俺、悪役騎士団長に転生する。【web版】
酒本アズサ
第1話 これまでの俺と今の俺
まったく
俺達に守られているくせに、怯えた顔しか見せないこの辺境の住人達にはうんざりだ!
「騎士団長! 東の森に行ったロッシュ隊から救援要請が届きました!
「チッ! その程度も処理できないのか。行くぞ」
舌打ちしながら
戦闘中というのなら鎧を着ている暇はない、見回り用の軽装備ではあるが俺なら問題ないだろう。
辺境伯が用意した宿舎に戻ると、すでに馬の準備がされており、直属の部下四人と共に馬に飛び乗り東の森へと向かった。
まだ秋とはいえ、北に位置するこの地では馬に乗って疾走すると冷たい風が体温を奪う。
到着すると、五人部隊の内三人がすでに血塗れで倒れていた。
そして木の陰に町の住人らしき男、震えながらも戦闘の様子を窺っている姿に面倒な予感がする。
「ロッシュ! 現状は!?」
「ジュスタン団長! 一体は討伐しましたが、三名重傷、向こうの木の陰に子供がいます!」
「ロッシュ隊は下がれ! 散開!」
子供がいるなら恐怖で飛び出す前に片付けなければ。
幸い、短い合図でも慣れた精鋭の部下達はこれで意思疎通ができる。
下馬して魔熊二体を取り囲むと、二人が気を引き、隙ができた瞬間俺達が斬りこむ。
魔物化して丈夫になった毛皮でも、魔力を
どうやらもう一体も部下達で討伐できたようだ。
「パパぁ!!」
「トム!」
魔熊達が動かなくなったのを見て、子供が奥から飛び出して来た。
同時に到着した時から倒れていた魔熊が立ち上がり、子供に飛びかかる。
いつもなら、真っ先に魔熊を斬り捨てた。
いつもなら、子供の命より討伐を優先した。
いつもなら、わが身を盾に誰かを庇ったりしない。
だが、その子供の姿が
気付くと身体が勝手に動いていた。
襲いかかって立ち上がった瞬間事切れた魔熊が、子供を抱き締めた俺にぶつかった。
車に轢かれた時と同等の衝撃。
車? 車ってなんだ……?
そんな考えと共に、俺の意識は途絶えた。
「ここは……?」
「ジュスタン団長! お目覚めになりましたか!」
騎士みたいな恰好の外国人が俺に何か言ってる、ジュスタン団長って……、俺?
どう見ても俺は日本人にしか見えないから間違われるなんて事ないと思うんだけど。
確か弟が道路に飛び出した時に庇って……あれ?
「あぁ……っ、頭が……!!」
「団長!? おいっ、治癒師を呼べ!!」
急激な頭痛に襲われ、周りが騒がしくなる。
痛みを抑えるために痛い場所を意識した途端、頭の中の霧が晴れるように記憶が甦った。
八人兄弟の長男で、末の双子が幼い頃に父親が事故で亡くなり、母親を支えていた大学生、それが俺
下から三番目の弟が俺を道路の向かいで見つけて飛び出したのを庇って……、恐らくそのまま死んだ。
そして
気のせいだと思いたいが、高校の時にハマってた小説の内容にそっくりなんだけど!?
もしも本当に小説の世界だとしたら、俺は主人公に殺される敵役の極悪騎士団長に転生したらしい。
「ジュ、ジュスタン騎士団長、お、お目覚めになりましたか……。し、診察をしても……?」
びくびくと怯えながらも声をかけてきたのは、この宿舎に常駐している治癒師だった。
散々きつく対応してきたから、めちゃくちゃ怯えている。
「ああ、世話をかける。その前に、あの子供と部下達は無事だったか?」
「「「「…………!?」」」」
その場にいた部下達も含め、部屋にいた全員が驚きで動きが止まった。
一応言葉遣いとか変えないようにしてるけれど、それ以前に部下はともかく、子供の安否確認や
「は、はい、ジュスタン騎士団長のおかげで子供は擦り傷程度で済みましたし、部下の方々も後遺症は残りませんのでご安心ください。で、では……診察を始めますね。頭を打たれたそうですが、ご気分はいかがですか?」
「ああ、少々記憶が混濁しているように感じる。もしかしたら妙な事を言うかもしれん」
「えっと……、ご自分の事はちゃんと覚えておられますか?」
「…………名前はジュスタン・ド・ヴァンディエール、二十二歳、王立第三騎士団の団長」
前世は前野直輝、同じく二十二歳、就活で内定をもらって就職活動から解放された大学四年生。
「ヴァンディエール侯爵家の三男で、現在は王命により魔物が増えたタレーラン辺境伯領に救援に来て……ひと月か?」
七人の弟達の世話をしつつ、母親の負担を減らすために弟達と協力して家事のほとんどをして生活していた。
「とりあえずは問題なさそうですね。ですが治癒魔法を使ったとはいえ、今日はベッドの上で、その後も三日は安静にしていてください。本来ならひと月は動けないケガをなさっていたので」
治癒師と部下達が安堵したように息を吐いた。
極悪な性格をしていたとしても、恐らく国で一番強いのは俺だ。
そんな主戦力とも言える俺が討伐に出られなくなったら、この領地崩壊の危機だもんな。
それにしても、これまで部下や領民、はては辺境伯達にまで魔物討伐の戦力という
部下に関しては俺がそういう態度だから、それが当たり前だと思って周りに迷惑をかけまくりだ。
前世の記憶がなかったとはいえ、本っっ当~に鼻つまみ者だったと思う。
そんな事を考えていたら、シーツの上にホトホトと涙が落ちて止まらない。
「団長!?」
いきなり泣き始めた俺に、病室内が凍りついた。
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