第129話 アランとの別れ
聖女の一行がサラモナに到着した翌日、俺達は早々に王都に向けて出発する事になった。
見送りにはサラモナの神殿関係者と、フラレスから来ている全員が集まっている。
聖女は怪我を治してもらった奴らが泣きながら感謝を伝えていたり、神殿関係者から惜しまれたり忙しそうだ。
こちらでは討伐作戦で一緒になった冒険者達が、意気投合した騎士団員と別れを惜しんでいる。
お前ら一緒に花街にでかけたりしたらしいからな、そりゃ仲良くもなるだろう。
ちなみに俺の前にはアランが泣きそうな顔で立っていた。
「兄貴……、本当は俺も一緒に王都へ行きたいんだけどよ……」
「バカを言うな。お前はフラレスで冒険者達をまとめるという役目があるだろ? それに……三十年以上アランとして生きてきたんだ、大和としての七年間よりずっと長い時間じゃないか。自分を認めてくれる場所があるのは幸せな事だからな」
生まれた時期も記憶を思い出した時も、もっと前に出会っていたとしてもどうしようもなかった。
むしろお互い前世を思い出す前に出会っていたら、俺がアランを無礼だと言って打ち据えていてもおかしくない。
だから今が出会う最適な時期だったのだろう。
「ああ……、そうだな。あと十年もしたら冒険者を続けるのも大変になるだろうし、それまでに後進を育てないと」
「王都に来た時は会いに来い。そうだな……、それこそ十年経って冒険者を引退したのならウチの屋敷で警備として雇ってやる。その頃には俺も結婚してるだろうから屋敷もあるだろう、アランも家族で来てもいいぞ」
「ははっ、俺もそれまでに結婚しねぇとな。けど二回失敗してるからなぁ……」
ここにきてまさかの答えが返ってきた。
すでに結婚した事があったのか。なんだろう、この複雑な気持ちは。
「次に結婚する事があったら、一応俺にも報せてくれ。お祝いくらいはしたいからな」
「じゃあ兄貴も結婚する時は教えてくれよな! お祝いしに王都へ駆けつけるからよ!」
「そうだな。冒険者ギルド経由なら連絡もつけやすいだろう。…………その前に邪神を討伐して平和にしないとな」
俺の呟きにアランがヒュッと息を飲んだ。
「邪神の復活……。冒険者の間でも噂になってるけどよ、やっぱり本当なのか?」
「ああ、だが場所がどこなのかすら不明なんだ。だが聖女と第三騎士団である俺達は確実に討伐に向かう事になる」
「兄貴……」
「そんな顔をするな。勝算はあるんだから!」
「わわっ!?」
再び泣きそうな顔になったアランの頭をワシャワシャと撫でる。
慌てるアランの服の裾をジェスがクイクイと引っ張った。
「あのねぇ、討伐にはボクもボクのお母さんも一緒だからジュスタンを守るよ。だから安心して」
「陽向兄ちゃん……」
「ジェスだよ!」
心強い笑みを見せたジェスに、思わず陽向の名前を出して怒られるアラン。
「わ、
「うん!!」
アランとジェスが拳をコツンと合わせていると、アクセルがもう出発すると全員に告げた。
一行から見送りに来ていた者達が声をかけながら離れていく。
「兄貴、ジェス、元気でな!!」
「ああ、アランも怪我をしないように気をつけろ」
「じゃあね、アラン!」
そうしてサラモナを出発したのはひと月ほど前。
聖女の希望もあり、宿屋を利用せず進めるだけ進んで野営するという方法で移動を続けたおかげで、トラブルもなく王都に到着した。
「くぅ~、やっと自分のベッドで眠れるぜ~!」
シモンがガッツポーズしながら喜んでいる。
「寝袋だと寝返りも打ちにくいもんね。でも一番喜んでるのは従騎士の子達だろうねぇ、食事作りから解放されるんだもん」
「そりゃ嬉しいですけど、オレール副団長の方が嬉しいんじゃないですか? やっと婚約手続きして逢瀬解禁になるんですから」
アルノーがマリウスを見ると、マリウスは目尻の下がっているオレールに視線を向けた。
あの様子じゃあ、到着直後に婚約届を出しに行くんじゃないだろうか。
同行していた神官長は知っているだろうが、神殿長からしたら寝耳に水だろうな。
だがまぁ、あの神殿長なら邪神討伐で先陣を切るであろう
元々懐は広いタイプだろうし。
「では我々は神殿へ戻りますので。ジャンヌ殿はこちらで屋敷へ送らせていただきますが、ジェス殿はいかがされますか?」
南東の門から王都に入ったので、途中にある広場で分かれ道となる。
アクセルが隊列を止めて話しかけてきたが、その時馬車のドアが開いてジェスが降りてきた。
「じゃあね! ボクここからジュスタンと行くから! ジュスタン、ここで別れて宿舎へ帰るでしょ?」
「ああ。よくわかったな」
聞くまでもなくジェスはジャンヌ達に別れを告げて、こちらに走ってきた。
両手を上げて俺を見るジェスを、抱き上げて前に乗せる。
「それでは……、恐らく明日には謁見の間でお会いする事になるでしょう。お疲れ様でした」
「ああ、大変だったな。……お互いに」
道中、会話できないからと隙あらばアイコンタクトをしようとする二人を、お互いの視界に入れないようにするのが大変だったのだ。
オレールは命令違反をして聖女に近付く事はないものの、見つめ合う二人はどこからどう見ても愛し合う二人だとバレるので仕方がない。
アクセルは最後に疲れた微笑みを浮かべ、聖騎士達は角を曲がって行った。
さて、明日は俺もオレールと聖女の事を陛下に報告しないといけないんだよな。
この事を知ったエルネストがどう出るか……。こっそりとため息を吐いてから宿舎へと戻った。
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