第46話 名前

「団長! 一体何がどうなってるんですか!?」



 ドラゴンの小型化魔法の声を聞いて駆けつけた第二、第三騎士団。

 到着した時の現状を見てオレールが俺を問い詰めるのは当然だろう。

 わかってる、わかってるけど俺も色々混乱してるんだ。



「騎士団の団長さんなんですかっ!? わぁ、だからあんなに強かったんですね」



「……この事も聞きたいんですが?」



「報告しないとならないから説明してくれ。聖女様の事もだが、あのドラゴンは暴れていた魔物と同じ個体か? ここに来るまでに壊れた街並みを見る限り、随分大きさが違うようだが」



 聖騎士が虫の息の神官長を連れて行ったのに、聖女が俺から離れないせいで数人の聖騎士が張り付いている。

 そんな聖女を胡散臭そうに見るオレールと、更にコンスタンが追い打ちをかけるように質問してきた。

 どうやら第二の騎士団長が謹慎になっているせいで、副団長のコンスタンが団長代理をしているらしい。



「ちょっと待ってくれ……、俺も状況把握するのに頭が追いつかないんだ」



「団長がそんなわけないでしょう、現実逃避したいから考えたくないだけでは?」



 ジトリとした目を向けてくるオレール、お前心が読めるのか?

 まぁ、普段現状把握が遅れたら死ぬような討伐が多いからな。



「順を追って説明するから待て。まずドラゴンだが、どうやら俺がテイムしてしまったようだ」



「「えぇぇえぇ!?」」



「まぁ! すごーい!」



 普通はオレールとコンスタンのような反応が普通だろう、意外に大物なのか? この聖女。



「驚くのは後にしてくれ、話が進まん。それで……、ドラゴンが暴れていた原因は神官長がこの聖女様の活躍の場を作るために自作自演をしようと利用したんだ。この魔石を使ってな。さっきまで赤黒い色をしていたが、聖女様が浄化してくれたおかげでこの通り綺麗さっぱりになっている。で、その直後なぜか浄化された魔石を通じて俺がテイムしてしまったんだ」



 二人はすごく何か言いたそうにしているが、俺が驚くのを後にしろと言ったせいか、俺の説明が終わるのを待っている。



「テイムしたとわかったのは、意識の同調というやつで、こんなに大きいと困ると考えた途端にドラゴンが魔法で家から馬の大きさに変わったんだ。その直後にお前達が到着した」



「その神官長はどうしたんだ?」



 コンスタンが辺りを見回しながら聞いてきた。



「この魔石は最初神官長の胸に埋まっていたんだが、俺が無理やり引き剥がしたら意識を失って、聖騎士に運ばれていったぞ。何とか生きているようだったが、邪神の影響を受けている魔石なんかを使ったんだ、ただでは済まないだろうな。ドラゴンの方は魔石が埋め込まれている状態で、魔石自体を浄化されたから平気なようだが」



 ドラゴンに関して全て話し終わると、二人の視線は当然俺の隣にいる後半ヒロイン……もとい、聖女へと移る。

 ハチミツのような金髪を縛っていて、大きな目と……胸、身長はディアーヌ嬢より低い小動物系、なんとなく覚えている挿絵と一致すると思う。



「……えーと、聖女様……で間違いないんだよな?」



「はいっ! 半月ほど前に突然聖女様だと言われて、昨日王都に到着したばかりですが……。名前はご存じの通りエレノアです」



 凛としたディアーヌ嬢と正反対の、守ってあげたい系女子というやつだ。

 しかし、小動物的な可愛さなら、前世の弟達の方が上だった。

 双子のちびっ子の世話は大変だが、可愛さは相乗効果で二倍どころじゃないからな。



「私は第二騎士団、現在団長代理をしている副団長のコンスタン・ド・ロルジュです。聖女様にお会いできて光栄です」



 真っ先にキメ顔で名乗ったのはコンスタン、そういやお前は学院生時代に胸の大きい令嬢にばかり興味持ってたもんな。



「私はこちらのヴァンディエール騎士団長の部下で第三騎士団副団長のオレール・ド・ラルミナです。以後お見知りおきを」



 年齢差があるせいか、オレールは聖女に対して舞い上がったりしていないようだ。



「あなたはヴァンディエールさんと言うんですね。それって家名ですよね? お名前の方を教えてください」



 お前オレール達の名前ちゃんと聞いていたか?

 どうやら聖女は素直な田舎の小娘だが、同時に少々頭の中がお花畑なタイプのようだ。



「貴族に対しては名を呼ぶときは『さん』ではなく『様』を付けた方がいい。むしろ聖女と言う立場であれば、全ての者に対して『様』を付けて呼んだ方が印象はいいだろうな」



「わかりました! ヴァンディエール様! お名前を教えてください!」



「…………ジュスタン・ド・ヴァンディエールだ」



「ジュスタン様ですね!」



 嬉しそうに名前を呼ぶ聖女。

 このまま貴族社会に入ったら、小説そのままに他の貴族令嬢達から総攻撃喰らうぞ。



「名を呼ぶのは許可をもらった相手だけにする事だな。貴族社会では勝手に名を呼ぶのは失礼に当たるぞ」



「でも……、ヴァンディエール様って長くて言いづらいんですもの……。お名前で呼んじゃダメですか?」



 確かに……、タレーラン辺境伯領のクロエも言いづらそうだったから、お兄ちゃんって呼んでいいぞって言ったくらいだ。

 平民には家名のように長い名前はないから仕方ないか。



「はぁ……、わかった。ジュスタンでいい」



「わぁ! ありがとうございます、ジュスタン! 私の事もエレノアって名前で呼んでくださいね!」



「え!? ちょ、ちが……」



「それじゃあ私、神殿長にジュスタンが言った事説明してきますね! それじゃあ!」



 聖女は俺の訂正の言葉を聞かずに聖騎士達と神殿の中へ行ってしまった。

 呆然と見送る俺の両肩には、左右からオレールとコンスタンの手がなぐさめるように置かれた。

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