004 サーシャのステータス その1


 テイム魔法を手に入れたのは良いものの、結局俺の生活は何も変わることはなかった。

「だああああああ、上がらねぇわ」

 はぁ、とため息を吐いてステータスを見る。

 隷属魔法の深度がⅡになったものの、Ⅲに上がる気配はない。

 魔法店のおっさんに深度――要するに熟練度だな――の上げ方を調べてもらったところ、虫だの小動物だのをテイムしまくって深度をⅡにしたあとは、小型の魔物相手に試すことが必要らしい。

 つまり目標であるふわふわ毛玉の隷属を行うなら、武器だの防具だのを装備して街の外に広がる荒野に向かい、刻印深度がⅢになるまで修練しなければならないのだ。

 もしくは隷属に関するスキル特性や隷属を補助するようなスキルを取得するか、だ。

 特性はもう違うのとっちゃったんだよな。スキルは保留である。もしかしたら別の便利スキル取るかもだし。

(とったら消せないから、とりあえず深度上昇を頑張ろう……うん)

 しかし、若い俺がこれだけ苦労するってことは、ふわふわ毛玉で遊ばせてくれたあの老婆、俺が思うよりもずっとレベルが高かったようだった。

 たぶん、めちゃめちゃ金持ちだったんだろうな。魔法刻印、金があると成長が楽らしいし。

 まー、孤児の慰問を行えるような人間だしな。

 世の中、あるところには金があるのは前世でよく知っていることなので嫉妬とかは全くない。

 さて、とはいえ変化が何もなかったわけではなかった。

 ステータスポイントを振ったのだ。命ステータスに。

(ふふ、このステータスはめちゃくちゃすごいらしいからな)

 とはいえ俺が最初に持っていた10のステータスポイント。それを全部【命】に振ってようやく1上昇できたのだけれどな。

 他のステータスポイントの上昇が1上昇に対し、1ポイントであることを考えれば、意味不明なまでの重さである。

 だが、この命というステータスは、その重さに見合う破格の効果を持っている。

(いやぁ、安全を買ったと思えば問題ないよな)

 俺も男なので、魔力だの魅力だのにポイントを振ることで魔物のテイム魔法の成功率を高めるべきだとも思った。

 だけれど、やはり世の中何があるかわからない以上、残機・・は持っておきたいところなのだ。

 そう、残機いのち

 命ステータスには蘇生効果・・・・がある。

 たとえ首を斬られたり、体を粉々にされたり、龍のブレスで消し炭になったとしても1日に命ステータスと同じ回数だけ登録地点で復活ができる力。それが命ステータス。

 俺はそれを1上げた。これで俺は突然車に轢かれたり、学校をテロリストが占拠して銃で撃たれて死んでも一回だけなら復活できるのである。やったぜ。

 ちなみに蘇生の際の復活地点は俺が現在いる地点。

 孤児院ではない。サーシャと二人でこっそり作った秘密基地だ。


 ――周囲を木々に囲まれた、森のちょっと奥まった場所。


 だいたいの秘密基地は、用途不明な空き地に集まった子供たちが、各々廃材やガラクタ、玩具なんかを持ち寄ってきて、土地を管理している大人の手によって邪魔だと撤去されるまでがテンプレなものだがここはちょっと違う。

 俺たちの現在地は山の中だ。

 それも山道をちょっと外れて、普通には発見できないような、深い森の中。

 危険はない。

 この世界のこの時代、山だのなんだのは魔物だの山賊・・だのが住み着いているものだが、ここは孤児院の遠足で使われたので安全性は確認されている。

 ちなみになんで遠足で山かと言えば、俺に魔物のテイム魔法の存在を教えてくれたあの婆さん。

 もう故人だが、あの婆さんの個人資産の中にこの山があるのだ。

 それであの婆さんが生きてた頃に、孤児院の遠足で使っていいよと許可をくれたから、遠足の場所に選ばれたのである。

 そんな厚意で使わせてくれた山(なお婆さんが許可した利用は遠足限定である)に、俺とサーシャは魔法屋のおっさんの店のパソコンで見たサバイバル動画の簡易住居を、迷彩効果が期待できるこの山の枝や葉で作って、空き缶拾いのついでに拾った毛布やダンボールなどを持ってきて、勝手に、違法に秘密基地を作っていた。

 ダンボールや毛布についていたダニだのなんだのは定期的に川で洗濯して、日に当てて干しているのでまぁ清潔である。たぶんな。

(この山の管理者には、秘密基地は子供のやることだから許してくれよ、とは言えねぇけどな)

 空き地でも野山でも施設建ってると税金高くなるんだっけか? 子供の秘密基地なら大丈夫か? 前世のうろ覚え知識を思い出しつつも、行政に見つからなきゃ大丈夫だろという理由で道理と情は踏み倒す。


 ――管理者の大人、すまんな。


 さて、話を戻す。

 小学生の足ならそんなに遠くないここで俺はサーシャと一緒に魔法の訓練をしていた。

「はぁ、サーシャ。悪いな。これ、キモいだろ?」

「ううん、大丈夫だよ」

 枝と毛布で作ったソファのようなものに腰かける俺の隣に座ったサーシャは、べったりと俺にへばりついている。

 そんなサーシャの俺への好感度は100だ。一日1上昇するテイムのタッチ効果で上昇させた結果、今日で100日目で、先程好感度100を達成していた。

 とはいえ、あまり意味はないようだったが。

 サーシャの好感度を上げても俺の刻印に成長の気配はない。

 やっぱりレベル上げたり魔物倒したりしないと意味がないんだろうか。

(好感度もな。別にサーシャの態度が特別変わったようにも感じられねーけど)

 サーシャは昔っからこんなもんだったような気がする。べったり俺にへばりついて――たっけか? サーシャの態度の変化なんかいちいち覚えてなかった。

 内心でため息を吐きながら、予めここに来る前に捕まえておいた昆虫、そいつにテイムをかけて、俺は他の昆虫と殺し合わせていた。

 死んだら新しい昆虫をテイムする。死んだ昆虫の死骸は肉食昆虫の餌にする。俺はそうやって現在、テイム魔法を鍛えている。

 殺し合わせることでテイム時の指示感覚や戦闘感などが鍛えられるものの、刻印の成長につながっているかは微妙だ。

 とはいえ隷属感覚を鍛えて、テイム対象への操作感覚を確かにしていく作業はゲームじみた面白さはあると思うので飽きは来ない。

 なお俺はこの昆虫バトルのために隷属スキルのスキル特性枠を使っている。

 とはいえ、親父に必要条件を聞き直したあとだったら、親父おすすめの隷属強化スキルをとってただろうな。

 それで、取得したのはテイム対象の感覚情報を俺が取得することができる【感覚共有】の特性だ。

 この特性があると人間とは全く違う身体構造である昆虫の視界とかを刻印を通して人間向けに調整した状態で取得できるようになるのだ。便利特性である。

 ちなみに未だにテイム状態のため、俺はサーシャの視界を共有することもできる。

 さすがに女性の視界を共有するとか変態すぎてやらないけどな。

 やろうと思えばできる――というところが重要……変態だわ。考えるのやめよ。

 虫バトルに意識を戻しつつ俺は首をそっと横に曲げ、俺の身体に体重を押し付けてくるサーシャを見た。

 サーシャは俺の肩に顔を埋めて、露出している肌に顔を擦りつけている。動物かな?

 とはいえ最近は以前よりもずっと長く、濃く、くんくんすんすんと俺の匂いを嗅ぐようになった気がする。

 いや、テイム前からサーシャはこんなもんだったような……――うーん、うろ覚えはよくないなぁ。

 サーシャのセクハラ三昧に居た堪れない気持ちになってきて、俺はサーシャに聞いてみる。

「あー、そんな違うか? 俺の匂いって」

「ううん、全然違うよ。セイメイくんはいい匂いがする」

 そうかー、と俺はサーシャのステータス情報を頭の中に表示した。

 テイムしたことでテイム対象のステータスも視認可能になっているから、俺はサーシャのステータスを見ることができるのだ。


 ――――――――――◇◆◇――――――――――

 ステータス

 テイム名:サーシャ

   名前:アレクサンドラ・ゴトウ

 年齢:9

 レベル:1

 ――――――――――◇◆◇――――――――――

 ◆ステータス(残ポイント:10)

 力:0(+20) 体:0(+20) 器:0(+20) 速:0(+20)

 命:0(+2)  神:0(+20)

 知:0(+20) 魔:0(+20) 精:0(+20) 感:0(+20)

 運:0(+20) 魅:0(+20)

 ――――――――――◇◆◇――――――――――

 ◆魔法刻印【聖女】 深度【Ⅰ】

  ▽第一セットスキル:『太陽の聖女』

   ・『身体強化【Ⅴ】』――全ステータスを特大上昇させる。

   ・『全属性耐性【Ⅲ】』――全ての属性攻撃にⅢの耐性を持つ。

   ・『全状態異常耐性【Ⅲ】』――全ての状態異常にⅢの耐性を持つ。

   ・『虚偽感知』――嘘を匂いとして判別可能。どのような嘘かも過去を遡って判別可能。

   参照ステータス:【魔力】【神聖】 消費コスト:【魔力】

 ――――――――――◇◆◇――――――――――

 ◆スキル構造:

  ▽『太陽の聖女』

  ――スキル特性1『日輪の加護』

  ・魔力を消費してパーティー全体にステータス強化『日輪』を付与する。

   ステータス強化『日輪』――【邪神特攻Ⅲ】【邪神耐性Ⅲ】【HP継続回復Ⅲ】

 ――――――――――◇◆◇――――――――――

 ◆称号

 『孤児』:効果なし

 『空き缶拾いマスター』:レアドロップ率3%上昇

 『太陽の聖女』:太陽の属性を持つ聖女。種族【モンスター】【邪神】への与ダメージを上昇。

 『自主的な隷属』:自らの意思でテイムされている。

 ――――――――――◇◆◇――――――――――

 ◆備考マスクデータ

 ・この情報を閲覧するには権限が必要です。貴方は権限を保持していません。


 好感度付与とは別に設定された内部好感度です。

 セイメイ 1000

 セイメイを除く全人類 ―1000

 ・『虚偽感知』の効果でセイメイを除く全人類から汚臭を感じています。

 ・可能ならばセイメイ以外の人類を滅ぼして汚臭の元を絶ちたいと思っています。

 ・人類と敵対可能です。

 ――――――――――◇◆◇――――――――――


 サーシャのステータスを見て俺は思った。

(サーシャ、お前は破格だ。美少女すぎるうえに強すぎる。俺とはやはり、才能ものが違う)


                ◇◆◇◆◇


 TIPS:太陽の聖女アレクサンドラ 個人ストーリーその1 あらすじ

 太陽の聖女アレクサンドラ。彼女は幼い頃に孤児院に入っていたが、幼いながらも発揮される異質な美しさと嘘を見抜く能力から周囲に不気味に思われ、いじめられていた。

 いじめに耐えかねたアレクサンドラは孤児院を逃げ出し、日本各地を放浪するものの、空腹と孤独に肉体と精神を病み、とある山中にて二人の人物に出会う。

 一人はあなたの師。

 もう一人があなたプレイヤーだった。


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