第3話お金は何かと入用
今日は日曜日。
今私はホームセンターにきていた。
異世界に持っていく物を買うために。
買う物は料理で使う道具。
先日ベルンさんに調理器具を持っていくと約束したためだ。
そう言えば、具体的に何が欲しいのかを聞いておくのを忘れていたわね。
ふーむ。
まあいいや。
とりあえず思い付くものをカートに入れちゃえ。
鍋やフライパンにフライ返し、あとお玉。
それに包丁、まな板――
あ、砥石とかも持っていったらいいかな。
よし、これくらいでいいでしょう。
レジに品物を持っていき精算する。
全部で一万円くらいの会計だった。
うぅ、あまり安い買い物とは言い難いわね……。
でもまあ、これもより良い異世界生活のための布石だと思えば、なんてことはないわ。
さあさあ、金曜日に備えましょう!
――――
金曜日。
例に漏れず今日も残業に追われているのだった。
「はあー……」
一週間の疲れがどっぷりと出ている。
「あ、そうだわ。眠ってしまう前にあっちに持っていく物を用意しておかないと」
家から持ってきていた大き目のリュック。
その中には先日買った品々が入っている。
多分だけど、これを背負っておいて眠れば持っていけるはず? よね……?。
まあ、とりあえずやってみるしかない。
それと着替えも済ませてと。
割と地味目なワンピース。
これに着替えておけばむこうでもそんなに目立たないと思う。
よし、あとは実際にいってみるだけ。
残業中にも関わらずデスクに丸まり眠りにつく。
おやすみなさい。
――――
――よし、無事こっちの世界に到着と。
荷物は……良かった、ちゃんと持ってこられている。
じゃ、真っすぐベルンさんのお店に行きましょう。
ベルンさんのお店への道はもう覚えているし。
あ、でもその前にこの世界のお金事情を知っておかないと。
私のもってきた物が、いくらくらいで売れるのか予め知っておくために。
ふーむ。
ともすれば商人の人がいそうなところへいって、そこで聞いてみよう。
私はこの世界の街をうろうろと歩き、どこかに露店などがないか見て回った。
しばらく歩いた。
すると大きな通りに出た。
そこでは大勢の人々が行きかっており、かなりの賑わいをみせていた。
「わあー、すごいわね」
圧巻の光景ね。
あ、そうそう。
見惚れてる場合じゃなかった。
まずは情報を得ないと。
他のお客さんや店主の人の迷惑にならないように、なるべく人の少ないお店で聞こう。
私の今いるところから少し外れにある露店に向かった。
そこにいた店主らしき快活そうで綺麗な女の人に、話しを聞いてみることにした。
店主の女性は私より三つか四つほど年上くらいにみえた。
「こんにちは」
「はーい、いらっしゃいませー!」
「少し聞きたいことがあるんですが」
「私でよければ。それでなにを聞きたいのですか?」
「えっとー、私つい先日この国にきたばかりで、それでこの国ではどんなお金が使われているのか。あと物価についてもお聞きしたいです」
「ああ、そういうことなら良いですよ。では教えましょう」
「助かります」
――話しを聞いた限り大体こんな感じの内容であった。
この国ではバリスという通貨が使われており、一番小さいのが1バリス。
それに続いて5バリス10バリス100バリスと続く。
一番大きいのが10000バリス。
と、要は日本と同じ十進法な訳である。
あとは物価について。
例えばこの国でパンを買うとした場合、一つ20バリス程度が相場だそう。
正直安いと思う。
もし今の日本でパンを買うとしたら、200円は掛かるじゃないかな。
ここだと十分の一の値段で買える。
断然安いわ。
仮に一日三食20バリスのパンを食べるとしたら、一か月に掛かる食費は、1800バリスってところかな。
なら、当面の目標は最低でも1800バリスは稼ぐこと。
あとはちょっとくらいの贅沢が出来ればそれで充分。
そんなに簡単なことじゃないかもしれないけど、頑張ってみるか。
楽しい異世界ライフのために!
「――お話聞かせてくれてありがとうございました」
女性の店主にお礼を言う。
「いえいえ、困った時はお互い様だから。なんでも頼りにして貰って良いですよ」
有難いお言葉ね。
そうだ。
一応これについても聞いておこう。
「ありがとうございます。あ、あの、もう一つお聞きしてもよろしいですか?」
「ええ、構いませんよ」
「じゃ、えっと。私この国でご商売のほうをさせて貰うかなと思うんですが、そこでご商売をする上で、知っておいたほうが良いことってなにかありませんか?」
「なるほどそういうことなら。この国で商売をするのなら絶対に『商人ギルド』に登録していないといけません」
商人ギルドって……ああ、あの異世界ものによくあるやつね。
現代日本でいうところの商工組合みたいなところなはず。
「商人ギルドに登録するのになにか必要なものはありますか?」
「登録時に払う手数料くらいですかね」
え。
私お金持ってないのにどうやって払おうかしら……。
「はあー、そうなのですね……。実は私、今手持ちがなくて」
「あら、そうだったのですね。なら私がお貸ししましょうか?」
「え!? 良いのですか? あ、いやいやダメです。返せる見込みもないのに借りる訳にはいきません」
「ふふっ、誠実な方なのですね。そういう方にならお貸ししても大丈夫でしょうから、どうぞお気になさらずに。それにこれも何かのご縁ですから。商人にとって人脈は宝ですしね」
「あはは、すみません。ありがとうございます」
「いえいえ。ちなみになにを売るおつもりですか?」
「ええと」
私はリュックをガサゴソとあさり、中に入っていた品々を取り出した。
その品々を手に取って確認していた店主が「すごい! これは素晴らしいお品です!」と、歓喜の声を上げる。
「え、そうですかね?」
「はい! これほど良質な調理器具は初めて見ました。どこでこれを入手したのですか?」
そうだよね。
こっちの世界はみたところ中世くらいの文明だもんね。
そりゃ現代の技術でつくられたものだったら、なんでも凄くみえちゃうよ。
どうしようかしら。
ホームセンターで買った安物の大量生産品ですよ、とは言えないし。
まあ良いか。
なにかそれっぽいことを言って濁そう。
「えっと私の知り合いにとある鍛冶屋さんがいまして。そこの鍛冶屋さんと特別に取引させてもらったのがこの品なんです」
「なるほど。ぜひうちに店にもそのお方をご紹介してほしいところですが、やめておきましょう。商人が自分だけの販路の情報を漏らすわけにもいきませんからね」
「あはは、助かります」
「いえいえ。ところでこちらの品々うちの店に売って貰うわけにはいきませんか?」
「すみません。こちらの物は既に先客がいまして、今お売りするのは難しいです」
「そうですか。それは残念です」
店主の女性が残念そうな顔をした。
「ああ、でもあの……また、この商品が入荷したら、その時はこちらのお店に優先的にお売りしますね」
店主の顔がぱあっと明るくなった。
「はい! ぜひお願いします」
良かった。
店主の女性はとても良い人そうな方で。
やっぱり商売をするならこういう人脈はとても大事よね。
その後、互いの名前を教え合い、店主からお金を借りて受け取った。
彼女の名前はアイズさんというらしい。
彼女に商人ギルドの場所を教えて貰い、そこに向かった。
商人ギルドに着いた。
さっそく登録をすませる。
登録は手数料を払うのと、指紋の判を押すだけの簡素なものだった。
あとは登録番号が書かれた札を渡された。
ちなみに手数料は1000バリスだった。
この国での物価指数的にはかなりの高額の部類よね。
商人ギルドを出ていきベルンさんのお店へと向かっていく。
いくらくらいで売れるかな。
あ、そうだアイズさんにいくらくらいになるか、さっき聞いておけば良かったわ。
それにお金もはやくお返ししなければな。
道すがらそんなことを思いながら先を急いだ。
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