第3話

 待合室へと戻ると親が迎えに来るまでそれぞれあーだこーだだべっている人や

 顔合わせや顔繋ぎを目的の会話の子息令嬢達が居たが。


 俺は興味が無いので椅子に座り、洗礼式前と後でどう違うのか確認していたが……


「まじか……これ程とはな」


 今、俺の指先には2つの無属性の魔力の玉がクルクルと指先で回転していた。


 1つのみの数ミリの玉ですら辛かった魔力の玉が

 今はさほど苦労も無く2つの玉をコントロール出来る。うへへへにやけてしまうぜ。


 夢が広がった瞬間だった。

 これを変質させれば魔法が使える証左であったのだから


 窓を眺めながらそんなことをしていると扉がバンッと開き

 大声が聞こえたので咄嗟にそちらに視線を向けると


 豪快な笑い声を上げて典型的な自分は選ばれた存在だと言いたげな子息が入ってきた。


 俺は魔力で体を覆い周囲の漂っている魔力に変質させて周囲に同調させる様にした。


 これは、偶に家を抜け出し街で冒険者の斥候と呼ばれる人から

 聞いた#隠密__ハイド__#という技術だった。


「俺様は武の才能を貰ったぜ!ガハハ貴様らとは違ってな!」


 あ、周りの人が諌めようとしているが聞いてないなありゃ。

 俺達が洗礼式を終えて結構な時間が経っているので辺境伯家子息か侯爵家子息だろうな。


「邪魔だ!どけ!」


 む? それはダメだろ。


 俺は咄嗟に身体強化をかけて傲慢子息の横をたまたま通り抜けた

 令嬢が肩を押されて多くの椅子が置いてある方に

 飛ばされそうになった令嬢を肩を優しく受け止める。


「きゃっ!え? 何?」


 令嬢はびっくりして俺の方を見た。

 俺もギョッとした目で令嬢を見て

 心の中で『うげぇやってもうた……』と後悔した。

 腕の中を見ると何でお前がここに居る? と言いたい令嬢だった。


 彼女を立たせて俺は最高位の儀礼を執る。


「このまま倒れてしまうと怪我をなされてしまうと思い介入させて頂きました。

 肌に触れてしまい大変失礼を致しました処罰は受ける所存でございます。

 先程は挨拶出来ずに申し訳ございません。

 私はケビン・クロスでございます。

 兄に挨拶していた時に名前は聞いております。

 ローズティア・カースド様」


 わざと大きめな声で家名を告げるとギョッとしたのは先程の子息側達だった。


「いえいえ、ありがとうございます。ケビン様。

 カイン様は貴方は普通の人とは違うと仰られていたので少し興味が湧きました!」


 いや要らんマジで要らんからノーサンキューでーす!

心の中で盛大に首を振る。


「普通の人と違うのは私は貴族という枠組みにたいした思いも希望も興味も何も無く

 知識の探求と魔法のみに興味があるだけですよ。

 それが周りの人には奇行や変行に映るのでございます」


 場がシーンと静まり返っているとローズティア様は

 うーんと少し考えて普通にマナー違反をしてくる。


「ケビン様は何の指針を頂きましたの?」


 多分全員心の中で『マナー違反でしょ公爵令嬢殿!』と一致団結した事であろうが……

 まぁ『成長』が指針なのだが、こちらは誤魔化せる。


「まぁたいした事ではないのですが、『知識の探求』ですね」


 間違いでは無いのでこう言っておこう。

 俺の興味ある分野は

・生産(料理+道具)

・武術(No対人歓迎魔物用)

・魔法(全部来い!)

・それに付随する知識だった


 付随する知識に着いては中々面白い事になっている。


 最低限度の基礎知識は前世の記憶である。

 商売に関して言えば流通方法や経営形態の数種類なら分かる。

 なので深堀することはあまり無いので主に魔道具流通やギルドを通した

 商売方法というこちらでは主流かつ独自なルールの知識が欲しかった。


 俺が普通に答えたことに対してローズティア嬢は驚いていた。

 いやお前が聞いたんじゃろがい!微笑みの鉄仮面を被り更に猫を被る。



「あら素直に答えて頂けるとは面白い方ですのね。ふふふ」


 そんな時俺に救いの神がやって来た。


「ケビン、帰るぞ。む? これはローズティア嬢

 うちのケビンが何かご迷惑をおかけしましたか?」


 ナイス父上そしてそれはなんと言う酷い意見だ。親とは思えない俺の信頼度の無さ……


 ローズティアは少しキョトンとした表情をしたがすぐに気を取り直し


「名前を覚えて頂き光栄ですわクロス卿。いえケビン様にはそこの辺境伯子息に

 突き飛ばされた所を助けて頂いたのです」


 へぇ、あいつ辺境伯家の子息だったのか終わったな……どんまい。

 父上は珍しく驚いていた。


「ケビンが? 珍しく人助けとは……」


 そこかい!


「父上? 私はローズティア様が公爵家令嬢ということを知っていて

 その場で怪我をする様な状況に陥った時に目の前で見ていて

 行動しなかったら最悪どうなりますか?」


 俺は頼むぜパパンと期待を込めた眼差しで見つめると

 父上は理解したと言わんばかりのあくどい笑みを浮かべた。


「ふむ、そういうことか。ローズティア嬢の父上は娘を溺愛してるからな。最悪全員の首が物理的に飛んでな」


 静かだった部屋の温度が3度位下がった気がする。

 まぁ、俺は気にしないけどね。


「でしょうね。なので珍しく本気で行動しました。

 ということでローズティア様、大変楽しいお時間でしたが

 父上がいらっしゃったということはお時間が来てしまった様ですので私はこれにて失礼致します」


 そう言って父上と共に部屋を出る時に辺境伯家子息が急いで謝っていたが……

 ありゃ無理だろうなぁって位、冷たい目でローズティアはその子息を見つめていた。



 馬車の中ではカインが武神様より直接声をかけて貰った事が話題になっていた。


 洗礼式での指針の説明にはランクがある。


 1番下は指針を本能がぼんやり理解出来ている状態。


 次が指針を完全把握出来ている状態。


 次が神様からのメッセージ付きの文字が頭の中で

 浮かび上がってくるその中にアドバイスや一言あるらしい。


 最上級がカインが受けた直接声をかけて貰い

 アドバイスや指針の方向性を教えて貰える事だった。


 え? 俺? 直接会ってますけど? 何て言ったら教会に意味も

 無く祀り上げられ大変な事になりまっせ!秘密です。

 そこで何か悔しかったのか母上が俺にも聞いてくる。


「ケビンはどうだったのかしら?」


 その期待を込めた眼差しはやめて欲しいのだけどなぁ。

 過度な期待はヒスの始まりだからなぁ。


「母上、ガッカリしますよ? 本当に良いのですか?」


 皆……何でそんなに緊張してるんだ?


「俺は知識の探究と魔法の神エスト様から文字で

 本当は声を掛けたかったが、知識欲が抑えこめん。

 すまん文字で勘弁してくれと書いてありました。その後の事は秘密です!」


 馬車に乗っていた全員が思ったことであろう。

 何と似ている2人だろうかと、ケビンも興味がないことは

 出来る限り早く終わらせ、無理なら逃走をはかり

 自分の好きなことを始めてしまうタイプだった。


「す、凄い理由でグレードダウンされたのね……」


「まぁ、今年は何かと忙しいらしいよ?」


 全員がそこに食いついた。


「学問と知識の神が忙しいとな。うちの領地も少し警戒が必要かもしれんな」


 いや、適当に言ったけどさ、ありゃエスト様は直感タイプで思ったまま行動するタイプだろうよ。

 因みに父上と俺の神の呼び方が違うのは正式名称と通称の違いだ。


 エスト様なら知識の探究と魔法の神が正式名称で通称学問と知識の神になる。


 まぁ魔法も知識と学問と人は捉えている訳だね。

 カインが声をかけられたのは正式名称武と流れの神エデルバルド様で通称武神様だね。




「うむ、2人共一応ケビンも最上級の洗礼を受けれた様で何よりだ

 領地に戻っても研鑽は怠るなよ?」


「はい!」「へーい」


 俺達は無事? 洗礼式を終えたのであった。




 それから1週間後カインは洗礼式後の顔見せパーティーに行った。

 俺? 体調不良でお休みってことにしてる。


 今は帝都の屋敷にある騎士達の訓練場で剣術兼魔法の訓練を行っていた。


 俺の不可思議な行動に周りの騎士達も興味津々と言った具合で見られていて少し居心地が悪かった。


 30分程して1人の女性騎士が近寄って来た。


「ケビン様? 先程は何をしていたのでしょうか?

 私達にはさっぱり理解出来なかったのですが……」


 申し訳なさそうに言う女性騎士を見るとどこか無理矢理聞いてこいって言われたのかと感じた。

 これはパワハラっぽいなと思いつつ奥に居るニヤニヤしている男性騎士達を見る。


 俺は少し考えて硬質化と光属性を加えた魔力球を出す。


「ハンナだったよね? 自分の魔力は見えるけど周りの人には見えないから今は光らせてる。

 魔力察知が使えるなら違うんだろうけどね?

 さて、ハンナ君!この魔力球を壊さず弾いて?」


「え!?壊さずにですか?」


 ハンナは木剣の剣の腹で優しく魔力球を弾いた。

 俺はそれを操作して再びハンナに向かわせる。


 最初は頑張って避けたり受け流したりしてたが3回目の時に

 少し直線的な動きから上下の動きを加えると耐えきれずそのまま魔力球を破壊した。


「とまぁ、流石は騎士だね。身体操作のレベルが俺とは違うな。


 俺は木剣に魔力を纏わせて壊れない程度のレベルで弾いてそれを繰り返しする事により

 身体操作と魔力操作と魔力変質を同時に鍛えてたって訳!


 効率良いでしょ? でもこれはハンナだけへの秘密ね?


 だって自分で聞きに来ない奴に教えるなんて腹立つし」


 そう言うとハンナは嬉しそうにしてた。


「言い訳は自分で飛ばした魔力球を壊して遊んでたって伝えれば良いよ!」


 そう言うとハンナは報告に行った。

 男性騎士は俺の行動に興味を失くした様で去っていった。


 するとハンナ+5人の騎士と騎士見習がやって来た。


 おろろ? 貪欲だねぇ、5人の騎士達の内訳は3人が女性騎士で2人が青年騎士だった。

 騎士見習の3人は全て少女だった。


 俺は先程の方法を教えると面白そうに全員がやり始めたが

 中々自分に厳しく出来る人は少ないみたいだな。


 俺は20個の光属性を付与した硬質化の硬さをそれぞれ変えた魔力球を出して

 操作を始めた、騎士・騎士見習達はギョッとしたがすぐに対応しようとして居た。


 俺は目を瞑り魔力操作と魔力感知を必死にする。

 ふふふ、君達の訓練にもなるし俺の訓練にもなる一石二鳥だな!


 今日は序列1位から中間上位までの騎士達は父上達の護衛をしていて外出中だ。

 貴族や他の家の騎士達への対応で失敗をするとクロス家に傷が着くためだ。


 1時間半後、訓練場に存在したのは死屍累々の疲弊した俺を含めた9人であった。



 でもどこか満足そうにしている騎士達を見ると嬉しかったな!

 ハンナよ女の子がふひひと笑うのはどうかと俺は思うぞ?


 少し休憩を入れた後に9人で模擬戦をする事を提案した。


 最初はイヤイヤと言っていたが、先程の魔力球の猛攻を見たのに何をと言ったら皆OKをくれた。


 最初はハンナと俺だ。

 ハンナは既に身体強化をしている。

 俺は普通にそれを感知しては居るがハンナ達は魔力を感知出来ないらしい。


「開始!」


 その言葉と共にハンナが俺に突っ込んで来る。

 俺はハンナに力では今現在勝てないし魔物を倒して無いので

 魔物を倒した時に貰える力? 経験値を吸収していないので魔力量も勝てない。

 なので身体強化を使うにも瞬発的な使い方になってしまうのだ。


 ハンナが木剣を振り下ろそうとした時に俺は身体強化を使い逆袈裟切りを仕掛けたハンナの木剣を弾く。

 下から上の攻撃に対して俺は上から下の体重を乗せれる攻撃だからこそ弾けた。


 少しよろけたハンナはそのまま力の流れに逆らわず回転して木剣を振るって来た。

 ハンナは流の剣士って感じだなぁと感動してしまった。


 力に逆らわずに流す型だ。

 その水平切りに対して俺は木剣に纏わせた魔力を粘着性に変えて

 木剣を下から叩き更に回転させて俺もハンナの木剣にくっつき魔力を4つ

 最高硬質で浮かべそれを最大強化率の身体強化で

 踏み込み遠心力の負荷が最大になった所で逆にハンナの体が浮いて


「 え? 嘘!?」


 と言って騒いでるハンナを無視して、俺はハンナの体が浮いた瞬間に

 思いっきり木剣を振り木剣の魔力を解除した。

 ハンナはそのまま飛んで行った。


 俺は冷静に着地をし、ハンナを追って尻もちを着いたハンナの首に木剣を添えると手を挙げた。


「無理!降参です!あんなの無理ですよー」


 ブーブーと頬を膨らませるのであった。


「いや、あれは初見殺しかつ相手がスピードや受け流しを

 主体とする騎士にしか通用しないからね?」


 そう言うとハンナは俺を抱っこする。


「ちょ!ハンナ!」


「こんなに可愛いくて軽いのに負けちゃうなんてお姉さん悲しいよ」


 良い匂いがするのはあれだけど見られたらまずいでしょ!


「隊長以外で初めて負けたー」


 俺はその言葉に驚いた、剣の実力だけで言えばハンナはそんなに強かったのかと。

 騎士は何も剣だけで序列が決まるわけではない。書類仕事も大事なのだ。


 主を守る為の矛であり盾でもあるので研鑽を惜しまないのが騎士達であった。


 その後はハンナは言葉通り他の騎士や見習達をガンガン指導していた。

 その様子を見て俺も勉強になったのであった。

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