第97話 ジャンヌ、王城へ行く
王城に到着した俺達は、謁見の間へと案内された。
どうやら急遽集められたであろう大臣達も勢揃いしている。
これは国の重鎮が揃って歓迎しているという態度を示しているのだろうか。
ジャンヌやドワーフ達と共に陛下の前まで来ると、陛下が玉座から立ち上がった。
「よくぞ来てくれた、余はそなた達を歓迎する! ヴァンディエール騎士団長から聞いているかわからぬが、そなた達の住まいは現在設計中でな、それまでは仮住まいとして王家が所有する屋敷を提供しよう」
「……人族の王よ、それならばその住まいの設計とやらはドワーフ達に任せてみてはどうだ? こやつらは何かを造る事に関しては一流の者達だからな」
ジャンヌはドワーフ達を顎で示した。
そしてその態度をよく思わない貴族は当然いるわけで……。
「無礼な! 陛下の御前でそのような態度を取るとは!」
予想通り馬鹿がいた。
あいつは確かグラス侯爵家の次男だったな、家を継げないから出世しようと陛下の目に留まりたくて言ったのかもしれないが短慮過ぎるだろ。
「フン、なにゆえ妾が人族の王などに気を遣わねばならぬ? お前のひと言が原因でこの王都が
ジャンヌがジロリと睨むと同時に、その場に圧がかかった。
殺気というより覇気に近い物だとは思うが、この圧を俺に向けられたとしたらかなり動きが鈍くなるだろう。
それを嗜みとしての基礎訓練程度しかしていない侯爵家の次男が体験すると……。
「ヒ……ッ、ひぃぃ……」
予想通り腰を抜かして尻もちをついてしまった。
……股間が濡れているのは見なかった事にしてやろう。
周辺の文官達も直接睨まれていないのに足が震えているのがわかる、全員が視線を床に落としてこちらを見ようとしない。
「ジャンヌ、そのくらいにしておいてやれ。本来の姿を見ていたら間違っても今のような発言はしなかっただろうが、今のジャンヌはどこからどう見ても人族の美女にしか見えないから
「主殿がそう言うならば……。ふふ、そうか、主殿から見ても妾は美しいと思うのだな」
ジャンヌはそう言うと、圧が消えて妖艶に微笑んだ。
しかしその目は明らかにからかおうとしているのがわかる、というか、従魔契約しているせいかもしれない。
だが実際美しいのは確かで、さっきまで青い顔をしていた文官や大臣もジャンヌに見とれていた。
グラス侯爵家の次男はというと、陛下の合図で第一騎士団の騎士に連れ出されている。
着替えを持って来ているといいな。
「コホン、とりあえずヴァンディエール騎士団長よ、これ以上愚か者が出ぬようその者らを皆に紹介してくれるか?」
「ハッ! ではこちらの女性……ジャンヌですが、二百年以上生きたドラゴンでジェスの母親です。すでに私とは従魔契約を結んでおり、今後はジェスと共に第三騎士団で過ごす予定です」
「妾がジャンヌである。よしなに……」
「う、うむ」
こらこら、目が不都合な事があればわかっているんだろうなぁ? と言っているようにしか見えんぞ。
陛下は微妙に引きつった笑みを浮かべて頷いている。
気を取り直して今度はドワーフの長を紹介しよう。ひとりずつ紹介しなくても、代表の長だけでいいよな?
「そしてこちらがドワーフの長、バシル殿です。他のドワーフの方々はまだ私も名前を聞いてませんので、交流をされた際に直接尋ねていただければと」
「儂が長のバシルだ、人族の王よ、世話になる。代わりに国が抱えている職人達に儂らの技術を教えるのもやぶさかではない。あくまで見込みのある奴だけにはなるがな! わはははは」
「うむ、期待しておる。ところで先ほどジャンヌが言った設計に関してどう思う?」
どうやら陛下はドワーフの技術に興味津々のようだ、目が少年のようにキラキラしている。
バシルもそれをわかっているのだろう、陛下に対してニヤリと笑った。
「儂らに設計と建築を任せてくれるのであれば、王が泊まりに来たくなるような機能美が詰まったものを見せてやるとも! ついでに用意してくれるという工房の方も設計させてほしい」
「ほほぅ、よし、わかった! では関連部署の文官を明日から専属で付けよう、何かあればその者に言うといい。この後は基本となる第三騎士団の宿舎を見てもらってから、滞在する屋敷へと送り届けよう」
「感謝する!」
どうやら陛下とバシルは気が合ったようだ。
まるで以前から友人のような雰囲気になっている。
ある意味王と長という、人の上に立つ立場だからこそ通じるものがあったのかもしれない。
謁見が終わり、再びジャンヌとドワーフ達は馬車に乗り、第三騎士団の宿舎へと向かった。
宿舎内の見学をしていると、初めてジャンヌを見る部下達は色めき立ち、ジャンヌを知っているジュスタン隊とエリオット隊の者達がしたり顔で説明しているのが見える。
ジェスはそんな遠巻きにこちらを見ている部下達のところへ走って行った。
「あのね、ボクのお母さんなんだよ! 綺麗でしょ! ドラゴンの姿もすっごく大きくて綺麗なんだよ!」
そうドヤ顔で自慢しているが、ジェスの本来の大きさを知っている部下達は、『すっごく大きくて』の部分で顔を引きつらせていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます