第21話 ホーム
王城から馬で五分ほどの第三騎士団の本拠地、第三宿舎に到着した俺が解散後真っ先にした事、それは香辛料やハーブの買い足しである。
第三宿舎に到着したのは午後三時、店はまだ開いているからと予備費を使って買うようにと第三宿舎の文官に命じた。
最初は渋っていた会計係も、騎士達の素行が大幅に良くなると話したら二つ返事で了承した。
これまであいつら酷かったからな、気持ちはわかる。
今までは罰則で食事を抜いたとしても、どこかで買い食いも可能だったが、新しい味付けを知ってしまった今はこれまでと違う。
実際味の濃さという意味では高級レストランや貴族の屋敷で食べられるが、ハーブを使った料理は誰も作れないのだ。
後半ヒロインの聖女と、俺が使い方を教えた奴ら以外はな!
「今日から第一、第二の宿舎へ手伝いに行っている料理人達も戻って来るだろう? 料理が各段に美味くなるレシピを教えておくから、今日から食事の時間が楽しみになるぞ。部下達がおりこうさんになった理由がわかるくらいにな」
ニヤリと笑って執務室を出た。
文官達が固まっていたようだが、考えてみればこれまでの俺が口にするはずのない単語をいくつか言った気がする。
ま、まぁ、その内俺の性格が変わった事にも気付くだろうから、気にしたら負けだ。
疲れているから大浴場の広い風呂に入って足を伸ばしたいところだが、今はきっと芋洗い状態だろう。
清浄魔法をかけてから自室に戻り、私服に着替えた。
「はぁ……、久々に寝る時以外に
グッと伸びをして解放感を味わう、装備一式を清浄魔法ひとつで済ませられる事に関しては、魔力を持つ貴族でよかったと心底思う。
このままベッドにダイブしたいところだが、もうすぐ届くであろうハーブの使い方を料理人達に教えておかないと。
「あ~……、このまま渡すと手元にレシピが残らないな。仕方ない、書き写すか」
早くしないとハーブ類が届いてしまう。
急いでレシピを書き写し、厨房へと向かった。
「こ、これはヴァンディエール騎士団長、夕食にはまだ時間がありますが、何かありましたか?」
最初に辺境伯領の厨房へ行った時の事を思い出すような料理長の対応に、思わず苦笑いしてしまう。
「料理長、これを受け取ってくれ。今日から香辛料とハーブを余分に仕入れてもらう事にしたから、そのレシピを元に調理してほしい。味付けや少し使う物を足すだけだから、メニューは変更しなくても大丈夫なはずだ」
「は、はぁ……」
恐る恐るといった風にレシピの書かれた紙を受け取り、目を通した料理長は
この反応も二度目だな。
「失礼ですが、こんな物を使うなんて聞いた事がありません。これでもし他の騎士の方々からお叱りを受けたら……」
「問題無い、すでにそのレシピの料理を辺境伯領でみんな食べているからな。むしろこれまでと同じ味付けだと文句がでるだろう。確か料理長は貴族の屋敷で働いた事があると言っていたな、今後は貴族の屋敷より美味い料理をつくれるようになるぞ。……違うな、これを覚えたら王族が食べている物より美味い料理が作れるようになる、だな」
「王族が食べている物より……?」
俺とレシピを交互に見て、料理長はごくりと唾を飲み込んだ。
普段健康なら薬草扱いのハーブなんて見ないだろうし、警戒はしているけど美味しい料理には興味がある……といったところか。
「心配なら少しだけ試しに作ってみればいい、そうすれば違いがわかるだろう? 少なくとも今日使う分はもうすぐ届くはずだから頼んだぞ」
「わかりました……」
不安そうにしているけど、試したら辺境伯領の料理長みたいにどハマりするだろう。
小説だと聖女が教えてすぐに、王都中に広まったくらいだもんな。
聖女か……。えーと、確かスタンピードからひと月後に、住んでた山から王都に連れてこられたよな。
俺が明日登城して陛下に謁見するだろ、その時小説だとボロクソに言われてすぐにディアーヌ嬢を襲ったはず。
今回はスタンピードも未然に防いだわけだし、小説の内容とは変わるし、俺もディアーヌ嬢を襲わない。
けど、聖女自体はもう見つかっているはず、そろそろ神殿の関係者が山に迎えに行く頃だろう。
明日会ったらディアーヌ嬢にはこれまでの事を謝って、ついでに聖女が来た時の対処を考えておくようにアドバイスしておくか。
そんな事を考えながら二階の自室に戻ろうとしていたら、廊下を挟んで食堂の向かいにある大浴場から騎士団員がゾロゾロと出てきた。
「あっ、ジュスタン団長! さっきみんなと話してたんですけど、またお金を出し合って食事を美味しくしてもらえるんですか!?」
聞いてきたのは
「安心しろ、すでに必要な物は手配するように文官に言ってある。それにここは辺境伯領と違って、俺の采配である程度自由に動かせる予算があるから、そこから費用は出すように言っておいたからお前達の負担はないぞ」
「おおぉ! 団長がいつもより男前に見えるぜ! 平民服を着ていてもあふれ出る気品で、貴族ってすぐわかっちまうくらいだしな!」
「シモンは調子が良過ぎモガモガ」
マリウスより早く反応したシモンに、マリウスが呆れた目を向けて文句を言おうとしたが、口を塞がれている。
まぁ、このくらいならジャレてるだけだから、放っておいても大丈夫だろう。
「とりあえずこの後、今日と明日はお前達は休みだ。俺とオレールは明日謁見してくるけどな。俺達がいない間に騒ぎを起こしたらどうなるか……わかってるな?」
殺気を込めて部下達を睨むと、声を揃えてはいっといい返事をした。
「いや~、こういう時は団長や副団長って大変だなぁって思うよね。僕達はそんな団長達に迷惑かけないように気を付けないと、ね? シモン」
「オレか!?」
アルノ―が一番やらかしそうなシモンを名指しで注意し、シモンは不満そうな声を上げたが、周りの団員達が一斉に頷いたせいでシモンはその口を閉じた。
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