第22話 謁見

「うおぉぉ、やっぱ正装するとめちゃくちゃ似合うな! 二人共お貴族様なんだなぁって思うぜ」



「団長! いっぱい褒美貰ってきてね!」



「オレール副団長緊張し過ぎですよ~! お城に行く前からそんなに緊張してどうするんですか」



「カシアスだけじゃなく、俺らの活躍もしっかり伝えてきてくれよ」



 俺とオレールに対してこれだけ好き勝手に言うのは、もちろん俺の隊の部下達だ。



「もらえる物はしっかりもらってくるから安心しろ。どうせ俺の報告を疑って高位神官も呼んでることだろうから、疑った分も上乗せしてもらうつもりだ」



「ヒュ~、さっすが団長! よっ、悪い男!!」



「それは褒めてないだろう」



 口笛を吹いてはやし立てるシモンにジト目を向けると、そっと目を逸らした。



「団長、そろそろ行きましょう」



「そうだな。行ってくる」



 激励のつもりなのか、ただの冷やかしなのかわからないが、見送りにくるだけいいのかもしれない。

 大多数は休みと聞いて、街へと繰り出したみたいだからな。

 俺とオレールは賑やかな声を聞きながら愛馬で王城へと向かった。



 昨日の内に連絡はしてあるが、城内に通されてから控室で待たされる。

 到着時にタレーラン辺境伯から預かった手紙を三通、陛下の侍従に渡したので、呼ばれるのはその中身を確認してからになるだろう。



 陛下と娘とその婚約者である王太子への手紙、何を書いてあるかはわからないが、俺にとって悪い事は書いていないと信じたい。

 緊張して出されたお茶をお代わりしているオレールを横目に、俺は何を言われるか脳内でシミュレーションをする。



 二十分ほど待っただろうか、謁見の間へ案内すると、先ほど控室まで案内した侍従がやって来た。

 陛下は全て把握しているが、一応俺から報告するという形にするため、宰相やら大臣やら勢揃いしているだろう。



「第三騎士団長ジュスタン・ド・ヴァンディエール様、並びに副団長オレール・ド・ラルミナ様が参られました」



 謁見の間の大きな扉の前で侍従が告げると、左右に扉が開いた。

 玉座には陛下と王妃が並んで座り、その横に小説の主人公であり、王太子のエルネストとディアーヌ嬢が並んで立っている。



 扉から真っ直ぐに絨毯が敷かれており、その左右には家臣一同が並んで俺とオレールに蔑みの目を向けてきた。

 王城でも色々やらかしてきたからなぁ。ここから信用を得るのは難しそうだが、地道に頑張るしかない。

 玉座の前に進み、十メートルほど手前でひざまずいて頭を下げる。



「第三騎士団長ジュスタン・ド・ヴァンディエールと副団長オレール・ド・ラルミナがご報告申し上げます。遠征で向かったタレーラン辺境伯領にてスタンピードの前兆があり、今回はそれを未然に防ぐ事に成功しました」



「バカな! スタンピードを未然に防ぐなど、いったいどうやって!」



「信じられん! 証拠はあるのか!」



 大臣たちが口々に難癖をつけてきたが、こんなのは想定内だ。

 陛下が片手を上げると、大臣たちの野次がピタリとやむ。



「続けよ」



「ハッ! こちらにスタンピードの元凶である邪神の欠片を持参しております。すでにタレーラン辺境伯の立ち合いのもと、高位神官による判定を受けて邪神の欠片と確認済みです。どうぞお納めください」



 魔法鞄マジックバッグから取り出した邪神の欠片を掲げるように差し出すと、大臣達が一歩下がった。

 この場にいるのは貴族であり、当然教養として邪神の欠片の事は知っているのだ。



「陛下、本当にこれが邪神の欠片か今一度確認した方がよいと思います。ちょうどここに神官長が来ていますから、判定してもらいましょう」



 そう言い出したのは王太子のエルネスト、俺の事を憎々し気に睨みつけている。

 これまで婚約者にしつこく言い寄っていたもんな、俺を嫌う気持ちはわかるが、それとこれは別に考えてほしい。



「よかろう」



「神官長、頼む」



 陛下が許可を出すと、大臣達に紛れていた神官長をエルネストが呼んだ。

 神官長も俺を嫌っている一人だから、当然俺を貶める事を言うと信じているのだろう。



 しかし、神官長は邪神の欠片を見た途端、辺境伯領の神官と同じく、顔色を変えて袖で口元を覆った。

 その様子を見てエルネストは慌て出す。



「どうした!? まさか本当に邪神の欠片だと言うのか!?」



「は、はい……。神聖力を使うまでもなく感じ取れるこの禍々しさは……間違いなく邪神の欠片でしょう。辺境伯領の神官の目は確かかと……」



 神官長は頑丈そうな箱に邪神の欠片を入れて蓋をすると、やっと安心したように息を吐いた。



「バカな……! では本当にスタンピードを未然に防いだというのか! ヴァンディエールが!」



「エルネスト様……」



 不安そうにエルネストの腕に触れるディアーヌ嬢。

 あ、もしかしてこれの褒美にディアーヌ嬢を嫁にしたいとか俺が言い出すんじゃないかと心配しているのだろうか。

 しょうがないなぁ。



「一つ訂正させていただきたい。今回手柄を立てたのは私ではなく、部下のカシアスという者です。褒美には食事改善のための香辛料分の予算を増額していただければ、その者は喜ぶかと」



「食事のための予算だと……!?」



 そんな事信じられるか、と言わんばかりに俺を睨むエルネスト。

 エルネストとは対照的に、陛下はいきなり笑い出した。



「わはははは! まるで子供のような褒美だな! 多くの命を救ったというのに!」



「いえいえ、食事を美味しくするために必要なのは塩と胡椒が主に必要ですから、一般の騎士からすれば大金というものです」



「ふっ、そなたが変わったと報告があったが、どうやら本当のようだな」



 歴代の中でも名君だと言われている陛下の目は、まるで心の奥まで見透かされている気になる。

 さすがに前世の記憶を思い出したなんて事は思わないだろうが、これまでの俺とは違うと確信しているようだ。



「タレーラン辺境伯領では色々ありまして……、正に人生が変わったような気がしております」



 実際は本来の人生を変えるために頑張っているところなんだけどな。

 こう言っておけば、これまでの俺と違う行動をしても納得してもらえるかもしれない。



「よし、ならば此度の褒美は第三騎士団の予算増額と、追って更なる褒美を与えよう。とりあえず今日の晩餐に参加するがよい」



「光栄です」



 うやうやしく頭を下げる俺とオレール。

 さすがに宿舎で新しい味付けの夕食が食べたい、とは言えなかった。

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