■ただ一人の為にまた事件を解決へと導いてしまう

第21話 これはサークル活動の一環と言えるのか?



 西棟の一番奥の部屋、ミステリー研究会の部室となっている一室で琉唯はテーブルに肘をついて座っていた。目の前では千鶴が聡に出題された謎解きに頭を悩ませている。


 謎解きはクイズのようなものだ。


 この三人の中に一人だけ正直者がいます。誰でしょうか?


A「Cさんが嘘つきです」

B「Aさんは正直者です」

C「Bさんが嘘つきです」


 聡が言うにはこれはよくある謎解きの一つらしい。有名なもので正直村と噓つき村というのがあるのだとか。それと似たものの中では簡単なものになるようなのだが、千鶴は答えが分かっていないようだ。


 琉唯はこういったクイズが苦手なので千鶴と一緒に考えている。里奈は「難しく考えなくていいんだよ」と言うけれど、分からない。難しく考えすぎてるのかなと琉唯が思っていれば、部屋のドアが開いた。


 隼が疲れたように入ってくると流れるように座る琉唯の背後から抱き着いた。それはもうなんでもないように。



「疲れた」

「女子に告白されたんだろ、お疲れ」

「流れるように抱き着いてる……」

「里奈ちゃん、これ日常だからさっさと慣れた方がいいよ」



 はぁと溜息を吐いて抱き着きながら琉唯の肩に額を押し付ける隼の様子に驚く里奈に、千鶴は早く慣れた方が楽だよとアドバイスする。これが毎日のようにあるからいちいち驚いてたら疲れるだけだよと。



「何をやっていたんだ」

「謎解き? なんだっけ、正直村と噓つき村みたいなやつ」

「あぁ、論理クイズか」



 このクイズを隼は知っているようだ。なら、答えも分かるのだろうかと琉唯が聞けば、「どんなものだ」と顔を上げた。



「えっと、この中で一人だけ正直者がいます。誰でしょうって。証言はこれ」

「C」

「うっわ、即答」



 クイズの書かれた紙に目を通して即答する隼に驚いていれば、千鶴が「どうして!」と身を乗り出す。



「各々が正直者だった場合のことを考えてみればいい」



 Aが正直者の場合、その証言によりCが嘘つきになる。CはBが噓つきと証言しており、それが嘘となってBが正直者ということになる。Bのいう「Aが正直者」が正しいように見えるが、正直者は一人だけになるのでAが正直者というのは間違いとなる。


 Cが正直者の場合、AとBの証言が嘘となり、A視点・B視点ともに成立するため、正直者はC一人。よって、答えはCということになる。



「だから、答えはCだ」

「なるほどね! だから、難しく考えないでってことだったのねー」

「難しく考える必要はない。それにこれはまだ簡単な方だと思うが……琉唯」

「分からなくて悪かったな」



 そうだよ、分かってなかったよと口を尖らせれば、隼は「そう可愛い顔をされると何も言えなくなる」と眉を下げた。何が可愛い顔だと琉唯は突っ込みたかったけれど、倍になって返ってくるのは目に見えているのでやめる。


 千鶴もスルーして「論理クイズはわたしは苦手だわ」と感想を呟いていた。二人の反応に里奈も聡も突っ込まないのが良いのだろうと察したように何も言わない。そうだぞ、それが正しいと琉唯は心中で頷く。



「えっと、メンバーも揃ったんで今回のサークル活動についてなんですけど」

「何するの?」

「皆さん、占いって興味ありますか?」



 占いに興味があるのか。里奈の問いに琉唯はその二択なら「ない」と答えた。占いを信じるか否かは人それぞれだし、当たるも当たらないも気にしたことがない。悪い運勢の時は信じないなどそういった考えの人も中にはいるのではないだろうか。琉唯の返事に里奈は「そういう人もいますね」と返す。


 千鶴は「運勢は気になるから興味はあるかな」と、隼は「興味も無ければ信じてもいない」と答えた。彼が占いを信じていないのはイメージ通りだったので、琉唯は納得してしまう。


 けれど、それがミステリー研究会に何の関係があるのだろうか。琉唯の疑問に里奈は「ミステリーの種を今回は探そうかなと」と話す。


 ミステリー小説の題材となるモノは様々だ。王道なのは医療や心理学といったものだろう。けれど、時には茶道や華道いった専門的なものや、日常の何気ない一コマからミステリーは生まれる。今回は「占い」を題材にしてミステリーを考えてみようと里奈は説明した。



「先輩の友人に占いの館で占い師をやってる人がいるんですよ。頼んだら丁度、集団占いに参加できるって」

「集団占い?」

「一対一での対面でなく、複数人を同時に占う会ですね」



 占い師によっては人気で対面占いができないこともあるらしい。占いたい人たちが集まって一緒にやってもらうということができるのだという。できるかは占い師の対応次第ではあるのだが、里奈の先輩の友人はしているようだ。


 先輩の友人数名を占う会が入っていたので、その見学の許可が下りたということだった。興味がある人は占いにも参加できるのだと。



「占いのお話を聞いてミステリーの種を見つけてみましょう!」

「とか、言ってるけど、どうせ鈴木が占ってほしいだけだろ」

「それはサークル活動の一環と言えるのだろうか」

「うっ……。いいんですよ! ミステリーに結び付けられれば!」



 聡に図星を突かれ、隼に疑問をぶつけられても里奈はめげずに「とにかく、参加しましょう!」とごり押してきた。彼女は大人しげな見た目をしているが、なかなかに押しが強い女子だ。



「参加するって連絡は入れてるんで、皆さん行きますよ!」

「拒否権が欲しいのだが」

「鳴神、諦めてくれ」



 聡に「鈴木はこいうやつなんだ」と言われて、面倒くさげにしている隼に琉唯が「まぁ、見学だけだし」とフォローを入れれば、仕方ないといったふうに彼は息をついた。


 千鶴はと言えば、「ひろくんの予定が空いてたら一緒に参加したかったなぁ」と、占ってもらう気満々だ。女子って占い好きだよなとその楽しげな様子を琉唯は眺めていた。






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