第122話 聖国での出来事[SIDE エレノア]
「あっ、あの看板、聖国って書いてありますっ!」
ジュスタン団長達と別れてから半日ほどで、聖国に到着したらしい。
馬車の窓から見えた看板を指差してジャンヌさんに知らせると、優雅に頷いて微笑んだ。
「そうだの。この先はある意味敵国も同然と心得るがよい。聖国の者共はそなたを引き止めようとするであろう、だが妾はそう長居する気はないのでな。教皇とやらに顔を見せたら早う帰ろうぞ」
「ふふっ、そうですね。やっぱりジェスちゃんがいないと馬車の中も静かになって寂しいですよね」
「そうでもないぞ? そなた一人でも十分賑やかと言えよう。だが……やはりジェスとは一緒にいた方が心安らかではある」
優しい微笑みを浮かべるジャンヌさんに、村に残してきた家族を思い出した。
私の手紙、ちゃんと見てくれたかな。そんな事を思いながら窓の外を見る。
今朝雨が降ったのか、草についた水滴が太陽を反射してキラキラしているのをしばらく眺めていたら、馬車が止まった。
『馬を休ませるためにここで休憩するそうです』
馬車の外からオレール副団長が教えてくれた。ジュスタン団長が命令したからか、サラモナからずっと気にかけてくれいてる。
たぶんお父さんよりは若いけど、第三騎士団の中で一番年上なんじゃないかなぁ。
馬車のドアを開けてエスコートの手を差し出してくれる、アクセル聖騎士団長もしてくれるのでエスコートされるのもかなり慣れてきたもんね。
手を重ねようとしたら、差し出された手が消えてオレール副団長が動いた。
「ああ、少々地面がぬかるんでいるので失礼しますね」
「きゃっ」
気付くと私はオレール副団長に抱き上げられていた。
これはあれだ。まだスラスラ読むのは難しいけど、読みたくて文字の勉強がはかどるからと、女性見習い神官がこっそり貸してくれたロマンス小説の挿絵にあったお姫様抱っこ!
落ちないように思わず首にしがみついてしまった。
だけどオレール副団長は優しく微笑んで落としたりしませんよって冗談を言って笑わせてくる。
もっと真面目な人かと思っていたけど、楽しい人みたい。
実際私を抱き上げている腕も、私が掴まっている身体もすごく鍛えられているのがわかるくらいガッシリしている。
畑仕事をしているお父さんやお兄ちゃんもガッシリしていたけど、ちょっと違う。
聖国の使者団が準備してくれた敷物が敷かれた休憩場所まで来ると、そっと下してくれた。
なんだか聖国の人達は私がお姫様抱っこされているのを見て嫌そうな顔をしていたけど、私は笑顔でオレール副団長にお礼を言った。
そしてその後すぐに、ジャンヌさんがビチャビチャと音を立ててこちらに歩いてきた。
「おお、この短い距離でずいぶん靴が汚れてしもうたわ。『
もしかしてジャンヌさんは聖国の人達に文句を言わせないために、わざと靴を汚しながら歩いてくれたのかもしれない。
魔法ですぐに綺麗になっていたけど。
「明日の夕方には聖都に入れる予定ですが、そこまでこちらの馬車に乗りませんか?」
休憩中に使者の神官達がそう言い出した。
だけど正直気詰まりのする馬車はもう乗りたくない。
そう思っていたら、ジャンヌさんとオレール副団長が目配せし合ってから頷いた。
「失礼。貴族令嬢も婚約者以外の異性と馬車に乗るのは好ましくありません。ですのでここはそちらの女性神官の方々だけ同じ馬車に乗るというのはいかがでしょうか。ここまで世話をしてくれた相手であれば聖女様も問題ないでしょう」
女性神官の方々、というのは道中私のお世話をするために聖国から来ている女性見習い神官達の事だ。
確かに最初に比べたら少し世間話をするくらいには仲良くなってきたけど、馬車でずっと一緒となると少し不安なんだけどなぁ。
休憩が終わり、結局私達の馬車に女性見習い神官の二人も乗る事になった。
どうやら二人はドラゴンであるジャンヌさんに緊張しているみたい。
「ふふ、そのように緊張せずとも、取って喰うたりなんぞせぬよ。……ところでそなたら、エレノアが文字の勉強をしている事は知っておるな?」
「「はい」」
「ラフィオス王国の大神殿でエレノアの世話をしている神官に話のわかる者がおっての。興味を持って文字を覚えられるようにとロマンス小説をエレノアに渡したのだが……、そなたらのおすすめは何と言う題名か言うてみよ」
「えっ!?」
「そ、そのような……」
道中ジャンヌさんに話したのは私だけど、こんな風に暴露されるとは!
焦る私をそっちのけで、ジャンヌさんは二人に好奇心いっぱいの目を向けている。
あれ? 確かにこの二人、驚いてはいるけど否定とかしていない……。まさか……。
「おすすめがあれば教えてください! 実はさっきオレール副団長が靴を汚さないようにってお姫様抱っこしてくれた時にちょっとドキドキしちゃいました! だって挿絵と同じだったんですもの!」
「あっ、わかります! 討伐隊として来られていた方々と違って、護衛として同行されている騎士団の方々は騎士の正装ですからとても絵になっていました! 聖騎士団長であったなら更に絵になっていたかと!」
試しにつついてみたところ、我慢できないとばかりに見習い神官の一人が前のめりになって話し始めた。
もう一人も力強く頷いている。
もしかしてジャンヌさんとオレール副団長はこの二人の性質を見破っていたから同乗させたのかもしれない。
こうして私達は男性陣には聞かせられないような事までキャッキャと話しながら聖都へと向かった。
◇ ◇ ◇
ここからは合流するまでの間の出来事が数話続きます。
たぶん次回もエレノア視点、その次はジャンヌ視点かオレール視点か迷う……。
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