第20話 王都帰還
邪神の欠片を破壊した一週間後、俺達第三騎士団が王都へ帰還する日がやってきた。
「もう行ってしまわれるんですね……。せっかく他国の料理の話もできるくらい仲良くなれた……と言うのはおこがましいですが、もっと色々教えていただきたかったです」
「はは、だったら俺が
「お待ちしてます!」
冗談半分だったが、返事をする料理長の目は完全に本気だった。
俺達がいた宿舎には本来辺境騎士団の独身者が住んでいたので、料理人達は今後は以前通り彼らの食事を作り続ける事になるだろう。
しかし、俺達がいなくなるという事は、同時に余分に使えていた調味料が元の量になるので、まとめて作っていた自分達の
どちらかというと、俺達が帰る事より
帰還の手続きは全て終わっているので、最後に本邸前に騎馬で隊列を組んで勢揃いする。
この一週間で心に余裕が生まれたせいか、部下達も問題を起こす事なく、領民も第三騎士団に感謝を表してくれたおかげで辺境伯からの印象は悪くない。
第三騎士団を見送るために、タレーラン辺境伯と側近の他、クレマン辺境騎士団長や宿舎で働いていた者達が集まってくれている。
「ヴァンディエール騎士団長及び、第三騎士団の諸君、これまでご苦労だった。貴殿らのおかげでこの領地は平和を取り戻した。王都まで無事帰還する事を祈る」
「いえ、我々はやるべき事をしたまでです。クレマン殿は部下の
最後に顔を真っ赤にしているクレマンを見て、俺達は出発した。
やはりあの差し入れに下剤を盛ったのはクレマンの仕業だったのだろう。
「ジュスタン団長、本当に王都まで七日かけて帰るんですか? 来た時は五日だったのに」
副団長のオレールが馬を近付けて話しかけてきた。
「来た時は魔物被害が増えていたから急いだだけだ。王城の連中からしたら、少しでも長くタレーラン辺境伯領にいてほしかっただろうよ。ゆっくり帰還する事に対して、誰も何も言うはずないから安心しろ。それに本調子じゃない奴らもいるから、無理をさせない方がいいだろう。お前を含めてな」
「……本当に変わりましたね。以前の団長だったら『俺の部下ならついて来い』とか言って馬を走らせていたと思うんですけど。最近の団長はまるで面倒見のいい兄のようだと皆言ってますよ」
「そうそう、なんてったっておに」
「あっ、おにいちゃ~~ん!!」
シモンが余計な事を言い出したから殺気を込めて振り向いた瞬間、クロエの可愛らしい声が聞こえた。
隊列を止めて声がした方を見ると、一家揃って第三騎士団の見送りに来てくれたらしい。
大通りを通って領都の門へ向かっていたのだが、今日帰還するという噂が広まっていたせいか、結構な数の住人が見送っている。
最初に領都に来た時は歓迎どころか、逆に大通りから人影が消えていたくらいだったのに、それだけ魔物の被害を減らした事に感謝しているのだろう。
それと最後の一週間で、第三騎士団への認識が変わったのかもしれない。
「クロエ、見送りに来てくれたのか。元気でな」
「うんっ、おにいちゃんもげんきでね!」
ジョセフに抱き上げられているクロエの頭を、馬上から撫でた。同時に騒つく周囲。
「あの悪魔のようなヴァンディエール騎士団長が子供に微笑みかけているっ!? ……って思ってるんだろうなぁ。わかるぜ、その気持ち」
「余計な事言わないの」
「イテッ、叩かなくていいだろ」
俺がクロエ達と話しているのをいい事に、シモンが好き放題言っている。
アルノ―に
最終的にはお礼の言葉と歓声に見送られ、俺達は領都を出た。
こんな風に感謝されながら出発するなんて、初めての事じゃないだろうか。
今までは魔物被害と同レベルで街中で酒飲んで暴れたり、横暴な態度で住民を脅したり、喧嘩騒ぎを起こしたりしていたからな。
帰ってくれてホッとしているか、家の中からさっさと帰れと言わんばかりに睨みつけられながらだったと思う。
そのせいか、部下達もどこかくすぐったそうな顔をしている。
その調子で王都までの道中も問題を起こしてくれるなよ。
大所帯という事もあり、基本的に夜は野営で過ごし、途中で物資調達で立ち寄った村や町には部下達の見張りを兼ねて俺もついて行った。
そのおかげか特に大きな問題もなく、……うん、ない、なかった。
半数近くが娼館へ行きたいと駄々をこねた以外は。
代わりに訓練で俺が相手になって発散させてやって、食事を作る時に皆に驚かれながら手伝ってやったら黙った。
娼館に行く気力がなくなるほど疲れさせて、腹を満たしてやれば解決というものだ。
食事作りに関しては本来
この身体では料理なんて初めて作ったはずなのに、元々器用だったせいか前世と同じく手際よく作れて驚いた。
おかげで少し俺とは距離のあった
そんなこんなで王都に到着した俺達を待っていたのは、歓迎する王都民……ではなく、眉を
また王都の治安が悪くなる、とでも話しているのだろう。
それだけの事をしてきたとわかっているが、すでに今にも喧嘩を始めようとしている部下達の顔つきにそっとため息を吐いた。
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