第55話 お友達
聖女が陛下から貴族達に紹介され、付け焼刃にしては見られるカーテシーで挨拶をしていた。
最初に会った日と比べたら、かなり成長したんじゃないか?
挨拶や紹介が終わると、俺達の立っているフロアの真下にいる楽団が緩やかに演奏を始めた。
下のフロアにいる貴族達は思い思いに踊ったり、軽食や飲み物を楽しんでいる。
「聖女よ、そなたも下で夜会を楽しんでくるといい。ヴァンディエール、今夜は護衛兼エスコート係として頼んだぞ」
「ハッ」
陛下に対して騎士の礼をし、聖女に手を差し出した。
本日二度目のエスコートだったからか、自然な動作で手を乗せてゆっくりと階段を下りる。
隣に婚約者がいるんだから、羨ましげに俺をみるんじゃない、エルネスト。
もしかしてエルネストもコンスタンと同じで胸の大きい方が好きなのか?
いや、ディアーヌ嬢だって決して小さいわけじゃないよな。
ああ、未来の王妃として
ディアーヌ嬢はヒールを履いたら、エルネストとあまり身長差がないしな。
「で、ダンスは踊れるのか?」
「いえ……、それが毎回先生の足を踏んでいる状態で……」
どうやらダンスは苦手なようだ。
「ならば食事は? あちらに軽食や飲み物が置いてあるぞ、酒は……飲まない方がいいか?」
「お酒は飲んだ事がないので、やめておくようにと神殿長から言われてます。興味はあるんですけどね」
考えてみればかなり若そうだしな、確実に未成年だろ。
お酒ではなく、ソフトドリンクが並んでいるテーブルへと誘導する。
「そういえば聖女はいくつだ?」
「今年で十七歳になりました!」
「へぇ、だったら酒は数年待った方がいいだろう。十七歳なら王都になれた頃に王立学院に通うように言われるかもしれんな。年齢的に一年も通わないとは思うが」
空いている方の手で果物のジュースが入ったグラスを取り、聖女に差し出した。
「あ、ありがとうございます……。その王立学院という所にジュスタン団長も……?」
「以前は通っていたぞ。貴族であれば十二歳から十六歳になる四年間学ぶんだ。一、二年くらいは事情があってズレるというのは珍しくない。まぁ……、貴族社会の縮図みたいなものだから、苦労も多いが学ぶことも多いだろう」
「あ……、護衛として一緒に……なんて事はやっぱり無理ですよね……」
しょんぼりとしながらジュースを飲む聖女、なぜこんなに懐かれているんだろう。
「俺は第三騎士団の団長だからな。聖女の護衛なら聖騎士がするに決まっているだろう。それ以前に王立学園内で護衛は許可されていない、王族のみ未来の側近が護衛のような事をしているが。寂しいのか?」
一応護衛という立場上、酒を飲みたいのを我慢してジュースだ。
ひと口飲んで喉を潤すと、ニヤリと意地悪な笑みを聖女に向けた。
「……っ! そうですよ! だって、お友達は一人もいないし、みんな丁寧な言葉でしか話してくれないし、ジュスタン団長だけが普通に話してくれるから……っ」
…………反射的な行動だった。
身体ごと振り向いた瞬間、聖女がバランスを崩して俺の方に倒れ込んできた。
慣れないドレスのせいだとは思う。だから仕方ないよな、抱き留めたりしたら噂になるのは確実だ。
つまり、俺はそれを押しとどめただけで……。
「酷いですよぅ、ジュスタン団長……」
「あ、いや、すまない。つい……」
状況としては、俺が聖女の頭を掴むような恰好で近付けなくしている。
たぶん俺と聖女の身長差は三十センチほど、自然と押さえつけるような形になってしまうというわけだ。
違う意味で噂になりそうな状況を作り出してしまった。
謝りながら、少し乱れた髪をチョイチョイと直してやる。
「しょうがないですねぇ……、お友達になってくれるというなら許します。お友達だったらこのくらいの事、じゃれ合いで済みますから」
聖女はわざとらしく拗ねた表情を作りながら、チラリと俺を見た。
絶妙な条件を出してきやがった。
だが、今後邪神が復活したとしたら、小説では壊滅していたから戦っていなかった第三騎士団が駆り出されるはず。
ある意味聖女と仲良くしておいて損はない。
むしろ回復魔法なんかで部下を助けてもらう事もあるだろうからな。
「わかった……」
観念してそう答えた時、会場に大きな声が響き渡った。
「ヴァンディエール! 聖女になんという事をするんだ!」
「エルネスト様……!」
「ディアーヌは黙っていてくれ、さっきの奴の行動を見ただろう!?」
声の主はエルネスト、いつの間にかディアーヌ嬢と広間に下りて来ていた。
おいおい、俺に対する濡れ衣で名声を落としたからって、俺を使って再び名声を得ようとしているのか?
おとなしくディアーヌの言う事を聞けばいいものを、さっきの事を鬼の首を取ったかのように指摘した。
せっかく無駄な注目を集めないようにと思って行動していたのに、エルネストが全て台無しにしてくれたな。
ただでさえさっきの事で注目されていたのに、更に注目を集めてくれたよ。
そりゃ遠くから見たら俺が聖女を虐めているように見えなくもなかったが、俺を呼び出して言うとか、色々方法はあっただろうに。
あ、名声復活のために人に見られたかったのか?
だとしたらガッカリだな、そう思った瞬間、状況を覆すひと言が放たれた。
「やめてください! ジュスタン団長と私は友達なんです!」
お前ここでそれをぶち込むのか。
◇ ◇ ◇
拙作をお読みいただき、ありがとうございます!
次回から更新ペースが落ちますのでご了承ください。
最低週一、できれば週三を目指します!
そして確定申告とも闘わねば……。
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