第144話 目的地に
陛下からの密命を受けて十日後、出発の準備が整った。
国民には邪神討伐に関して告知はしていなかったのだが、どこから漏れたのか出発する時には大通りに人だかりができていた。
俺達がいない間の見習い達は、再び第二騎士団で訓練をする事になるが、生活の場は第三騎士団の敷地にある新宿舎のままだ。
出自で差別を受けない環境になったからか、たった数日で目に見えて成長した者が何人もいた。
明日からの第二騎士団での訓練では、担当する騎士がド肝を抜かれる事だろう。
指導者としての自分達の未熟さを思い知るがいい!
「人がいっぱいいるねぇ」
「ん? ああ、今回はエルネストも同行しているからな。噂を聞いた王都民が集まったんだろう」
俺の前で一緒に
この討伐隊はエルネスト率いる第一騎士団が先頭を務めている。
第一騎士団の半数は王城に残る王族の警護のために残るが、同行している騎士達の表情は死を覚悟した者のそれだ。
それもそうか、邪神討伐と言ったら貴族であれば当然歴史で習っているからな。
前回の邪神復活は世界が壊滅寸前まで追い込まれ、各地で新たな国が誕生したこの国の始まりでもある。
第一騎士団の次に俺達第三騎士団が、その後ろに聖女とジャンヌが乗った馬車、最後尾が聖騎士達だ。
最近は第三騎士団の評判も上がってきてはいるが、それでもやはり第一騎士団や聖女達の人気には遠く及ばない。
通過する時の歓声の大きさが顕著に物語っていた。
「それにしても、前に比べたらオレ達も人気者になったものだよなぁ。見ろよ、ほとんどが笑顔で手を振ってるぜ?」
タレーラン辺境伯領へ向かった時と同じ大通りを進みながら、シモンが沿道に集まった住民達を見回しながら手を振り返している。
「確かにね~、タレーラン辺境伯領へ向かった時なんて、誰も見送りになんて来てなかったよね。いや、死んでくればいいのにって目で見てるのは何人かいたかな。主にシモンが喧嘩した相手とか」
「なんでオレだけなんだよ!」
からかうアルノーをキッと睨みつけるシモン。
そんな二人の会話を聞いて、ジュスタン隊のとなりにいるリュカが不思議そうに首を傾げた。
「そうなのか? そりゃあ、第三騎士団の評判ってあんまりよくなかったけど、そんなに嫌われてたなんて知らなかった」
「それはリュカ副団長は王都にいなかったからだよ。半年前のシモンはすーぐ喧嘩を吹っかけるし、女の子口説くのも下手だし、そのくせ強引だし、悪評の三分の一はシモンなんじゃないかって思うくらいだったもんね」
わざとらしくやれやれとため息を吐くアルノーに対し、シモンがヒートアップし始めた。
俺は手綱をジェスに持たせ、そっとジェスの両耳を手で塞ぐ。
「なんだと!? アルノーだって喧嘩もしたし、女も口説いてたじゃねぇか! 修羅場になって相手の男が出て来てボコボコにしたのも知ってるんだからな!」
「僕は降りかかる火の粉を払っただけだよ。女の子に関してはちゃんと合意だし、あの時は別れた男が嫉妬して襲いかかってきたからだもんね。恋人がいる女の子に手を出して殴られた誰かさんと一緒にしないでくれるかい?」
「なにおぅ!?」
落ち着け俺、幸い歓声で俺達の声は集まった住民達には聞こえていないはず。
笑顔を作ってゆっくり振り返り、地を這うような低い声で二人に忠告する事にした。
「シモン、アルノー。お前達今どんな時かわかっているのか? これから邪神討伐に行くというのに、その団員同士が言い争っているのを住民が見たらどう思う? せめてそういうバカげた言い争いは王都を出てからやれ」
「「はいっ」」
馬上で声を揃えて姿勢を正す二人。
前に向き直るとジェスの耳から手を離し、手綱を持ち直して王都を出た。
目的地へ行くには王都の横を流れる大河を突っ切れば早いのだが、この大所帯では船が足りないため、迂回するしかない。
点在する山や森から時々魔物が出て来る事はあるが、一行を見て襲って来るバカな盗賊はさすがにいなかった。
聖女やジャンヌ、必要な各分野のエキスパートや下働きの者達が乗っている馬車もあるのでタレーラン辺境伯領へ向かった時より倍の時間がかかっている。
小説通りなら邪神の復活までしばらく猶予があるはずだからそう焦らなくてもいいが、俺以外は復活の時期なんて知らないから内心焦っているんだろうな。
移動を開始して十日ほど過ぎた頃、ジャンヌの様子があからさまにおかしくなっていた。
実際邪神復活の場所を聞いた時から、何かを気にしている風ではあったが。
あとふたつの領地を通れば目的地の半島がある場所に到着するというところまで来たせいか、何かを感じ取っているのだろう。
この日の野営地に到着した時、ジャンヌに話を聞く事にした。
「ジャンヌ、どうかしたのか? 何か気になる事があるのなら教えてくれ」
「主殿……、気のせいだと思いたかったのだが、どうやら気のせいではないらしくてな。邪神が封印されている場所に……ジェスの父親がいる」
「な……っ!?」
嘘だろ、と言いたかったが、ジャンヌの表情はそれが冗談でも何でもないと物語っていた。
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