可愛くなくなっちゃう
嘉幸
第1話
春は嫌い。大嫌い。
1番可愛い物が多くて、ちょっとだけ短くなるスカート。
ふわふわの服に、ピンクのリップ。
パステルカラーのワンピースは、この季節を可愛く彩ってくれる。
体にフィットしてる服、大好き。
春なんて大嫌い。
学校に向かう道で、ふと視線を上げれば、桜の木が目に入った。まだ花は咲いていない。
小さな蕾が健気に太陽に向かって伸びている。
「そっか。あんたたちは、春が待ち遠しんだね」
ポツンと溢れでた呟きが耳に入ってまた憂鬱な気持ちになる。
道ゆく人達はとっても可愛くてとっても素敵。
テレビのコマーシャルも、桜の花びらが散っている。ピンク一色の素晴らしい世界。
すん、と鼻を啜ると、ズビ、と可愛くない音が出た。吸い込んだ匂いは、いつもどこからか香るムワリとした花の匂い。私はこの花の名前を知らない。
春の気配に、急速に視界が歪んでいく。ぶわりと、生ぬるいものが溢れ出た。
指でなぞれば、手がべちょべちょになった。
春なんて大嫌い。
もうすぐ春休みになって、私は16歳になる。
高校一年生だ。
服はどんどん可愛くなっていくのに。
お化粧だって、ヘアスタイルだってなんだって可愛い。
それなのにどんどん歳をとって似合わなくなってく私が大嫌い。
3年前までは履けていたスカートも、1年前までは高くて可愛い声だったのも。全部もう過去のものだ。
毎年毎年やってくる春に、また自分の変化が起きる気配に吐き気がする。
身長が伸びて、筋肉がついて、髭が生えて、喉仏がグッと出て声が低くなった。
ああ、また一年が経ってしまった。
桜の花びらが舞う頃に、私は一体どんな姿になっちゃうんだろう。悲しくて悲しくてたまらない。
止まることない涙は、次々に溢れてもう顔はぐちゃぐちゃだ。
春なんて大嫌い
可愛くなくなっちゃう 嘉幸 @yoshiyuki2206
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