第43話 sideカイン

 時は少し遡る


 今、僕は顔を真っ赤に染め鬼の様な顔をした父上と対峙している。


「カァァァイィィィィンゥゥゥゥ」


 あんなに怒ってる父上は見たことが無い、膝がブルブルと震える。


「ぐぇっ」


 今も鞘の着いた剣で叩かれた。

 振り始めの部分は見えてたのに動き出した途端見えなかった。


「甘い。何だそのいで立ちは?」


 先程までの鬼の様な顔が無くなり剣を振る父上は表情が一切無くそれが逆に恐怖を煽る。


 僕は叩かれながら怒られながら思い出す。


 僕には弟が居る。

 問題児と母上はいつも言っていたが僕にとってはいつも色んな事を教えてくれる面白い奴だった。


 でも面倒事や貴族子息に絶対必要な事は一切しなかったので羨ましかった。


 洗礼式で僕は武神様に直接声を掛けて貰い両親から褒められ騎士達からも『流石は次期当主様だ』と言われて嬉しかった。


 その洗礼式の後、数ヶ月するとケビンを屋敷で見掛けなくなった。

 ハビスに聞いても答えてくれはしなかった。


 そんな中もう1つ僕は悲しい事があった。

 屋敷での訓練でいつも一緒に訓練をしていた騎士と騎士見習の子達の姿が見えなくなった事だった。


 騎士団長にどこに行ったのか聞くと


「別任務遂行の為に行動してます」


と一言だけ伝えられただけだった。


 僕は肩を落とした。

 彼女達は僕にとって辛い訓練を一緒にこなす仲間でそして笑顔で話しかけられると心がポカポカしたのだ。


 そんな訓練に身が入らない日々を過ごしていると役所で不正があったという話題が上がった。

 騎士団は大慌てで訓練は中止になった。


 屋敷に帰ろうとしていると


「今回の件、ケビン様が暴いたらしい。ちっ、あの見習達ともしっぽりやってんのかねぇ?ケッ!」


 そんな言葉に僕の心はぽっかりと穴が空いた様だった。


「ねぇ?どういう事?ケビンと見習達は一緒に居るの?」


 騎士達は僕の顔を見ると驚いた様子だったがそこで聞いた内容は驚きと何か分からないぐちゃぐちゃとした気持ちだった。


 見習達とハンナと騎士達4人、ケビンの9人でこことは別の屋敷で共同生活してるという事。

 ケビンが直接指名したらしいと言われている事。


 僕はケビンに対してもどう接したら良いのか分からなくなってきた。

 弟という顔と僕から仲間とあの笑顔を奪ったという顔がどちらが本当のケビンか分からなくなってしまった。


 それからケビンや見習、ハンナ達に会ったのはカースド家のローズティア嬢との合同誕生日会だった。

 彼女達の笑顔は僕に向けられる事は無く一心不乱にケビンを追っていた。


 何故か悔しかった。

 そしてこの誕生日会でも僕はケビンの存在に霞んでしまった。


 心の中で『何でアイツばっかり』と悲鳴を上げていた。

 トリプルスキル水晶なんて用意できる訳無いだろう普通!

 と怒鳴りたかったがローズティア嬢の目の前だから我慢したしエスコート役は僕なのだからと。


 誕生日会が終わった後に母上に相談すると母上は即決して帝都に残る事を決めた。

 そして最近、母上もケビンを良く思ってないらしく仕切りに『どうにかして遠ざけなければ』と言っていた。


 そこからの僕は平穏だった。

 学園の試験を受けて最高評価を得てSクラス入りをした。

 僕はクラスメイトを見てローズティア嬢も居たのとケビンが居ない事に安堵した。


「ローズティア嬢、お久しぶりです」


 そう声をかけると、灰色の髪を耳にかけ美しいローズティア嬢に見入ってしまった。


「カイン様お久しぶりですね。ケビン様は?」


 ドキンと心臓の音が鳴り響いたのがよく分かったのと心から何かが溢れ出て来るのがわかった。


「さぁ、ケビンとは数年会っていないので分からないですが、学園には入ってる筈です」


「そうですか…… それは残念です」


 そう言うとローズティア嬢は新入生代表としての打ち合わせに行ってしまった。


 その1ヶ月後、ケビンはEクラスにいることと貴族籍を隠し入学していることを知ったが少し納得もした。

 昔から貴族にはならないと言っていたけど本気なのだろうと

 その間に母上が父上の怒りを買い領地に連れ戻されてしまったという事もあったが理由を聞くと納得してしまった。


 母上は貴族家当主にしかない権限を勝手に行使したらしい。

 最近の母上は少し怖かったので安堵した。


 そしてケビンはローズティア嬢から距離を取っている事を知ったのも同じ時期だった。

 ローズティア嬢の付き人達が生意気だと話しているのを聞いていたがケビンが平民になりたいのであれば気にしない事にした。


 そしてたまたまローズティア嬢と会話している姿を見た時にイラついた。

 ローズティア嬢は嬉しそうに話しかけ少し落ち込む。

 そう、ケビンは何とも嫌そうな顔をしていたのだ。


 感情の昂った気持ちを抑える事は出来ずに野次を僕も飛ばしていた。


 そして事件が起きた。

 ローズティア嬢がケビンに無視や距離を取っていた態度に心を傷められ泣いてしまい

 警備兵にケビンが捕まったのだ。


 僕はざまあみろと心の中で思っていたのとケビンは貴族子息だから知らないとは言えこんな事をしていいのだろうか? とも思ったが

 前者の気持ちが勝ってしまい僕は口を噤んだ。


 そしてその日から3日後、僕の目の前にケビンが居た。

 何か今までとは様子が違う。


 今までは僕や他の人を見てはヘラヘラしてのらりくらりとしていたケビンはそこには居なかった。


 僕の周りにいつも居る子達がケビンに突っかかり簡単に振り払う。

 それで僕の感情は決壊した。


 弟の癖に生意気なんだよと


 僕は忘れていたいつも色んな知識を面白おかしく教えてくれた弟を

 その知識が入った本が勉強に使われている事を

 ケビンが片手に大事そうに持っていた物に似た物を勉強道具として渡された事を。


 そしてSランクで武術1位の僕には魔法が少し得意なEクラスの奴に負けるわけないとケビンをボコボコにしてやると思って挑んだけど……


 逆にボコボコにされて惨めだった。


 そして今、父上にもボコボコにされて馬車で連れ帰られた。

 そこは帝都宅では無く、帝都1有名な高級宿だった。


「カイン入りなさい」


 治癒して貰い傷は治ったが未だに父上の顔は怖くて見れなかった。

 俯いて部屋に入ると抱き締められた。


 顔を上げるとケビンの母の義母上が僕を抱き締め撫でてくれた。

 そして抱き上げると小さな布団に銀髪の赤ちゃんが居た。


「か、可愛い……義母上、弟ですか?妹ですか?」


「ふふふ、キャロリーナって言うのよ?妹よ、キャロって呼んで上げてね?」


 僕はキャロに手を伸ばし


「キャロ?よろしくね。僕はカインだよ?」


 そう言うとキャロはキャッキャッと声を上げて僕の指を握った。

 何この子可愛い過ぎるよ!?


 反対側を見ると父上がデレデレで先程の顔とは真逆の顔をしていた。


「ねぇアレク。そろそろカインにもケビンの事説明しないの?」


 そこで父上はハッとなり僕に顔を向けた。


「うむ、カイン。ケビンは学園に慣習だから通っているだけだ。

 既にケビンは独り立ちできる程の実力を持っている」


 そこからの話は驚きの連続だった。

 ケビンはDランク冒険者で魔法戦闘は既にかなり強いらしい。


 そしてケビンは貴族になりたくないという思いと僕より優秀だと他の人からの横槍が喧しいとD~Eクラスを狙って入学したらしい。


 そして今回の事件でその制限を辞めたとの事だった。


「父上、僕はもうどうケビンに接したら良いか分かりません」


 話を聞いて僕は本音を父上に告げた。


「うむ、カインよ。ケビンは学園内での身分を振りかざさない事すら守れない今の帝国や貴族子息令嬢達を見放している。

 お前はお前なりに強くなれ、心も体もだ。 そうすればケビンも違いに気付きまた昔の様に話しかけてくれるだろう。


 最近なんて俺にもあーだこーだ言ってくるからな。

 生意気な奴に育ってしまったがそれでも中身が真っ当な意見のせいでぐうの音も出ん」


 そう愚痴を零す父上だったが嬉しそうだった。


「カインはキャロを見てどう思った?」


「守りたいと思いました」


 僕は考えもせず即答した。

 父上は頷き同意した。


「なら領民や平民もキャロと同じ様に接しなさい。

 平民や領民が居なければ我々貴族はお金を得れずに暮らす事も出来ないことを肝に銘じなさい。

 ケビンは冒険者として平民の輪の中に入ってるからこそ、その意味の大切さを先に知ったのだ」


「ごめんなさい。父上。僕はこれから変わるよ!」


 ケビンの様にはなれないけど僕は僕の目指すキャロに好かれる人間になる事を決意した。



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 読者様の感想を頂き書いた視点です。

 皆様の意見を頂きながらも楽しく書き上げられたら作者としては喜ばしく思います。


 いつもお読み頂き有難うございます!

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