第4話

「ふひひぃっ」



 気味の悪い笑い声を上げ、俺は暗闇の中に居た。


 そして手に持つ木剣には光属性の魔力を込めて擬似ライトセ○バーにして遊んで居た。


 魔法が使えるとなったらやっぱりこれをしないとね!


 俺はただ光るだけの魔力で遊んでいたがこれも訓練の1つだった。

 物質に魔力を纏わせるというのは意外と魔力の消費が多く

 そしてその周りに光球を数個飛ばしその間に木剣を通して身体操作をしている。


 昔あったビリビリゲームみたいな奴だが痛みが嫌いな俺は雷属性を作れるが絶対にしない。


 そんな時だった。


ガチャーー


「ケビン坊っちゃま……失礼しました」


ーーバタン


 急に部屋の扉が開き執事が部屋の光景を見てすぐに出て尚且つ遠くで


『だ、旦那様!ケ、ケビン坊っちゃまがー』


 と聞こえた。

 俺は魔力と光球を霧散させて、膝から崩れ落ちた。


「見られた……俺の黒歴史がまた1ページ増えた様だ。ふっ」


 その後は父上に根掘り葉掘り聞かれたがほぼ全部のらりくらりと躱した。

 すまんな父上、俺は貴族なんてやらんぞぉぉぉ!


 そんなことばかり考えていると父上が不意に


「お前には貴族としての誇りは無いのか!」


 と怒鳴った事に対してついつい素直な答えを口にしてしまった。


「平民になりたい……」


「ケ……ケビンゥゥゥ!!」


 父上の怒鳴り声が聞こえて部屋の周りにいた人はそそくさと離れていくが俺には何も響かない。




 そんな事があってから家の様子は少し変わっていった。

 カインには教育が少し増えて武芸は実戦形式の模擬戦が増えたらしい。


 俺は面倒臭いので家庭教師に1週間毎にテストをして貰い

 それをクリアすればOKという約束を取り付け

 勉強時間は魔法と本の習熟と熟読に当てていた。


 算数とか間違えようが無いからな!

 そもそも科学では数式という細かいプロセスがあった薬作りも

 錬金術では魔法が全ての工程をすっ飛ばしてくれる。


 何故こんなに簡単なのか? と言いたいレベルだった。


 材料用意して『抽出』と『精錬』をして『錬成』すれば

 作りたい物に必要な材料だけを摘出して使い出来てしまうのだから。


 はっきり言って薬師の方がエリートだと思う。

 薬作りやポーション作りを魔法の工程無しで再現出来る人を薬師と呼ぶらしいから。


 数字に滅法強いと思う。

 数グラムズレただけで薬品は毒にも薬にもなるからな。


 それから数週間後、問題は起きた……


「ぜ、絶望だ……」


「坊っちゃま? 何を絶望されているのですか?」


 サブが俺の気持ちが分からない様で少し戸惑っていた。


「サブ!お前には分からないのか?書庫室にあった本を読破してしまった絶望感が!」


 更に困惑した様にサブは問いかける。


「なら読み直せばよろしいのでは?」


「アホかっ!!本なんてもんはな? 数行や、数ページ読めばその先、全部思い出せんだよっ!」


 サブは信じられないという表情をしていた。


 俺はそれから5分後サブが持ってきた本をサブに持たせてサブとは反対側を向いて背を向けた状態で

 サブに声に出して読んで貰って本のタイトルを答えることを10冊程度すると信じてくれた様で


 30分後俺は父上に呼ばれた。


 執務室をノックして


「ケビンです」


「入れ!」


 俺は扉を開けると執務室には羊皮紙と木版と紙が机の上に置いてあった。

 俺は家宰のハビスがソファの前の机にお茶を出す。


「こちらへどうぞケビン坊っちゃま」


 俺は言われた通りにソファに座るとそのままお茶を飲む。


 執務室に来てから5分程で父上が目の前に座った。


「ケビン、サブから報告があったが書庫室の本を読破したというのは本当か?」


 俺は頷き


「魔法書と戦術指南書は未だ複数回目を通してますが、再現は出来ていませんので今後は活きた情報や知識が必要な状況です。


 むしろ貴族程必要な知識がここには無いのが悲しい位ですね」


 その言葉に父上は高価な紙を目の前に出し。


「その必要な知識を教えてくれないか? 出来れば理由も」


 俺は頷き、紙に箇条書きをする。


「分かりました。まずは医療の知識ですね。

 これは常に毒味役を雇う位の警戒しているのなら

 そもそももし毒を盛られた時の初期治療や応急処置の知識が必要です。


 戦術指南書も剣だけなのは如何がかと思います。

 後はこれは魔法格闘が出来る先生が必要で尚且つその訓練方法は書物に残すべきです」


 今必要な知識はこれ位なのでここまでにする。


「ふむ? 医者や薬師や錬金術師を雇うだけではダメなのか?」


「え? その人を買収されない自信はどこから来るのですか?」


 執務室が静まり返った中、俺は続ける。


「そもそも執事のサブだって母上の実家の回し者ですよね?


 何か作ったり頼んだりする度に根掘り葉掘り聞いてきて面倒臭いんですよね。


 騎士達ですら下級や歳の若い騎士、又は女性騎士達に横柄な態度で接してる人が居る家ですよ?


 彼らが金で悪魔に心を売り渡した所で俺は驚きませんよ?」


 ギョッとした表情をしたのはハビスだったが一瞬で表情を戻した。


「ハビス、騎士達の件については調査しろ。それで2つ目は?」


 ハビスは一礼して部屋を出ていった。



「2つ目は、剣と槍の武器があるのに何故剣の指南書しか無いのですか?


 騎士は剣と固執する意味も分かりません。


 室内に居る状況なら取り回しの良いという理由は分かりますが


 槍が得意な騎士が居るなら槍を使わせるべきですよ。


 もしこれから先クロス家の後継者に男が生まれなかった場合、


 女の子でも距離が取りやすく扱いやすい槍の指南書が必要ですよ。


 魔法格闘の必要性は自分の経験から言うと魔力操作の向上で身体強化の強化度が上がると思います。


 なら魔法が使えなくても魔力は0にはなりません。

その訓練を取り入れ武器が無くなったとしてと

 身体強化を最大限に上げて逃走して生き残り情報を持ち帰る訓練も必要と考えます。


 という建前が自分が今欲しい知識の為に考えた言い訳です!」


 ドヤっとした顔をすると、関心していた父上は呆れた表情をした。


「最もな意見だったから考える。前向きに検討をするがもう少し本音を言うのは我慢しろ」


「善処します父上。では失礼します」


 俺はそう言って執務室から出たのであった。




 昨日、父上に要望を伝えてから1日経った昼に問題は起きた。


 訓練終わりに自室に戻ろうとすると部屋の中から物音が聞こえるのだ。


 俺の部屋には誰も居ないはずなので今居るやつは確実に敵認定出来ると同時にマズイ本もあるので焦った。


「は? ヤバいっ!」


 俺は身体強化を全力でかけて部屋に入ると


「チッ、クソがっ!」


 執事のサブが悪態を吐きつつ、短剣を持って俺に襲いかかって来たのだ。


 俺は持ち出そうとした物を見て頭の中の温度が一瞬でぶわっと上がり


 目の前がチカチカとしたと思ったら逆に物凄く

 目の前の視界がクリアになりサブの動きが遅くなった。


 俺は短剣を突き刺そうとしている腕に向かって

 今、出来る最高の硬質化した爪を振るい腕を切り落としその勢いのまま胴体を蹴飛ばした。


右腕が切り落とされ、蹴飛ばされた時に左腕で持っていた本3冊とそろばんもどきが


 バサッバサッガシャと落ちた音が響くのと同時に



「う、うぎゃぁぁぁぁああああ」


 サブの痛みによる絶叫が響いた。


 俺はサブから視線を外さずに本とそろばんもどきを回収した時にハビスと父上が慌てて入ってきた。


「ケビン何があった!?」


 俺はサブを睨みつけ質問に答える。


「そこの間者は触れてはいけない領域に入ったまでです。


 主の家の魔法書と戦術指南書更に俺が作った道具を盗もうとして


 たまたま俺が部屋に戻って来た事に気付くと短剣で攻撃してきました。


 腕がそのままそこに落ちていますので何か反論出来るならして欲しいですね」


 ハビスがすぐに騎士達を呼び部屋をサブを連れ出し父上は


「わかった。少しふざけが過ぎる様だな……」


 俺の真後ろから魔力の圧力とはまた違った圧力が俺を襲い少し冷静になった。

 俺は魔力の放出を軽く行いその圧力に耐え


「父上、俺にそのレベルの武威は俺にはキツいです」


 ハッとした様子で父上は武威を霧散させた。


 この世界の威圧は何も武威や魔圧だけでは無く、

 商人の世界でもやり手の商人は風格だけで威圧を出せるらしい。


 面白い事に強い威圧に晒された時にこの3種の威圧は気合いと

 どれかの威圧が出来れば格上との対峙しても何も出来ずにやられる事は無いのだ。


 気や霊気と言われる武威、魔力を威圧に使う魔圧、風格や切った張っただけで培い覚悟と精神力だけで行う風格圧。

 風格圧だけは俺は死出の衣、所謂死の覚悟と気合いだと思う……


 力の源泉は違うのに拮抗し合うので、この力は自分の得意な力を伸ばすのが1番らしい。


 そんな威圧に関する知識を思い起こしていると


「ケビン、その手に持ってる四角いのは何だ?」


 オーノー!!!父上に隠していたそろばんもどきが勝手にお披露目になってしまった。


「いや、あのこれは……えへへ。お小遣いで作ったんです。

 あれ? 父上、そんなにいい笑顔してどうしたんです?

 どうして俺を捕まえるのです?父上ぇぇぇ!離してぇぇぇ!!」


 俺は強制的に父上に連れていかれることになった。

 建前の名目は襲撃犯の血で汚れた部屋を綺麗にする為。


 本当は俺が隠そうとする道具の使い方を聞き出す為だった。

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