第123話 聖国での出来事2[SIDE エレノア]

 聖都の本神殿に到着した時には、女の園と化した馬車の中は妙な連帯感に包まれていた。

 見習い神官のアルマとイネスは二十歳を過ぎたくらいで年齢もさほど離れていないせいか、私の事を聖女様ではなくエレノア様って呼んでくれるようになったのも嬉しい。



 本神殿の建物の前に馬車が止まると、オレール副団長ではなくアクセル団長がエスコートをしてくれた。

 きっと神殿の敷地内だから立場を考えて譲ったんだろうなぁ。こういう気配りも大人なんだなぁって感心しちゃう。



「聖国へようこそ、聖女様。本来ならば私が出向きたいところだったのですが、この老体に長旅は厳しく……。来訪を心より歓迎いたします」



 そう言ったのは大神殿の神殿長より豪華な衣装のおじいちゃん。眉毛も髭も長くて真っ白だった。

 ご飯とか食べにくそう、顔の毛を全部剃り落とした方がスッキリしていいんじゃないかなぁ。



「聖女様、こちらはこの本神殿の神殿長、フランソワ様です。現在七十四歳という、過去最高齢の神殿長なんですよ」



 そう笑顔で説明してくれたのは使者として一緒に旅をしてきた高位神官のフェルナンさん。



「はじめまして、エレノアといいます」



 えーと、神殿関係者には右手でおへそを隠すようにして上半身から頭を下げる……っと。

 チラリとアルマとイネスを見ると、よくできましたと言わんばかりの笑顔で見守っていてくれた。

 あの時ジャンヌさんとオレール副団長が二人の同乗を提案してくれなかったらこんなに仲良くなれなかっただろうな。



「長旅でお疲れでしょう。すぐに聖女様のお部屋・・・・・・・にご案内させましょう」



 神殿長が手を挙げると、見習いではない女性神官が進み出た。

 もしかしてせっかく仲良くなったのに、アルマとイネスとはここでお別れなのかな。

 そう思った時、私を庇うようにジャンヌさんが前に立った。



「待て、アルマとイネスはこの本神殿とやらの造りを理解しておらぬのか? せっかく道中共に過ごしたのだ、二人の身体がつらくないのであればエレノアの世話は二人に任せたいのだが。それとこの国に長居する気はないゆえ、エレノアと妾は二人部屋の客間を所望する」



「あなたは……報告にあったドラゴン殿ですかな?」



 神殿長が話しかけたが、かなり緊張しているのが私にもわかった。



「いかにも。わらわはドラゴンのジャンヌという。ひとつ言っておくが……聖女を聖国に留め置いたせいで邪神討伐が遅れて被害が出たら、聖国がどのような非難を浴びるかわかっておるのか?」



「…………ッ! そ、そのような事はしませんよ。本神殿に代々伝わる聖女様のお力を増幅させるという宝玉を直接お渡しするのが目的だったのです。お渡しする前にこの事が外部に漏れないように、直接こちらに来ていただいたまでの事。それに聖国だからこそ聖女様のお力になれる事も多いはず」



 本当かなぁ、ここに来るまでに馬車の中とかいくらでも話す機会はあったのに。

 それとも使者として来た神官達には知らされてなかったのかなぁ。



「ふっ、聖女の力に……とな。人族であるそなたらと、ドラゴンであるわらわ、どちらが神に近しい存在だと思うておる。どちらが力になれると? その宝玉とやらを渡すだけであれば、妾がエレノアを連れて飛んできてもよかったのだぞ」



 ふふん、と勝ち誇ったように笑みを浮かべるジャンヌさんは頼もしくてとっても格好良かった。



「ではお二人の部屋を準備させましょう。アルマ、イネス、二人は引き続き聖女様のお世話を」



「「はい」」



 結局私達はすでに用意されていた私用の部屋で休憩し、準備が終わったと呼ばれて二人部屋に移動した。

 その隣の部屋にオレール副団長達が泊まる、泊まらないでひと騒動あったけど、私は見て、聞いてしまった。



 聖女の隣室を男性であるオレール副団長達に使わせるわけにはいかない、と主張する神官に対し、壁際に追い詰めて両手で逃げ道を塞いで閉じ込めた状態にして、上から耳元に口を近付けて発せられた低い声で乱暴な言葉を。



「こっちは王命で聖女様の護衛をしているんだ。聖女様がラフィオス王国の民である限り、本神殿の言う事より王命を優先するのは当たり前だろうが。それとも王命に背いて死ねと言いてぇのか? あんたの権限で?」



 人の気配がしてこっそり廊下を覗いた時に偶然見てしまったけれど、普段の優し気なオレール副団長と全く違う姿に不覚にもドキドキしてしまった。



 私が廊下を覗いたまま動かなくなったのを見たアルマとイネスも、私の下からしゃがんで一緒に覗いて興奮しながらキャッキャと話していたし。

 そのせいで覗いていた事がオレール副団長にバレた。



「いやだな……、見ていたんですか? ああいう手合いは乱暴な言葉に免疫がないから、黙らせる時には部下達のマネが有効なんですよ」



 神官がいなくなってから、はにかんでそんな事を言われ、なぜか私の心臓はさっきよりもドキドキとうるさい音を立てていた。



「なにやらエレノアの心の臓が騒がしいのぅ、誰ぞに恋でもしたのかえ? ほほほ」



 ジャンヌさんが冗談めかして放った言葉に、私の頬は一瞬で熱くなった。

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