第12話 二人の出会い 中編

「君に幾つか質問しよう。答えられる範囲でだけ答えてくれ。その前に、まあ水でも飲んで落ち着くと良い」


 そう言うと、腰にある水筒……は無視して腰のポーチから小さな瓶を取り出した。

 ――あやしい、絶対に中身は怪しいヤツだ。渡された瓶を見て思う。


 だが飲まないわけにはいかない。

 それにきっと、わざわざここで毒を渡す理由が思いつかない。

 今周囲にいる連中は、人を殺すことに躊躇ためらいが無い。

 実際に殺されたわけではないが、誤解や勘違いでは無く、絶対にそうと言い切れる!


 しかしこちらも躊躇ちゅうちょしていても仕方がない。飲まなければどのみち殺されるのだ……そう思い、瓶の中身を一気にあおる。


 心なしか、周囲の空気が少しだけ和らいだ気がする

 周りの空気と同時に、心にも僅かながら平静が戻る。まだ焦りと不安は拭い切れないが、ここは否とは言えない状況だ。どちらかと言えば、さっさとここから出して欲しい。


「もう大丈夫です。全て答えます」


 よろしい――そう言うとしばし考え、


「君の家族構成を教えてくれ」

「父と母と……あと、ちこたんがいます。あ、犬の名前です」


「犬が家族なのかい? まあいいや。7つの門の何処から来たかは覚えているかな?」

「門と言われましても……気が付いたらここに居ました」


「君の知っている国の名前を教えてくれ」

「…………」


 ――だめだ、国名が一つも出ない。あの大きな国は何だった? 隣の国は? 関連付けて答えようとしても、その部分で既に引っかかる。あの像、あの食べ物は何と言う名前だったのか……。


「そうか、ではコンセシール商国は知っているかな?」

「いえ、聞いた事もありません」


「ティランド連合王国、ムーオス自由帝国、ハルタール帝国、ジェルケンブール王国。いずれかに聞き覚えは?」

「一つも分かりません」


 少し周囲にざわめきが起こる。


「世界四大国を知らないとか嘘だろ?」

「可哀そうに……きっと何かあったのよ」


 どうやら一般常識の様だ。だがそんな国の名前は聞いた事が無い。間違いなく、ここは自分が知らない世界なんだな……。

 質問者の青い鎧の青年は暫し考え込んでいたが、


「では、空の色は何色だい?」


 やっと自分でも分かる常識問題を出してくれた。それなら簡単だ、答えは――



 それを答えようとした瞬間、地面から微かな振動を感じる。

 そして同時に、リッツェルネールの全身に悪寒が走った!


「全員散開!」


 叫ぶと同時に、石畳を割って何かが現れる。5……いや、6ヶ所か。

 そのうちの一つが兵士を掴む。それは長くしなやかで、いくつもの吸盤が付いている。色は僅かに緑がかった灰色で、表面にはぬめぬめとした粘液がまとわりつく。蛸の足、まさにそういった形状だ。


「ぐああああああ!」


 悲鳴、そしてメキメキという金属音に、ボキボキと骨を砕く音が部屋に響く。触手は先端が複数に別れ、それが頭や手足、胴を同時に締め付け、潰していた。

 ガシャンという音共に地面に落とされたそれは、もはや人間の形を留めてはいない。


 いや、それだけではない。地面から生えた触手は枝分かれしながら増殖し、周囲にいた兵士達を捕らえ、潰す。怒号――悲鳴――噴き出し流れた血が、ゆっくりと相和義輝あいわよしきの方へと流れてくる。


 ――なんだ……これ。これは現実……?


 これ程の人の死を見たのは初めてだ。それも、見た事の無い怪物による大量殺戮たいりょうさつりくの現場。

 なのに、どこか遠い。檻にいれられているから? 違う。何かが頭にブレーキをかけている。

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