003 テイム魔法


 ――太陽の聖女アレクサンドラの隷属テイムに成功しました。

 ――テイムに成功しました。刻印深度が成長しました。

 ――セットスキル『隷属魔法』が新たなスキル特性を取得可能です。

 ――新たなスキルが取得可能です。

 ――太陽の聖女アレクサンドラの魔法が『未設定』です。魔法刻印を取得しますか?


「せい? あ? なんだって?」

 右肩の魔法刻印を通じて妙なアナウンスが頭の中に入ってくるも、それより先にサーシャが俺に抱きついてきて、意識がそちらに向く。

「わぁ! 成功したよ! セイメイくん! なんか頭に響いた!」

 おお? うん? こんな積極的だったっけ? サーシャ。

 調子に乗ると内弁慶になったりもするが、基本的には引っ込み思案で、後ろから服の裾をつまんでついてくるような奥ゆかしいというより引っ込み思案な金髪碧眼美少女がサーシャという少女である。

 そんなサーシャがぐりぐりと頭をこすりつけてくるので、太陽光の加減で天使の輪とかいう髪の毛が艶めいて光る現象を起こしている金髪を撫でてやりながら、ぐいぐいとサーシャを引き離そうとすれば、ピンク色のハートのようなものがサーシャの頭にぷかぷかと浮かんだ。

 そのハートは一秒ほどですぐ消えたが、その現象に俺はぱちぱちとまばたきしてしまう。

(ええと……なにこれ?)


 ――太陽の聖女アレクサンドラの好感度が1上昇しました。


 再び、アナウンスが頭の中に響いた。

「好感度? こうかんど? あ、へー、これがテイム魔法の効果って奴か?」

 っていうかアレクサンドラってサーシャの本名? マジかよ。本名あったのかよ。

 孤児院でも学校でもサーシャって呼んでたからわからなかった――いや、すまん。たぶんアレクサンドラって名前自体はなんかの書類にサーシャが書いてたかも。孤児院の職員もアレクサンドラって呼んでたかも? わからん。サーシャが人を避けすぎるせいか、あんまりサーシャが名前を呼ばれているシーンを思い出せない。

 サーシャって愛称で勝手に呼んでる奴はいたけど……ちゃんと呼んでいいと言われてるのは俺だけだった、か? その俺がサーシャって呼んでるから、みんなサーシャって名前だと認識しててアレクサンドラって名前は周知されてないとか、そういう奴?

(しかし、好感度なぁ)

 引き離すのに失敗したためか、ぐいぐいと俺に向かって頭を擦りつけてくるサーシャ。俺はその背中を軽く抱きしめながら、ぽんぽんと頭を軽く撫で続ける。

(好感度とかいうので変な影響があったら怖いけど)

 これだけ好かれてるわけだから、今更好感度が1上がろうが大したもんでもない、か?

 そんなことを考えつつ、ええと、と俺は自分の魔法刻印に意識を向ける。

 えっと、人間へのテイムに成功したし、これで俺の魔法刻印は成長した、のか? したんだよな?

「確認ってどうやんだよ」

「なにが?」

 ぐりぐり攻撃をやめて俺を見上げてくるサーシャの碧眼を見返す。綺麗な瞳に綺麗な声。特に何もしていないのにこれだ。

 生まれつきの美少女って奴だよなぁ、という呆れを抱きながら言葉を返す。

「魔法刻印」

「ふーん」

 サーシャは魔法刻印には興味なさげに、俺の腹部に頭をぐりぐりと擦りつけてきた。

 片手でその頭を撫でてやるが……この撫でる奴、いつまで俺がやっても許されるんだろ。中学ぐらいになってもやったらキモいとか言われるのかな。

(それはショックかも)

 いや、違う違う。ええと、自分のステータスの確認だよ。

 勝手に凹んでいる自分に対して軌道修正する。

 あー、魔法屋の店主に魔法刻印の操作方法について簡単なマニュアル冊子を貰ったけどまだ読んでないんだよな。どうやるんだ?

(俺、スマホの説明書読まないタイプだったからな)

 老婆だってテイム魔法使えてたし、現代っ子な俺なら使えばわかるだろって思ってたんだよな。

(失敗したか?)

 ふーむ、刻印に魔力を通してみるか。

 刻印内部への魔力感覚で何がどう変わったのか確認を……――っと、お? 発見。これだな?

 刻印内部に魔力で起動する発動体トリガーのようなものを見つけ、意識をそこに集中。ええとステータス情報ってラベルみたいなタグがあるなこれ。魔力で探ると簡易的な情報が頭に流れ込んでくる。

 脳みそに情報流してくるとか、これどういう技術なんだろ?

(あー、つかステータスがあるタイプの転生かぁ……鑑定に金かかる系の奴ってあんまり流行らないと思うぜ?)

 この世界に作者がいるなら届け俺の思い、なんて考えながら毒づいてみる。

 叫んでもこの世界ではステータスは出ないが、手順を踏めば見えるようになるというところには実際体験したことでちょっとした驚きと達成感を得られた。

 こういうの小説で読む分には冗長だけど、実際に体験する分には面白いな、なんて感心を得つつ、俺は魔力でトリガーのスイッチを起動してみた。


 ――――――――――◇◆◇――――――――――

 ステータス

 名前:セイメイ・ゴトウ

 年齢:9

 レベル:1

 ――――――――――◇◆◇――――――――――

 ◆ステータス(残ポイント:10)

 力:0 体:0 器:0 速:0 命:0 神:0(+5)

 知:0 魔:0 精:0 感:0 運:0 魅:0

 ――――――――――◇◆◇――――――――――

 ◆魔法刻印【テイム】 深度【Ⅱ】

  ▽第一セットスキル:『隷属テイム』 テイム可能数【3】

   ・『隷属魔法』――対象を魔力で隷属させる。

      テイム1:太陽の聖女アレクサンドラ『好感度【1】』『状態:親愛Ⅰ』

   参照ステータス:【魔力】【魅力】 消費コスト:【魔力】


  ▽第二セットスキル:【設定してください】

 ――――――――――◇◆◇――――――――――

 ◆スキル構造:

  ▽『隷属テイム』 New【新たなスキル特性がセット可能です】

  ――スキル特性1『好感度設定』

  ・隷属対象に好感度数値を付与する。【好感度上限100】

  ・一日に一度、対象の好感度を上昇させる。

  ――スキル特性2『セット可能』

  ・設定されていません。


  ▽『設定してください』

  ――スキル特性1『未設定』

 ――――――――――◇◆◇――――――――――

 ◆称号

 『孤児』:効果なし

 『空き缶拾いマスター』:レアドロップ率3%上昇

 『太陽の聖女の寵愛』:ステータス【神】に+5 ステータスポイントに(現在レベル-1)×2のボーナスを得る。

 ――――――――――◇◆◇――――――――――

 ◆備考

 ・この情報を閲覧するには権限が必要です。貴方は権限を保持していません。


 『転生者Ⅰ』 Ⅰの特典は一つのみです。

 ・特典『前世記憶の継承』

 ――――――――――◇◆◇――――――――――


                ◇◆◇◆◇


 TIPS:権限を保持していません。

 貴方の目にその情報が入っても貴方の脳がその情報を認識することはない。


                ◇◆◇◆◇


 う、情報が多いな。目が滑りそう。

 それでも我慢して上から眺めてみて、テイムの深度がⅡになっていることを確認した。はー、これが深度成長って奴か。

 頬を染めて俺に撫でられるがままになっているサーシャを余所に、服の隙間から自分の右肩を眺める。

 お、昨日刻印したときよりもテイム魔法の刻印が大きくなってるな。

(んー、紋様もちょっと変わったか?)

 初期は棘付き首輪だけだった隷属の魔法刻印には、深度成長したことでハート型の心臓を首輪が締め付けている図に変わっていた。

 これが深度成長すると起きる刻印の模様の変化って奴か?

(よし、オーケーオーケー。俺の推測通りだな。虫とか動物とかすっ飛ばして人間隷属させりゃⅡに成長だ。で、ふわふわ毛玉のゲットには、あー、次はどうするかな。刻印深度がⅡでいいんだっけ? Ⅲまで必要だっけ?)

 店主に言われたことは全く覚えていなかった。

(ま、いいか……)

 さて、ええとスキル特性とやらを設定したりすりゃいいのか。サーシャのテイムを解除してまたサーシャをテイムすりゃいいのか?

 そんなことを考えつつ、俺はステータスを眺めていく。

「あ、ステータスにポイントを振り分ける必要があるのか」

 え、っていうかこれどういう振り分け方が鉄板設定なんだ?

 ポイントリセットないなら、ちゃんとステータステンプレ覚えてからじゃないと振り分けるの難しいよな。

 攻略ウィキとか、あるのか?

(ま、まぁ、急ぎじゃないから、とりあえず放置で……)

 スキル特性とかも一応、確認してからの方がいいか?

 テイム魔法は冒険者に求められてなくてもそれなりにジジババに使われてるらしいから、鉄板の設定とかあるだろ、たぶん。

 今決めるにも俺は自分の直感とか信用してないしな。ウェブ小説みたいに不人気設定、不人気パラメーター振りとか絶対やりたくねーし。これ平均振りもなんか地雷っぽさがあるし。

 うーむ、とりあえず予習が必要だろうと思いつつ、他には、なんて考える。

 ちなみにサーシャが聖女うんぬんはどうでもいい。

 聖女幼なじみ寝取られテンプレのよくある設定だからな。サーシャとは大人になってからも友人付き合いをしていくつもりだから、恋人同士にならなければ大丈夫だろ、たぶん。


                ◇◆◇◆◇


 TIPS:太陽の聖女アレクサンドラ


「共に苦難を乗り越えましょう。だから私とカオスオーダーの契約を」


 ダンジョン×学園RPGを掲げたスマートフォン向けアプリゲーム『カオスオーダー 邪神討滅』の五周年記念限定ガチャでプレイアブル実装された星5SSRキャラクター。

 人類勢力『教会』の筆頭聖女であり、メインストーリー序盤、サブイベント、季節イベントなどにおける黒幕的役割を担っている。

 また各勢力のトップを張るキャラクターたちの中でも、その金髪碧眼巨乳巨尻なビジュアルにより、プレイヤーたちから一際の人気を誇っていた。

 でっかッ……いや魔力がね? ――それで人類守るとか本気で言ってますか?(オタクことば)


 メインストーリー第十章『邪神大戦』におけるメインヒロイン。

 主人公プレイヤーが持つ謎の力や地上に現出する邪神たちとの関係をプレイヤーが探る中で、主人公との過去の関わりやその悲劇的な生まれが発覚し、親密になっていく。


 プレイアブル時のキャラクターとしての性能はアタッカー兼タンク兼サポーター。

 ボスとの相性が良ければ装備次第ではソロで出撃してオート戦闘でレイドボスを撃破することも可能。

 ぶっ壊れ、調整ミスキャラクター筆頭などと揶揄され、持っていないプレイヤーからは『アレクサンドラゲー』『面白くない、ゲームアンインストールしました』などとプチ炎上を繰り返した。


 合わせて、攻略サイトなどでなんでもできると言われているこのキャラクターだが、このキャラクターだけ・・の特徴として、バフスキルを使用することで邪神特攻と邪神耐性と継続回復を併せ持つ『日輪』という特殊な強化状態をパーティー全員に付与することができる。

 『日輪』を付与している場合としていない場合では『邪神』属性の最難関ボスのクリアタイムが三分以上変わるほどであったという。

 レイド戦などで『邪神』属性を持つボスが出現する場合は、アレクサンドラを組み込んだパーティーがランキングの上位10000位までを占めていた。


 『人権中の人権』『持ってない奴は引退必須』『グッズとガチャで10億稼いだ女』『プロデューサーの筆頭愛人』とまで呼ばれ、実装と同時に会社の株価を爆上げしてSNSのトレンドに一週間上がり続けて地上波ニュースにまでなった、ゲーム『カオスオーダー 邪神討滅』の看板キャラクターの一人。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る