第47話 従魔契約

「コンスタン、第二で神殿の調査を頼む。さっきの状況から見て、聖騎士や聖女は何も知らなかったようだから、神官長と繋がりのある人物を重点的に調べるといいだろう。とりあえず俺は今起きた事を陛下にお知らせしないと……、被害状況とドラゴンの事と聖女と神官長の事……信じてもらえるか怪しいな」



 考えるだけで頭が痛くなりそうだ。

 頭が痛いと言えば、最初にドラゴンを見つけた場所で第二の騎士が数人倒れていたな。



「そういえば第二の騎士が何人かやられていただろう、操られていたとはいえ、あのドラゴンが殺した事には変わりないからどうなることやら……」



 考えれば考えるほど、問題が山積みだ。

 しかしコンスタンが朗報を告げた。



「途中で部下達を見つけてすぐに確認したが、意識はないものの生きていた。今は第二に運んで治療を受けているはずだ」



「そうか、それならよかった」



 ホッと胸を撫で下ろす、これでむやみに殺処分とか言われずに済むかもしれない。

 こっちの気も知らずに、正確にはテイムしているから感じ取っているだろうが、まるで機嫌を取るようにつぶらな瞳をアピールしながらドラゴンが近づいて来た。



「だ、団長、どうしますか?」



 オレールが顔を引きつらせながら剣の柄に手をかける。



「落ち着け、さっき言っただろう、アイツは俺がテイムしているから暴れたりしないぞ」



 ドラゴンは俺の持っている魔石をジッと見ている、そして食べたいという気持ちが伝わってきた。

 俺の手元に顔を寄せたせいで、俺の周りから二人が飛び退く。



「これが食べたいのか?」



「ギュウゥ」



 目の前で魔石を振ってやると、少し高い甘えた声で鳴いた、そういえば最初に見た時も魔石店で魔石を食べてたもんな。

 差し出すとソフトボールサイズの魔石をそっと咥え、ガリゴリと美味しそうに咀嚼そしゃくしている。



「あ……、お前の分の魔石、逆鱗に変化してないか?」



 よく見ると魔石が鱗の一枚のように変わっていた。

 話しかけても、よくわからないと言わんばかりにコテリと首を傾げてるだけだ。ちょっと可愛いと思ってしまった。

 聖女に浄化された魔石だから、埋め込まれたままでも問題ないだろう。



「とりあえず……、騎士団に戻るか」



「キュキュッ」



「ん? ああ、名前を付けろって?」



「団長……、ドラゴンの言葉がわかるんですか!?」



 二メートルほど離れた所からオレールが聞いてきた。



「なんとなく、だ。会話ができるというより、感情が伝わってくる感じだな。名前か……そういえばお前オスか? メスか? ……ああ、オスなんだな、だったらジェスでどうだ? 俺のジュスタンと似ている名前にしてみたんだが」



「クルルル……!」



 どうやら気に入ったらしい。

 鼻の頭を撫でてやると、気持ちよさそうに目を閉じた。

 その直後、テイムの更に上の段階、従魔契約と呼ばれるものが発動したのがわかった。

 テイムは従魔契約の仮契約状態だと言われている。



『わぁい! これで話せるね! ジュスタンこれからよろしく!』



 少年のような声が脳裏に響いた。



「今の……ジェス、お前か?」



『そうだよ!』



 いわゆる念話というやつか、ドラゴンだしな、色々人族が使えない魔法も知っているだろう。

 意思の疎通ができるのはありがたいと思おう、聞きたい事はたくさんあるんだ。



「よし、とりあえず宿舎に戻ろう。ジェス、ついて来い」



『わかった!』



 考えるのは後回しだ。

 もう住民が起きて来る時間だし、あまりジェスを人目に触れさせたくない。



「背中に隠れる大きさなら、俺のマントに隠して行けるんだけどな。さすがに今より小さくなるのは無理だろう?」



『できるよ!』



 そう言って先ほど小さくなった時と同じ鳴き声のような呪文を唱えるジェス。

 あっという間に人間の赤ん坊ほどのサイズに縮んだ。

 鎧の背中に張り付かせ、マントで隠して愛馬エレノアまたがると、エレノアが不機嫌そうにしてる。



「はは、さっき嫌な思いさせられたもんな。少しだけ我慢してやってくれ。コンスタン! 俺達は一度第三に戻ってから王城に報告に向かう!」



 俺がジェスと話している間に、第二の部下達に指示を出していたコンスタンにそう告げると、片手を上げて応えた。

 マントで隠しても移動中にひるがえって見えるため、少しでもジェスを隠せるようにと第三の部下達で周りを固めたが、ジェスの存在を知ってしまった第二の騎士達は俺の背中に視線を集中させている。



 居心地の悪いこの場をサッサと去ろう。

 帰り道、薄暗かった明け方と違い、雪もやんで朝陽が町を照らしている。

 そうなるとはっきり見えるのが街の被害状況だ。



 ジェスによって削られ、破壊された街並み、住めないほど壊されているのは魔石店だけだったのが不幸中の幸いか。



『あのねぇ、さっきまで首に付けられた魔石が気持ち悪くて、命令から逃げたくて魔石を食べてたんだ。ジュスタンの前に同調してたやつは、ずーっと自分が偉くなるために言う事を聞けって気持ちばかりで、それが魔石から伝わってきてたの。付けられた魔石より自分の魔力をうんといっぱいにすれば、命令なんて聞かなくて済むからね』



「なるほど、そういえば神官長と神殿長の仲はよくないんだったか。聖女を利用して神殿長を蹴落としたかったのだろう」



「団長! もしかしてドラゴンと話してんのか!? 俺達にはキューキュー言ってるようにしか聞こえねぇけど」



「ああ! 名前を付けたら、テイムが従魔契約に格上げされたらしい。それから言ってる事がわかるようになったんだ!」



 走りながらシモンの問いに答えると、ジェスの姿が見えなくなった事で野次馬が集まってきている中、部下達の驚きの声が街中に響いた。

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