第8話ごはんはみんなで食べたほうが美味しいよね
今私は、自宅で休日を謳歌していた。
あ、そうだラーメンってどうやって作るのかしら?
携帯で調べてみた。
ええと、なになに。
ラーメンのスープを作るには鶏ガラや煮干し、昆布などの出汁を使う。
さらに様々な野菜を加え、数時間から数十時間煮込むなど……。
うーむ、調べた限り結構手間ね……。
やっぱり向こうでラーメンを食べるのは諦めようかしら。
でも、こっちで食べるにはラーメンは値段が高いし。
どうしたものか。
……ベルンさんに頼んで作って貰えないかな?
なら、どういう料理かベルンさんに知っておいて貰ったほうが良いよね。
そういうことなら、参考にするためにカップ麺とか袋麺なんかを向こうに持っていこう。
で、それをベルンに食べて貰って、ラーメンがどんなものか知ってもらう。
うん。
よし、それでいこう。
早速近所のコンビニへ赴き、色んな種類のカップ麺や袋麺を買って帰った。
今日はなんかもうめんどくさいし、晩御飯はカップ麺にしよう。
お湯を注いで三分。
「いっただっきまーす! んんんー、美味い! 久しぶりに食べるとやっぱ美味しいわー」
最近のインスタントラーメンってクオリティが高い。
気付けばあっという間に食べ終わってしまった。
「なんかもう一個食べようかしら……。いやいやダメよ。さすがにそれは辞めておこう……。でもやっぱ食べたいなー」
我慢出来ない!
ええーい!
もうこうなったらとことん食べるわよー!
食欲の暴走に任せてカップ麺を食べまくった。
全部で三つも。
うう、なんて私は罪深い女なの。
中々の背徳飯ね……。
――――
金曜日。
今日もいつも通り異世界にきた。
まずはアイズさんのお店に向かい、そこで魔法の教科書を売ってもらえるか交渉しにいく。
しばらく歩きアイズさんのお店に着いた。
「どうも、こんにちは」
「ああ、シズクさん。いらっしゃいませー!」
「お店の売れ行きのほどはどうですか?」
「そうそう。あの後、シズクさんに持ってきていただいた商品がすぐに売れたんですよ」
「本当ですか! それは良かったです」
「ええ、なので売上は上々といったところです」
良かった。
アイズさんにもかなりお世話になっているし、売上に少しでも貢献できて何よりだわ。
「それでですね。また同じ商品をうちの店に卸してはくれないかなと、思ってて」
アイズさんにそうお願いされる。
元々彼女とは、今後とも取引をしたいと考えていたので、私としても嬉しい限りだ。
「お安いご用です」
「助かります」
「あの、それで。アイズさんに、今日は折り入って頼みがあるのですが……」
「なんでしょう?」
私はリュックから件のものを取り出す。
それをアイズさんに渡した。
「これは一体なんです?」
「ええと、なんていうかこれは……。魔法の指南本のようなものといいますか、魔法を扱ううえで参考になる本です」
別に自分で自作したものだとは言わなくてもいいかしらね。
「なるほど。ちょっとみさせて貰いますね」
「どうぞどうぞ」
アイズさんは1ページ1ページ丁寧に捲り見ていた。
「確かに素晴らしいものですね!」
「本当ですか!」
「ええ。シズクさんはこういったものまで扱われるのですね。これはかなり売れそうですよ」
そう言う彼女の目はキラッと光ったように見え、その目は商売人魂を感じさせるものだった。
まだ売るものだとは一言も言っていないのに、察しの良い人だなアイズさん。
「ぜひこれをアイズさんのお店で売って頂けないかなと思って」
「本当に!? では早速買い取らせて頂きますね!」
話しが随分速い。
でもそれだけ価値あるものだという証しなのでしょう。
「では全部で10000バリスの値でどうでしょうか?」
え、それって実質日本円で10万円の価値じゃない!
「10000バリス!? え、なにかの間違いじゃありませんか?」
「いえ、これほどのものですから。なんならもしかしたら安いくらいかもしれません」
つまり査定不可能なくらいのものってことですか。そうですか……そうですか。
まずい。
これはおおごとになる予感……。
「じゃ、じゃあその金額でお願いします」
震えた声でそう言った。
「まいどありがとうございます」
――その後はアイズさんと別れてから、なんとなく少し警戒しながら町を歩いた。
冷や汗をかくほどに。
10000バリスもの大金を手にしているのだから当然。
でもこれで手持ちはかなり潤沢な資金となった。
結構豪遊出来そう。
しないけど。
――――
いつものようにベルンさんのお店にきた。
ロン君とまたここで待ち合わせをしていた。
「どうもこんにちは」
「やあ、いっらしゃいシズク」
ベルンさんが忙しそうにしながらも出迎えてくれた。
「シズクさん今日も遅いよー」
ロン君がカウンターでぐでんとしたふうな体勢でそう言った。
悪いことをしてしまったわね。
「ごめんごめん。でもその代わりに今日は、美味しいものを持ってきてきたからそれで許して」
「美味しい物?」
「ちょっとまっててね」
私はそう言い、ベルンさんを呼び止めた。
忙しそうにしているところ悪いけど。
「あの、今日はベルンさんに頼みがあって」
「頼みってなんだい?」
「ええと……」
リュックからカップ麺やら袋麺を取り出し、カウンターの上に並べる。
ロン君が横で興味深そうにそれらを見つめていた。
「これは?」
ベルンさんが物珍しそうにしながら聞いてきた。
「まえに言っていたラーメンっていう料理です」
「ああ、そういえばそんな話ししてたよね」
「はい。でですね、ますは実際に食べて貰おうかなって。ちょっとお湯を沸かしてもらえますか」
「ん? いいけど……」
ベルンさんにお湯を沸かしてもらい、そのお湯をカップ麺に注ぐ。
それから三分待ってから、蓋を開ける。
湯気とともに食欲をそそる良い匂いが広がる。
「どうぞ食べてくださいベルンさん」
「うん……。それはいいんだけどさ」
ベルンさんに店員さんたちや、他のお客さんたちからの視線が向けられていた。
みんな気になるみたい。
どうやら彼は、それが気になって食べようにも食べられないみたい。
「あはは。まあ、とにかく食べてみてください」
「う、うん。そうだね」
ベルンさんがゴクっと喉を鳴らす。
そしてフォークでチュルチュルと食べる。
「……!? なにこれうまっ!」
良かったこっちの人の口にも合うみたいね。
って……え?
ロン君が我先にと「俺にもそれちょうだい!」と。
さらに周りで見ていた人たちから、一様にジュルっと生唾を飲み込む音を出しながら「なあ、俺にもそれくれないか!」、「ずるい私にも!」と。
されには店員さんたちからもお願いされた。
なんとなくこうなるような予感はしていた。
「はーい、順番にお待ちください」
大丈夫かな。
これ人数分あるかしら。
カップ麺だけじゃ足りないわね。
なら袋麺を作ろう。
「ベルンさんちょっとキッチン借りますね」
いまだ一人でチュルチュルしていたベルンさんが、口をもぐもぐさせながら返事を返してきた。
まずはお湯を沸かす。
袋麺は説明書通りの要領の水を、計って作るのが私のこだわり。
そして、予め丼をお湯で温めておくのがポイント。
今回は丼がなかったので、代わりに深めの食器をつかう。
お湯が沸騰してきたらそこに麺を投入。
なるべく麺はいじりすぎないようにほぐす。
少し堅めなくらいで火を止めてから、付属のスープを入れる。
お湯を捨てた食器に、出来たインスタントラーメンを盛り付ける。
じゃーん、完成!
「お待たせしましたー。皆さんどうぞ召し上がってください!」
その場にいたみんなが、鼻をクンクンとさせ、一様に「良い匂いー」と、幸せそうな声をだす。
みんな一斉に「いっただっきまーす!」と声が揃った。
私の分もしれっと作ったので一緒に食べる。
そこかしこでチュルチュルっと聞こえた。
そして「うっまーい!」という、大歓声とも思えるような声が響き渡った。
「こんなにうめえもん食ったの初めてだぜ!」とか、
「このやみつきになる味たまんないわ!」というみんなの言葉が弾む。
ロン君にいたっては「おかわり!」と声高々に叫んでいた。
食べるのはやっ。
「はいはい。ちょっとまっててね」
ふふふ。
でも良かった。
みんなに喜んで貰えて。
私は追加のインスタントラーメンを作るためにキッチンへ向かった。
「ご馳走様。すごく美味しかったよ」
そう言いながら、ベルンさんがキッチンにきた。
もう食べ終わったみたいね。
「お粗末さまです。それでどうですかね? ベルンさんラーメン作れそうですかね?」
「うーん、やってみないと分からないけど。そうだなぁ……。シズクはラーメンのレシピとかって分かったりする?」
「ええ、まあ一応」
ネットでみたレシピならね……。
「それなら出来ないこともないかも」
「本当ですか!? やったー!」
「でもあんまり期待しないでね。なにせ初めてのことだからさ」
「いえ、ベルンさんならきっと出来ますよ! だってベルンさんの作る料理は絶対美味しいに決まってますから」
「なんだか照れるな。よーし、そんなに言われちゃやるっきゃないね!」
「その意気です!」
――私は、ネットでこの間ちらっと調べたレシピをメモして、ベルンさんに渡した。
その後は、持ってきたインスタントラーメンがなくなるまで、みんなに振舞った。
ほとんどロン君が食べてしまったのだけれど……。
まったくロン君の大食いっぷりには驚かされるわ。
――――
私とロン君はお店を出て、魔法の練習をしているいつもの場所へと歩く。
「……ううー、腹が重い」
ロン君がお腹をさすりながらそう言う。
「もう食べ過ぎよロン君」
私は苦笑気味に言った。
「だってあんなに美味いもの、みすみす食べないでいる手はないよ」
「まあ、美味しいものを食べられるってことは、良いことなのかもしれないけどね」
私が聞いた限りだと、こっちの世界でも貧困などで、ろくに食事をとれない人々がいるそう。
前にベルンさんのお店に来ていたお客さんから聞いたことがある。
そう思うと、毎日美味しい料理を食べられるだけでも、有難いことなのだと感謝しなければ。
「そう、そうなんだよ。シズクさんの言う通りだよ。やっぱ美味い料理を食えるってことは何よりも幸せなことなんだよ。少なくとも俺はそう思う」
なんだか熱い口調で語りだしたロン君。
「どうしたの? 急に熱くなって?」
「……俺実はさ、スラム街に住んでるんだ。家族五人で。でも母ちゃんは病弱で働けないし、妹や弟たちなんかも三人とも小さいから、俺が冒険者として稼いだ金で飯を賄ってたんだ。でも家族全員分には足りないから、いつも自分の分を妹や弟たちに分けてやってた。でもさ……やっぱり俺も本当はたくさんごはんが食べたいわけで。だからさなんていうか……その、ってえっ?」
私はひっくひっくと、目から哀しい情の粒を流していた。
そうか。
こういう事情があったのか。
だから私に魔法の授業料代わりにごはんを奢ってと言ってきたわけね。
「な、なんで泣くんだよ」
「だって……あまりにもロン君が健気で良い子すぎて……。ひっくひっく、そっかロン君頑張ってきたんだね……。ひっくひっく。ロン君、君は偉い! お姉さんがよしよししてあげる」
私はロン君を抱きしめて頭を撫でまわした。
「ちょっ、やめてよシズクさん! って聞いてねえ!」
「よしよし、良い子良い子」
ロン君はやめてといいながらも黙って撫でさせてくれていた。
なんだかんだ照れているみたい。
可愛いとこあるわね。
「そういうことなら。今度からロン君のご家族も一緒にベルンさんのお店にきたら良いわよ」
「え? それって……」
「食べる物の心配はもうしなくて大丈夫ってことよ」
「……シズクさんありがとう」
ロン君がわーっと、泣き出してしまった。
「よしよし」
ロン君を胸で抱きしめる。
今まで我慢してきた思いの丈が、きっとはちきれてしまったのでしょうね。
今までよく頑張ってきたね。
よしよし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます