第14話 対策会議

『どうぞ』



 オレールの返事が聞こえたので、笑顔を張り付けたままドアを開けた。



「少し時間をもらえるか? 明日からの予定を話し合いたいのだが……。お前達も聞いておけ」



 コソコソと俺の脇をすり抜けて、部屋から出て行こうとしたアルノ―とシモンを引き止める。

 笑顔のままひときわ低い声で引き止められたせいで、二人はヒッと小さく悲鳴を上げた。



 話し合いを始めるにあたって俺は椅子に座り、アルノ―とシモンは訓練時の待機の姿勢でビシッと立っている。

 苦笑いを浮かべながら二人を見るオレールに、先ほど治癒師から聞いた事を話す。



「というわけで、オレール含め、自室で療養している者に関しては三日間の静養、救護室で世話になっている五名は最低一週間静養させる事にした。恐らく……その間にスタンピードが起こる」



「「「えぇっ!?」」」



 三人の驚きの声がハモった。



「お前達もここ最近の魔物の数の不自然さには気付いていただろう? 明らかに救援に来た当初よりも、出現数が増えている事に。オレールは知っているだろうが、スタンピードが起こる周期は百年から三百年周期だと言われている。さっきクレマンがタレーラン辺境伯領では百年以上スタンピードは起こっていないと言っていた、という事は今日起こっても不思議じゃないという事だ」



「スタンピードですか……、実際に遭遇するのは初めてですね」



「安心しろ、今回のスタンピードでお前が魔物を討伐する事はない。執務室で事務仕事でもやっておけ。今もそのための部隊編成の相談に来たんだ」



「はいはいっ! オレは絶対今のまま団長の隊に入れてくれよ! 当然最前線なんだろ!?」



 シモンが手を挙げて訴えてきた、ヤンチャを通り越して戦闘狂だな。

 俺の隊のメンバーは全員戦闘狂と言えるような奴らばかりだが。



「俺の隊は発生源と思われる場所に突入するつもりだ、思う存分暴れるといい」



「さっすが団長!」



「えぇ~!? 発生源~!? 休憩なしの突入かぁ……」



 気乗りしないような事を言っているアルノ―だが、いざ魔物を目の前にすると凶悪な笑みを浮かべて蹂躙するタイプだ。

 小説にはハッキリ書かれていなかったが、家庭教師から習ったスタンピードの原因は、邪神の欠片と言われる魔石だ。



 普段はその辺の石ころと区別がつかないが、溜め込んだ魔素が飽和状態になると魔物を引き寄せ、魔素が溢れ出すとスタンピードを起こすらしい。

 その状態になって初めてその石が邪神の欠片だと区別がつくのだとか。



 または高位神官や聖女であれば、神聖力を使って判別も可能だったはず。

 後半ヒロインの聖女が後にタレーラン辺境伯領に来た時、遺跡の中で邪神の欠片を見つけるエピソードがあった……はず。



「俺の予想では東の森の遺跡の中にその原因があるはずだ。明日にでも遺跡に入ってスタンピードの発生を待つ。そうすれば邪神の欠片が原因だった場合、すぐに見つけて破壊できるだろう?」



「確かに邪神の欠片を見つけて破壊するのが一番被害が少なくて済みますが……、その場合、スタンピードの中心地にいるという事になりますよ?」



 オレールは心配そうに俺を見た。

 ヘタをすれば、魔物が一斉に俺達に襲いかかってくる危険もあるわけだからな。



「けどよ、スタンピードって他にも終わらせる方法があるわけ? これまでどうやって終わらせてきたんだ?」



 平民出身のシモンは隊で一番の脳筋だもんな、スタンピードを経験した事もないし、知らなくて当然だろう。



「スタンピードを終わらせるには二通りだ。一つは今回俺がしようとしている邪神の欠片と言われる魔石が発動したら壊す事、その場合は原因がなくなるため次のスタンピードが起こらなくなる。そしてもう一つは邪神の欠片から魔素が全て出尽くすまで魔物を生み出すのを待つ。邪神の欠片に蓄えられた魔素が全て出尽くせば、それ以上魔物が生まれる事はないからな」



「ただ、後者を選んだ場合は魔物による被害はとんでもない事になりますけどね。しかしこれまで邪神の欠片を破壊してスタンピードを終息させたのは、我が国の八千年の長い歴史の中でも二回だけと言われてますから至難の業ですよ?」



 俺の説明にオレールが補足説明を入れた。



「へぇ、て事は……オレ達がそれをやったらかなり英雄扱いされんじゃねぇ!? 絶対団長について行くからな!」



「安心しろ、俺の隊は最初から同行させるつもりだったからな。あとひと小隊連れて行こうと思っている、お前達が連携取りやすい隊はあるか? 今回怪我をしていない隊でだぞ」



 乱戦状態になれば俺は単独で戦った方が効率がいい、しかし部下達は連携した方が安全だ。

 かといって実力差があると逆に足を引っ張られて危険になるからな。

 とりあえず第三騎士団の中で弱い部類のロッシュ隊は選ばないだろう。



「ん~……、だったらエリオット隊かなぁ。あいつら最近力付けてきてるし。アルノ―もそう思わねぇ?」



「確かにね、それにカシアスもいるから面白……じゃなくて、従騎士スクワイアが二人いる隊だけど、実力的には問題ないと思うな」



「エリオット隊か……、確かに実力はあるな」



 一瞬アルノ―が不穏な事を言った気がするが、実際実力のある隊を選んだのだから拒否するつもりはない。



「ふむ……、エリオット隊ならジュスタン隊の皆の動きについていけるでしょうね。私の隊が動ければそれが一番でしたが、明日から動くとなると足手まといになるでしょうから」



「安心しろ、お前達が戦う必要がないくらい早くスタンピードを終わらせてやるから、ゆっくり休んでいるといい」



 申し訳なさそうな顔をするオレールに不敵な笑みを向けた。

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