第2話 周囲の驚き
「すまない、これまでの己の所業が情けなくて……」
部下と治癒師は目が痛くならないのだろうかと思うほど、目を最大に開いたまま動かない。
ぐしぐしと涙を拭ったはいいが、気まずくて仕方ないというタイミングでドアがノックされた。
「失礼します。ジュスタン団長、お目覚めになったと聞いて食事をお持ちしました」
病室にいなかった俺の隊のアルノ―が食事を持って来てくれたらしい。
「ありがとう」
「えっ!? あ……っ、ととっ」
お礼を言った瞬間、食事の載ったトレイを取り落としそうになるアルノ―。
しかも泣いた事がわかる俺の目を見て固まってしまった。
「あの、意識も魔力循環も異常がないので、私はこれで失礼します……」
治癒師が逃げ出すように、そそくさと出て行ってしまった。
それと同時にアルノ―が再起動して、食事のトレイを俺の膝の上に置く。
「お前達も食事をしてくるといい。心配かけてすまなかったな」
「いえっ! それでは我々は失礼します! ごゆっくりお召し上がりください!」
代表して副団長のオレールがそう言うと、全員が出て行った。
静かになった病室で、はぁとため息を吐く。
「まいったなぁ。俺の名前と立場といい、この国や王子の名前といい、完全にあの小説と一致してるんだよなぁ」
もう一度ため息を吐きながら、スープを掬って口へと運ぶ。
「……まずくはないけど、美味くもない。香辛料が輸入品だから味付けが物足りないのか」
明日から三日間安静って言ってたから、その間に町で香辛料でも見に行くか。
散歩くらいなら大丈夫だろ。
全部食べたが、何と言うか、とても素材の味を活かした味付けだった。
これまでの俺はこれが普通だと思って食べていたが、今の俺からしたらなかなかの死活問題だ。
食事が済んだので食器を食堂へと持って行こうとしたが、治癒師が今日はベッドから出るなって言ってたよな。
その内アルノ―が取りに来るだろう。サイドテーブルにトレイを置いて、布団の中にもぐり込んだ。
温かい……。この世界は日本の小説なだけあって、時間や季節、数の数え方なんかも日本と同じだ。
しかし建物は中世からルネサンス時代のヨーロッパみたいな造りで、……つまりは隙間風が入って来る!
こんな建物で生活して風邪を引かないなんて、この身体丈夫だな!?
さっきまで眠っていたというのに、食事をしたら段々眠くなってきた。
沈みかけた意識の向こうでドアをノックする音が聞こえたけど、返事をするのも
ドアが開く音がして、二人が中に入って来た気配がした。
普段から野営時のためにも、眠っていても意識と耳は起きている状態になる訓練をしているのでなんとなく会話は聞こえる。
「寝てるかな?」
「ああ、食事はちゃんと摂ったようだな。だけどまさか団長が子供を庇うなんてなぁ」
この声は俺の隊のアルノ―とシモンか。
「いつもの団長なら子供なんて気にせず討伐を優先してたよね。しかも目覚めてからすぐに様子を聞くなんてありえないよ」
「だよなぁ。しかも……泣いたんだぜ? オレ達の前で。天変地異の前触れかよ、怖過ぎるだろ」
カタ、と小さな音がして、トレイを手に取ったのがわかった。
「とりあえずオレール副団長に明日からの相談しようぜ。三日間は団長不在で回さなきゃならねぇだろ? オレ達も休んじゃダメかな?」
「ダメに決まってるでしょ! もちろん見回りと称して娼館で遊ぶのも禁止! 僕達まで連帯でペナルティ受けたんだからね!」
「悪かったって。性格は極悪なくせに、任務に関しては真面目なんだよなぁ、ウチの団長」
「それが無ければ二十歳で王立騎士団の団長なんて任命されないでしょ。強さと任務に対する真面目さだけで第三騎士団の団長になったようなものだからね」
「あ~あ、オレも第一騎士団で王族や要人の警護だけしていたいぜ。それがダメなら第二騎士団で王都から動かねぇ」
「何言ってるの、第一騎士団なんて貴族しかなれないし、第二騎士団だって貴族か騎士の家系じゃないと難しいじゃないか。それに第二騎士団なんて、門番になったら一日中門の前でジッとしてなきゃならないんだよ? シモンには無理だね」
「確かにずっとジッとしているより、こうして魔物討伐してる方がオレの性には合ってるかぁ……」
キィ、とドアが開かれる音がして二人が部屋から出て行く。
第一、第二と違って、俺が団長をしている第三騎士団は要請があった場所に出動するため、家系は関係無く実力さえあれば入れると言って過言ではない。
ただ、団長にはやはり貴族をという事で、当時実家の侯爵領で頭角を現していた俺に白羽の矢が立った。
家族も手の付けられない乱暴者の俺を追い出すいいチャンスだと思ったのだろう、話はサクサクと進んで気付けば王立騎士団の団長だ。
横暴な俺の姿を見てきた部下達も、同じように横暴な態度で周りから嫌われている。
だけど、魔物討伐には俺達第三騎士団の力が必要だから強く文句も言えない状態なのだ。
翌朝、一旦自室に戻って着替え、朝食のために食堂へ向かった。
それにしても視界が高い。前世で一応身長が百八十センチあったが、恐らく百九十センチは超えているだろう。
そこには
当然俺もだが、騎士達の体格は料理人と比べてはるかに厚みがある。
そんな体格差がある相手に、料理人達は明らかに怯えていた。
「おい! さっさとしろ! じゃないと魔物と間違えてお前の首を斬っちまうかもな!」
「ひぃっ! す、すぐにお持ちします!」
ため息をひとつ吐き、そのまま食堂へと入って行く。
一人が俺に気付くと、全員が一斉に挨拶する。
最初は反抗した者も、訓練中に実力で黙らせているので俺には従順だ。
「皆、おはよう。あまり料理人達を困らすんじゃないぞ」
そのひと言でその場の全員がポカンと口を開けたまま固まった。
確かにこれまでは見て見ぬふりというか、興味が無くて放置してたもんな。
だけど後で、調理場にどんな調味料や香辛料があるかチェックさせてもらいたいし、少しは点数を稼いでおかないと!
この後、部下達が訓練と見回りでいなくなってから厨房を見せてもらい、普段ではありえない行動で料理人達を震え上がらせたのはご愛敬である。
◇ ◇ ◇
アルノーの名前のーが-になっておりますが、フォントによる表記ミスですので、気にせずお読みください(´>∀<`)ゝ
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