第127話 部屋割り
怪我人の治療を終えた聖女は旅の疲労と神聖力を使った事によりグッタリとしてしまい、オレールに抱きかかえられて馬車に連れて行かれた。
後でと言われたフラレスの治癒院長は結局放置されて泣きそうな顔で連れて行かれる聖女を見送っていたが、聖女の治癒の力をその目で見る事ができたのだからそれで満足してもらうしかない。
馬車での移動中にオレールが聖女を膝の上に抱きかかえたままだった上、治療魔法を受けた冒険者達のためにアランが治癒院に残った事で俺はとても気まずい思いで馬車に乗っていた。
二人からしたら俺の存在なんて目に入ってないみたいだったけどな。
宿屋に到着すると、残った聖騎士が手続きを済ませたのか、すぐに聖女は客室で休むことができた。
もうすぐ夕食という事もあり、オレールには一旦部屋で休んでから食後に話を聞かせてもらう事に。
そして俺は自分がジェスと泊っている部屋に戻ったわけなのだが……。
「どうしてジャンヌがここにいる?」
「なに、聖騎士達もいるせいで部屋数がギリギリだそうでな、妾はジェスと一緒に寝る事にしたのだ。構わぬであろう?」
「お母さんはボクと寝るからこっちのベッドだよ! ここのベッドはジュスタンの部屋みたいに大きめでよかったね。シモン達の部屋は半分くらいの大きさだったよ」
本来なら商隊の主と雇われている者の部屋で落差が激しいのは自覚している。
部下達は俺とオレールが貴族だからと、俺達だけいい部屋に泊まっていても当たり前と受け入れているのは幸いだ。
「ジェスとこうして一緒に寝るのも久方ぶりだの。人化しているとドラゴンの姿より近くて嬉しいぞ」
「えへへ、ボクも!」
ダメだ、こんなに喜んでいるジェスに今更ジャンヌは別の部屋だなんて言えない。
「わかった……。後でオレールにも聞くが、とりあえず夕食まで聖国で何があったか教えてくれるか?」
「うむ、とりわけ知りたいのはオレールとエレノアの事かのぅ?」
大きな枕を背もたれにしてベッドでくつろぎ、ジェスの頭を撫でながらニヤリと笑ってこちらを見るジャンヌ。
確かにそれも気になるが、それより王国の騎士団長として知っておかなければならない事がある。
「……それは本人が話したければ話すだろう。道中や聖国内で問題はなかったか?」
「そうだのぅ、聖国側はエレノアを留め置く気満々で我らと引き離そうとしておったが、それは妾が阻止しておいた。それに本神殿におる時、エレノアが女神に呼ばれて神託の間という地下に転移させられて少々騒ぎになったくらいかの。その神託の内容を王や大神殿に伝えるために早々に聖国を出発できたのだが……」
ちょっと待て、今聞き逃してはいけない単語が出てきたぞ。
「…………神託?」
「本来なれば曖昧な言葉をひと言ふた言告げるだけのものらしいが、今回はそうではなかったようでな。オレールと本神殿の者が必死に書いておったぞ」
「どんな内容か覚えているか?」
「掻い摘んで言うと、邪神の復活は間もなくであり阻止せよというものと、その後土地の浄化のために聖女は国を十年出てはならぬという事、あとは……主殿が忙しくなるらしいぞ」
「どういう事だ?」
「それはまず邪神討伐が終わらねば何も始まらぬ事だが……」
『団長~、夕食の準備ができたらしいぜ~』
無遠慮にドンドンとドアを叩きながら声をかけてきたシモン。
「わかった、すぐ行く。先に食べていてもいいぞ。ジャンヌ、続きはまた後で頼む」
「続きならば妾ではなく、神託を書きとめていたオレールに聞けばよかろう。ついでにエレノアとの馴れ初めも……ふふふ」
「二人の馴れ初めはともかく、どちらにしてもオレールから話を聞かなくてはならないからな。食後はジェスと二人でゆっくり過ごすといい。戻るのは何時になるかわからないから先に休んでいてくれ」
重要な話が終われば、酒でも飲ませて色々話を聞かせてもらうか。
別に馴れ初めを聞きたいわけじゃないが、二人の関係を神殿や王家がどう受け止めるかによって対策も必要になるだろう。
「妾とジェスは夕食はいらぬ。そうそう、あの二人はまだままごとのような関係ゆえ、無粋なまねはせぬようにな」
なるほど、まだ両想いになったばかりだから二人きりの時間を作ってやれという事か。
あまり遅い時間だとアクセルが会うのを阻止するだろうしな。
仕方ない、どうせなら神託を受けた本人も一緒に話を聞かせてもらおう。
「部下の幸せを邪魔するほど嫌な上司じゃないつもりだ。それじゃあ行ってくる」
「いってらっしゃーい!」
「早く戻るなら妾が酒の相手でもしようぞ」
二人に見送られて部屋を出て食堂に向かうと、騒がしい声が聞こえてきた。
「やったぁ! 唐揚げじゃねぇか! うまぁ~、こっちでも食べられると思わなかったぜ」
「あの、初めて見るんですけど、なんですか?」
「コレは唐揚げって言って、ウチの団長が考えた料理だって料理人達が言ってたぜ! 美味いから食ってみろって! あふれ出てくる肉汁が最高だぜ?」
「はむ……アチチ、んんん!!」
「な? 美味いだろ!?」
野営料理はお互い知っているが、野営で作れないレシピは商業ギルドに行かないと見れないせいか部下達がドヤ顔で説明していた。
この日以降、聖騎士達が俺に尊敬の眼差しを向けてくるようになったのは気のせいだろうか。
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