第128話 神託の内容
「嘘だろ……っ」
夕食後、聖女の部屋で聖国での事、つまりは神託の内容を聞いたのだが、俺は頭を抱えた。
ジャンヌから聞いた邪神討伐についてではなく、その後に俺が各国に赴く必要があるらしい。
「え~と、
俺を見ながらコテリと首を傾げる聖女と、その隣に座って顎に手を当て考え込むオレール。
「もしかして本来だったらタレーラン辺境伯領で団長は死ぬはずだったとか……。それだとジェスも一緒というのがわかりませんね、う~ん」
理に関しては心当たりがある。恐らく前世を思い出して悪役としての行動をしなくなった事だろう。
ジェスも本来なら俺と一緒にもう討伐されていたはずだからな。
小説のストーリーから外れた事を指しているに違いない。
「…………で、邪神討伐後、理を外れた者達が
オレールが聖国で書き記した報告書に目を通し、読み上げる。
随分と古めかしい言い回しで書かれているせいで、聖女は意味よりも言葉の音と感覚でしか理解できなかったらしい。
「同族というのは人族という意味ではなく、同じ立場の人の事みたいなんですよね。騎士団長をしている人の事でしょうか?」
「なるほど、同じ立場……か」
平静を装いつつ、俺は今絶賛混乱中だ。
恐らく同じ立場の人というのは、俺のように悪役に転生した奴の事だと思う。
あ、それだと俺が行かなくても普通に悪役ムーヴをせずにバッドエンド回避できるよな?
という事は転生したんじゃなく、悪役に生まれた奴を救えという事だろうか。
「そのためにも、まずは邪神討伐を成功させなければなりませんね。復活は間もなくらしいですし」
考え込んでいると、アクセルが真剣な顔で言った。
「確かに邪神討伐ができない限り、未来を語る事はただの絵空事になりかねんからな。いつ復活するかハッキリわかるといいんだが、さすがにそれは女神でもわからなかったか?」
「それが……、本来の復活の時より早くなるから備えるようにとだけ……」
小説内でも日付が書かれていたわけじゃなかった気がする。
だが物語の進行上、聖女が現れて数ヶ月後だったはず。だとしたらどちらにしても一年以内という事だ。
俺が国外に出る事については、先に邪神討伐を終わらせてから考えればいい。
「そうか……。ところで二人が恋人として付き合うようになったのは何が切っ掛けだったんだ? 聖国に向かう時までそんな雰囲気は全くなかったと思うんだが」
自分の中で話が一段落したせいか、疑問に思っていた事がついうっかり口から漏れた。
当人達は二人揃って顔が真っ赤に染まっている。
どうやらジャンヌが言った通り、ままごとの域を出ていない付き合いのようだ。
そして数分後、俺は余計な事を聞いたと後悔していた。
甘い、いや、甘酸っぱい聖女の初恋の話と惚気を混ぜた内容を聞かされ、砂糖を吐くかと思った……。
オレールが押しに弱かったのは意外だったが。
「そういえば聖女は王家に嫁ぐ事が多かったはずだが、騎士爵しか持っていないオレールの妻になるのは問題ないのか? まぁ、邪神討伐を完遂すれば叙爵されるだろうが」
「妻……!?」
「そ、そんなっ、気が早過ぎますよ団長! 先日お付き合いする事が決まったばかりで……、それにこんなおじさんの私なんていつ愛想を尽かされるかわからないんですから」
「愛想尽かすなんて事ないですっ!」
「エレノア……」
「オレール副団長……」
俺はアクセルに聞いたつもりだったが、それより早く聖女とオレールが反応した。
そして見つめ合って二人の世界に入ってしまったようだ。
「コホン。基本的に聖女様の御意思が尊重されますので、貴族と繋がりのある利権を求める一部の者以外は反対しないかと」
咳払いをして俺の質問に答えてくれたアクセル。
お前こんな空気にずっと耐えていたのか、王都に戻ったら一度飲みに連れて行ってやろう。
「オレール……せめて婚約でもしておかないと、アクセル団長の言う一部の者が画策して気付いたらエレノアは誰かと婚約してた、なんて事になってもおかしくないからな。むしろ婚約前に周りに知られたら、ラルミナ
「そんなっ」
聖女の悲痛な声に、オレールはそっと手を握った。
「エレノア、不安になるのであれば王都に戻り次第婚約しましょう。だからそんな顔をしないでください」
「オレール副団長……」
再び見つめ合う二人。
「二人が婚約する仲だという事は、王都に到着するまで周りに漏れない方がいいだろう。…………というわけで、お前達は二人でいたらすぐにその甘ったるい雰囲気になってバレるだろうから、宿屋の個室内以外での接触は禁止だ! オレール、お前に関しては団長命令だからな!!」
「「えぇっ!?」」
ショックを受ける二人とは対照的に、アクセルは心底安堵した顔をしていた。
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