトウ
年齢:9
レベル:18
――――――――――◇◆◇――――――――――
◆ステータス(ポイント残:0 使用済み:129 初期10 獲得119)
力:10 体:10 器:10 速:14 命:1 神:5(+5)
知:0(+10) 魔:20 精:10 感:10 運:10 魅:20
――――――――――◇◆◇――――――――――
◆魔法刻印【テイム】 深度【Ⅱ】
▽第一セットスキル:『
・『隷属魔法』――対象を魔力で隷属させる。
テイム1:太陽の聖女アレクサンドラ『好感度【誓約】』『状態:親愛Ⅴ』
テイム2:アブラゼミ61『好感度【5】』『状態:親愛Ⅰ』
テイム3:アブラゼミ73『好感度【6】』『状態:親愛Ⅰ』
参照ステータス:【魔力】【魅力】 消費コスト:【魔力】
▽第二セットスキル:『
・『知力強化【Ⅲ】』――知力ステータスを中上昇させる。
・『知識リンク』――『図書館』の知識を自身の他スキルとリンクする。
参照ステータス:【知力】 消費コスト:【なし】
――――――――――◇◆◇――――――――――
◆スキル構造:
▽『
――スキル特性1『好感度設定』
・隷属対象に好感度数値を付与する。【好感度上限100】
・一日に一度、対象の好感度を上昇させる。
――スキル特性2『感覚共有』
・隷属対象の五感を共有する。
・隷属対象が別種族の場合、人間向けに五感を調整する。
・好感度が低すぎる場合は(マイナス値など)対象から共有を拒否されることがある。
▽『
――スキル特性1『魔物知識』
・
――スキル特性2『未設定』
――――――――――◇◆◇――――――――――
◆称号
『孤児』:効果なし
『空き缶拾いマスター』:レアドロップ率3%上昇
『太陽の聖女の寵愛』:ステータス【神】に+5 ステータスポイントに(現在レベル-1)×2のボーナスを得る。
『サバイバー』:環境耐性Ⅰ ストレス耐性Ⅰ
――――――――――◇◆◇――――――――――
◆備考
・この情報を閲覧するには権限が必要です。貴方は権限を保持していません。
『転生者Ⅰ』 Ⅰの特典は一つのみです。
・特典『前世記憶の継承』
――――――――――◇◆◇――――――――――
ステータスは命ステータスを除く全てのステータスを最低10まで上げた。
あとはテイム魔法に関わる魔力と魅力に20まで振る。残りは速度だ。
(とりあえず全部を20まで上げる……か?)
神聖なんかは俺は使わないステータスなので振らなくていいかもという考えもあるかもしれないが、なにかあるかもという理由で振っている。
というのもスキル刻印に現れるスキル候補は自分が取得できるスキルだけなので、要求ステータスを満たしていない場合候補すら出現しないのだ。
魔力と神聖が20ずつ必要、みたいなスキルがあっても神聖に一切ステータスを振ってない場合、俺はそのスキルの存在を知ることすらできないのである。
(まぁ、こんな無駄なステータス振りできるのは戦闘を完全に捨てて、かつ称号でステータスポイントにボーナスがある俺ぐらいのもんだが)
サーシャがくれた称号は消えたら取得ポイントがマイナスになるのか。それとも任意でステータスを削る必要が出てくるのか。まぁとりあえず生存を優先して使い切ることにしている。マイナスになったらいらないステータスを削るなりすればいいだろう。
(ステータス削れるかわからないけど、あと最悪は……そうだな)
使用可能なポイント数がマイナスになって、そのマイナス分までポイントを獲得しなければいくらレベルアップしようとも使えるポイントが強制的に0になるような状況が一番怖いな。
(まぁ、なったらなったでなんとかするしかねーがな。そんなもんは)
俺がいくら考えようともどうしようもないことだ。ふん、と鼻を鳴らしながらステータスを見る。
一応、全部20振りするのは他にも理由はある。
魔法刻印の深度によって上げられるレベルに限界があるのはこの世界では常識だ。俺は刻印深度がⅡだから40までレベルを上げられる。ちなみに魔法刻印の深度が初期のⅠならレベルは20までだ。
そしてレベルもそうだがステータスにも限界が存在するのである。
刻印深度Ⅰで割り振れるステータスの最大値は各ステータス20まで。
各ステータスは20までなら1上げるのに必要なポイントは1。
命数だけは必要ポイントが違うのでこれは置いておく。
そして、ここで重要なのは刻印深度Ⅱで割り振れる各ステータスの最大値が40なことだ。
加えて、各ステータスも21からは割り振るのに必要なポイントが2になる。
(整理すると、だ)
要するに魅力ステータスを上昇させるとして、魔法刻印の深度がⅠなら20までしか魅力の数値を上げられないけど、刻印深度がⅡになれば40まで数値を上げることができるっていうこと。
で、その際は上昇に必要なポイントが1ポイント増えてるので注意すべしということ。
(刻印魔法を使い込んで刻印深度を上げなければポイント全部一つのステータスに突っ込んで極振りしてやるぜ、とかはできない仕様ってことだな)
だから、とりあえず20までは振っておくのが良いと俺は思っている。
20までなら1上げるのに1ポイント消費だからな。振り得という奴だ。
それに一見、戦闘に寄与しないステータスが全く役に立たないわけではない。
役にたたないステータスなんてこの世には存在しないのだ。
知ステータスなんかは前衛系の刻印持ちからは割とカス扱いされているけど、それは使い道を知らない脳筋どもだからだ。
知ステータスを上げれば高等だったり特別だったりする知識系スキルの特性取得や、強力な魔法スキルの取得条件を満たすことができる。
それに知能ステータスが高ければ、様々なことの記憶や理解の助けになるのだ。
まだ知ステータスにポイントを俺は振っていないが、図書館スキルの『知力強化【Ⅲ】』による知ステータス+10の恩恵は日常生活で既に受けていた。
図書館スキルを取ってからは、山や荒野で道を見失うことがなくなった。スキル効果で知ステータスが上がって記憶力が高まったからだ。それに理解度も早く、深くなったので図書館スキルの特性である魔物知識の理解も容易になっている。
他のステータスも役に経っている。
精ステータスは精神力の強化。これを上げたことで、こういった逃亡が続いてもくじけることが少なくなったり、面倒な作業に取り掛かるときの億劫さが少し消えた。
加えて、この辺りのステータスは精神異常系の魔法や攻撃魔法を受けたときに真価を発揮してくれるらしい。
運ステータスはよくわからない。とはいえ、俺の状況を考えればないよりあったほうがいいだろうな。
ちょっとした良い出来事ですら、今の俺には神イベントになってくれるだろう。
(それに、いろいろなステータスにポイントを振ったことで得られたものは既にあるしな)
上空からセミの視点で魔物を確認しまくったことで魔物知識の熟練度が上がって、図書館スキルの第二特性を得ることができるようになった。
そうして取得できると示された図書館スキルの新しい特性候補の中には、ステータスを上げたことで取得できるようになったものも数多く存在している。
(もっとも取得するのに特別な魔物素材が必要な特性もあるみたいだが……さて、どの特性をとるべきか)
欲しい特性に見当はつけているが、取得するのに魔物素材が必要なタイプの特性なのである。
俺はセミを上空に飛ばしつつ、頭の中でそのスキル特性を取得可能にする魔物素材の場所を確認する。
(うーん、たぶんなんとかなるだろう)
しかし、図書館スキルでこれか。
他の強力なスキルなんかは見たこともない素材が必要なんだろうな、とか。そういう強力なスキルは俺には縁がないんだろうとも考えてしまう。
なお、セミを隷属させるのが一番楽だったためにまだテイム魔法は育っていない。
(小鳥なんかの小動物は飛ばしたら簡単に食われるんだよな)
セミも食われないわけではないが、小鳥ほど襲われるわけでもないし、虫だから可哀想感は薄く、補充に関する心的ストレスが少なかった。
(ファンタジー小説定番のスライムも微妙)
レベルの低いスライムは、動く寒天ゼリーみたいなものだった。補充は難しくないが、使い道がないし、雑魚すぎる。
もちろんダンジョン苔の繁殖地帯でスライムを放牧すればレベルと体積は上がるだろうが……それで作れるのが巨大な動く寒天ゼリーとあってはどうにもならない。
試しに隷属させたスライムを巨大化させたものの、地を這う鼠の魔物に次々と食われてボロボロになって死んだ時点で俺はスライムの育成を諦めていた。
とはいえ、全く役に立たないわけじゃない。
念のためで体ステータスを上げて肉体の頑丈さを上げてから、身体の表面の汚れや垢をスライムに食わせてみたら綺麗に食べたので、風呂に入らずとも汚れを落とせたのはでかい。
たまに隷属させて風呂代わりに使うのは有りだろう。
(魔物のテイムに関してはもうちょっとレベルを上げたらって、あー、セミやられたな)
感覚共有していた、荒野の上空に飛ばしていたセミがなにかの魔物の攻撃の余波で死んだことを確認すると俺はため息を吐いて周辺を見渡した。
セミの鳴き声が森中に響いているからその辺からピックアップを……っと、お?
「なんだ?」
感ステータス――予感や第六感――に引っかかるものがあった。何かいるのか、と思えば草むらの中に怪我をした小動物を見つける。
(小動物ってか、へー、狼の子供か、これ? なんでこんなところにって、ああ! これあれじゃん! ウェブ小説!!)
狼! 子供! 怪我! ウェブ小説テンプレだ!
危険は感じない。狼といっても子供だ。ステータスなら俺のほうが圧倒的に高いはず。
それにこの展開はテンプレでありふれている。
テイムした狼の子供が神獣フェンリルの子供だったりするんだよな。
(アホかよ。そんな偶然主人公でもなけりゃあるわけねーよな。アハハ)
テンプレテンプレ言っていた脳みそにツッコミをいれて、少し冷静になる。
なお警戒されないように独り言は喋らない。
それでも子狼に向けて手をフリフリと振ってみれば、ぐるぐると子狼は唸っている。
(ま、拾った子狼がフェンリルだったとか、そんな与太みたいな話が俺に降りかかるとは全く思えないけどな)
弱そうだった。なので俺はそこまで警戒せずに狼の子供に近づいていくことにする。
そもそも体ステータスに10も振ってあるのだ。今の俺なら熊に殴られても傷一つ負うことはない。
あとは、この怪我した子狼が魔物の子供であるという考えも簡単に否定できた。
(魔物知識に反応がない。野生の狼ってところか)
しかし、この世界のニホンオオカミは絶滅しなかったのか? そんなことを考えつつ俺は子狼を両手で掴んで拾い上げた。
「おー、ちんちんついてないな。メスか」
一瞬子狼に睨まれた気もするが獣風情が人語を理解しているわけがないので気にしない。
なお今日は死んでいないので命数は残っている。記録している蘇生地点はこことは別の場所だ。俺の手の中にいる子狼が魔物じゃないなんか別の未確認の化け物だったとして、俺がこの場で殺されても
「ま、小動物も鳥以外は試してないからな。よーしよしよし、暴れるなよー。おら、
くくく、狼の子供よ。レベル18、魔力値20魅力値20が放つ隷属魔法を喰らうがいい。
多少の
「ん?
魔力も魅力も20だぞ? 超人だぞ? ステータス0の野生動物ならなんの抵抗もなく心身共に貫通して隷属が通るはずだ。それが、抵抗?
俺の腕の中でぐったりと弱っている子狼を見下ろす。
――血影の幼姫クリスタル・ブラッドプールの
「うぅ……おなか、すいた」
「え? に、んげん? 女の子になった?」
腕の中の子狼が、ドレスを着た黒髪紅瞳の少女に変化する。
それは俺の首筋に向けて、身体をぐいっと自身の腕で持ち上げると、牙をかぷりと突き立ててくるのだった。
◇◆◇◆◇
TIPS:吸血スキル
れっきとした魔法スキルの一種である。
とはいえ低位のコウモリ系モンスターの吸血は物理寄りなので低位の吸血を防ぐだけなら体にステータスを振ればいい。
だが高位の吸血鬼のものを防ぐには肉体の耐久力よりも精神ステータスや属性耐性が必要になる。
また相手の戦闘経験の練度次第では吸血スキルを付与した遠距離魔法などで遠隔から吸血行為を行ってくることもある。
さらに、熟練度の高い吸血スキルの副次効果で発生する感染特性を防ぐには、発生する状態異常に対する異常耐性に加え、高い体力と精神ステータスが必要になる。
総じて吸血スキルは厄介なものだが、この魔法は副次効果が豊富なためにスキルの威力倍率は低く設定されているために直接攻撃されても即死する危険は低い。
人間が取得していたとしても吸血鬼並の身体能力がなければ使いこなすことは難しいだろう。
なおテイマーがテイムした吸血スキル持ちモンスターから攻撃行動を禁止したのに血を吸われることがあるが、それはこれが捕喰スキル――食事行為に相当するためである。
テイム状態での吸血で殺されることはないが、好感度次第ではテイマーが死ぬ寸前まで血を吸われることがあるので注意が必要である。
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