第4話私食べてばかりね

ベルンさんのお店に着き、約束の品々を渡した。




「おおー! すごいよ! こんなに上質な物初めてみたよ」




やっぱりそうなのね。


こっちの世界では、加工技術はそれほど高くはないのかもしれない。




「お気に召して頂いたようで何よりです」




「うん、ありがとうシズク。それで値段のほうなんだけど……」




さて、いくらくらいになるかな……。




「こんなに良質なものだから5000バリスあたりで買い取らせて貰えないかな?」




「えっ!?」




5000バリスですって!?


ええと……聞き間違えかしら?


だって、こっちの物価が日本の十分の一だとしたら、実質50000円の価値になる計算よ。


10000円で買ったものが50000円になっちゃったわ。


当面の目標はやくもクリア……。




「あの、本当にそのお値段でよろしいんですか?」




おそるおそる聞いてみる。




「あ、もしかして足りないかな?」




「いえいえいえいえいえ、充分過ぎるくらいです!」




慌ててそう言う。




「そう? なら取引成立ってことで」




「はい! ありがとうございます!」




その後は、ベルンさんに商品を買い取ってもらい、その金額をありがたくいただいたのでした。




まさかこんなに高く売れるとはね。


この調子なら当面の間、お金の心配はいらなそうだわ。




「今日は食事していかないかい?」




ベルンさんにそう尋ねられる。




丁度今、お腹がペコペコだったので「はい、ぜひお願いします!」とがっつくように返事をした。




「じゃ、ちょっと待っててね」




そう言って彼は厨房の方へと向かった。




料理を待っている間、なんだかずっと落ち着かなかった。


ウキウキとしてしまったから。




こっちの世界での生活の足がかりを得て、正直舞い上がっているのだ。


これからどうしよう?


色々、好きに動いていけそうよね。


しばらくの間はお金に困らないだろうし。




もしこっちの世界にあるんだったら、マッサージとかエステみたいなの受けたいなー。


日頃の疲れを癒すまたとない絶好の機会だし。


はあ、色々と想像が膨らむわー。




それもこれも、こっちの世界にこれるようになったおかげね。




と、一人でニヤニヤしていると「はい、お待ちどうさま。ポークトマトソース炒めだよ」


ベルンさんが料理を運んできてくれた。




その料理の見た目からして、多分ポークチャップのようなものでしょうね。


食欲をそそる良い匂いだわー。




「わーい、美味しそう! それじゃいっただっきまーす!」




フォークでパクっと。


んん~、「美味しい!」




「それは良かったよ」ベルンさんが嬉しそうな顔をみせる。




「この歯ごたえのある分厚いお肉。そこにトマトソースのコクと酸味がほど良く合わさったこのお味。これはもうたまりません! フォークを動かす手が止まりません。美味しすぎて気絶しちゃいそう」




「ぷっ、あははは! 食べてる時のシズクは本当に面白いなー」




しまった、また懲りもせずに思ったことを口に出してしまっていた……。




「私ったらまたつい思ったことを言ってしまっていて……」




「いやいや。むしろこんなに美味しそうに食べてくれて、すごくありがたいよ」




「あはは、そう言って貰えると嬉しいです」




「うん。それにほら、シズクのおかげでまた……」




ん?


何かしら?




「なあ、俺にも同じ料理を頼むよ!」


「私にもお願いします!」




と、他のお客さんが一斉に私と同じものを注文し始めた。




あはは……どこかで見た光景ね。


私の食リポ効果恐るべし。




「はーいただいま! じゃねシズク」




ベルンさんはそう言いながら厨房に向かう。




私は冷めないうちにポークチャップを食べ進める。




はあー、料理のお味はとっても美味しい。


のだけれど……やっぱりあれが欲しいわね。




そう、お米!


でも仕方ないよね。


こっちの世界にもお米があるとも限らないし。


でもやっぱりちょっと残念だわ。




「うう、きっとごはんと合うんだろうなー……」




「どうされましたシズクさん?」




いつもの女性の店員さんが話しかけてきた。




「ああ、その……白米が欲しいなと思いまして」




「白米ですか?」




「そうです。ないですよね、そうですよね……」




「ございますよ」




「本当ですか!」




「ええ。でも白米なんて、あまりご注文されるお客様は中々いないので、めずらしいですね」




「え!? ここでは白米を食べる文化がないんですか?」




「そうですね。どちらかというとパンや麺を食べることが多いですかね」




なんですとー!!




いけません。


お米の美味しさを知らないなんて。


米好きの日本人の私としては由々しきことだわ。




「それじゃお米をお願いしても良いですか?」




「かしこまりました」




ごはんを持ってきてくれるまで店の中の様子を伺っていると。




「こりゃ確かにうめえな!」とか、


「本当に美味しい!」と、


先ほど私と同じものを注文していた人たちが、その美味しさに声を上げる。




うんうん。


そうでしょそうでしょ。


美味しいでしょう。




このお店の料理はとっても美味しいんだから!


なんてまた常連の客のようなことを思う。




私と同じものを食べて美味しいと言う人がいると、なんだか嬉しくなるのは、なんでなんだろうな。


なんて思ったりしたのだった。






店員さんが注文を受けてからほどなくしてお米が運ばれてきた。




ちょっとはしたないかもだけど、ごはんの上にポークチャップをワンバンさせてから、


私はごはんとポークチャップとを口に頬張った。




「……う、美味い! お米の持つ甘みと、そこに合わさったポークチャップとが喧嘩することなく、仲良くうま味のハーモニーーを奏でてるわー!」




他のお客さんたちから一様に、ジュルリと、喉を鳴らす音が聞こえた気がした。




「な、なあ俺にも米を頼む!」


「私にもちょうだい!」




「は、はいすぐお持ちしますね」注文を受けた店員さんが忙しく動く。




そして皆のもとに白米が運ばれていった。


皆も私と同じような食べ方をする。




「くうー、こりゃ超絶うめえぜ!」


「はあー、めっちゃ美味しい!」




そうでしょそうでしょ。


そりゃお米は美味しんだから!




ふっふっふー。


お米の美味しさを知ってしまったら、それはもう最後よ。


ごはんの可能性に気付いたが最後、なんにでもごはんと一緒に食べてしまうようになるのだから。




ラーメンだったり、カレーだったり、お味噌汁は王道よね。


もはやその組み合わせは人によって自由。




ふっふっふー。


存分にお米の沼にハマると良いわ。


その美味しさをとくと堪能したら良いわよ。






ほどなくしてポークチャップを平らげたのだった。




「ごちそうさまでした。はあー、美味しかったわー」




「お粗末様でした」店員さんが横にいた。お仕事がひと段落ついたのでしょう。




「あ、そうだ。今日こそはお代を払わせてください。おかげさまで手持ちもあることですし」




「シズクさんがそうおっしゃるのなら」




私は店員さんに今日の分のお代を渡した。




「いつも美味しい料理を食べさせて貰って、本当にありがとうござます」




素直な感謝の気持ちを伝える。




「ふふっ。こちらこそ当店をいつもご贔屓にしていただいて、ありがとうございます」




何かお店にお返し出来ることはないかな?


お店を大々的に宣伝するとかかしら?


例えば私の食リポ効果で、お店を今以上に繁盛させるとかできないかな?


ベルンさんの料理がこんなに美味しいってことを、たくさんの人に知って貰いたいし。




あ、そうだ。


良い事思い付いたわ。


私の雑誌編集者としての経験を活かそうじゃないの!




「あの、一つお願いがあるんですが」




「はいなんでしょうか、シズクさん」




「ここのお店の全メニューを作っていただけませんか? 勿論お代はお支払いいたしますので」




「え、ええ。構いませんが、どうしてでしょうか?」




「私に少し考えがあるんです。まあ、詳細はまた後日に」




「は、はあ。かしこまりました。では店主にお伝えしてきますね」




「はーい」






その後ベルンさんには少し驚かれたけど、私に考えがあるならってことで、快く引き受けてくれた。




私は持ってきていたスマートフォンを取り出し、それを使って料理の写真を撮っていく。


こっちの世界だと携帯は県外だけど、カメラ機能は使えるみたいだ。


写真を撮っている最中、周りの人たちからは不思議がられてしまった。




一通り写真を撮り終え、その映りを確認する。




うん、良い感じだわ。




作ってもらった料理に関しては、私を含めた他のお客さんや店員さんたちとで食べた。


私のおごりである。


だから驚かれたけどね。


でもタダで食べられるってことなら断る人もいないわけで。




満腹になったお腹をさすりつつ、私はお店の人に断りをいれてから眠りに入った。


そうして私は元の世界に戻ったのだった……。

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