第53話 叙爵
ジェスと従魔契約を交わして約半月、ジェスが壊した街並みもほぼ修復された。
そして現在王城で夜会が開かれる事が決定し、第三騎士団も大忙しだ。
「ったく、団長が叙爵されるのはめでたいけどよ、何でオレ達が貴族の護衛なんてしなきゃならないんだよ」
「文句言わないの! 聖女とジェスのお披露目と、団長の叙爵祝いを兼ねているから国中の貴族が集まるせいで、第二だけじゃ手が回らないんだから仕方ないでしょ!」
シモンとアルノーが話している通り、ジェスと従魔契約をした功績で俺は叙爵される事となった。
実家の爵位を考慮して伯爵となる事が決まったのだが、貴族街に屋敷を持てという無言の圧力が凄い。
その圧力は主に王家からなのだが、恐らく下位貴族を使用人として雇えという事なのだろう。
あとは結婚の催促か。
前世でも末の弟達が俺がいなくても大丈夫な年齢になるまで結婚するなんて考えられなかったし、やはりせめて三十歳を過ぎてからがいい。
どうも陛下が褒賞として屋敷を与える気満々なんだよなぁ。
これは俺に王都へ腰を落ち着かせろ、という事なのだろう。邪神の復活が見えてきた今、王都の防御を強化したい気持ちはわかる。
「団長~、俺、貴族の護衛なんか自信ねぇよ~。粗相したら首飛ばされるんだろ? やだよ~、礼儀なんか知らねぇよ~」
珍しくガスパールがグズっている。
「仕方ないだろう。各貴族が自分達で護衛騎士を準備したら、見栄の張り合いで待機場が大変な事になるからな。第二騎士団は当日の王都内の治安維持と城内の警備で送迎の護衛まで手が回らんと言うのだから。ちゃんと多少の礼儀の無さには目を瞑るようにと、処罰するなら俺を通すように言っておくから安心しろ」
「あと一週間あるんですから、それまでにシモンとガスパールは言葉遣いを練習した方がいいですね! 貴族の令嬢に乱暴な言葉遣いしたら気絶しちゃうかもしれませんよ」
アルノーの脅しのような言葉に二人は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「さすがに気絶はしないだろう、怯えるかもしれんがな。確かに最低限の言葉遣いは覚えた方がいいかもしれん。せめていくつかの定型文を用意してやるから暗記しておけ。他の奴らにも伝達しておいた方がいいだろう」
一週間後の護衛の組み分けを訓練場に集まって確認しているが、ここはオレールに任せて敬語定型文の張り紙を作成するために宿舎へ向かう。
執務室の奥にある団長室で、貴族の送迎で言いそうな言葉を例文付きで書き記す。
「よし、こんなものだろう。あいつらの場合、これ以外の言葉は口にしない方がいいかもしれんな」
書き出した文言を執務室前の掲示板に貼り、訓練場に戻って敬語の練習をするように指示を出した。
そしてその一週間後。
第三騎士団が王城の中庭に集合していた。
中には敬語の定型文を昨日慌てて覚え、今もブツブツ練習している奴もいる。
とりあえず貴族令嬢に対して粗相しなければ何とかなるだろう、万が一にでも怪我をさせたら取り返しがつかないが。
「いいか! 対応は丁寧に! 特に女性はプディングだと思って丁重に扱え! 乱暴に扱ったら壊れるとな!」
第三の騎士達から見たら、実際貴族女性のイメージはそんなものだろう。
乱暴とは無縁で繊細だと。
案外中身はその辺の騎士より図太いけどな。
「まぁ、お聞きになりました? 女性はプディングですって」
「ええ、ヴァンディエール様って案外可愛らしい事をおっしゃるのね、うふふ」
中庭に面した回廊を歩く侍女達のヒソヒソと話す声が微かに聞こえてしまった。
仕方ないだろ、豆腐の代わりになる物の名前がそれ以外思いつかなかったんだ。
幸い彼女達の声は部下達には聞こえてないようだから、よしとするか。
王城の事務官から渡された指示書には、住所と地図、そして馬車に乗って王城に来る者の名前が書かれていた。
雪の降る冬は領地に籠る者もいるが、貴族は基本的に社交のために王都の屋敷に留まっている。
つまりは最も王都に貴族が多い時期なのだ。
部下達が護衛として迎えに行くのは、王都の貴族街にいる貴族だけだが、それでもかなりの人数になる。
遠くに住んでいる者の担当から順番に出発し、あっという間に全員がいなくなった。
下位貴族は大抵貴族街の中でも、王城から遠い場所に住んでいる。
最大の理由は土地の値段だ。
しかし裕福だからと下位貴族が王城に近い場所に屋敷を持とうものなら、上位貴族に睨まれてしまう。
そういう兼ね合いもあり、早い時間に登城する下位貴族が待つのが当たり前なので、到着したら控室で待ち、騎士達は次の護衛先へと向かう。
つまりは高位貴族ほどゆっくり準備できるという仕組みだ。
帰りは王城内の警備をしていた第二騎士団も動けるようになるので、登城と違って順番待ちはほとんどないのが救いだろう。
ちなみに俺が護衛に行かないのは、今夜の主役の一人だからだ。
ちなみにもう一人(?)の主役は今日も俺の背中に張り付いて、マントの陰に隠れている。
どうやらマントの中が暖かくて気に入っているらしい。
小一時間もすると、次々に貴族達が王城にやってきて、部下たちは再び次の護衛へと向かう。
そんな事を繰り返し、高位貴族も増えてきた。
俺の両親もすでに到着している。
「あとは公爵家だけだな、それと……」
王城の入り口に目を向けると、ひときわ目立つ白い馬車がやって来た。
神殿のエンブレムが付いたその馬車から降りてきたのは、神殿長と本日の最後の主役、聖女エレノアだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます