第2話 始まりの物語 後編
「お疲れ様でございます、魔王よ」
そこは、眩しい光に包まれた半円形の巨大なホール。
直系は、おおよそ200メートルはあるだろうか。光源は天井全体の発光によるものか。
壁近くの中央には黄金の玉座が置かれ、その背後には2つの扉。
他にも丸い穴が無数に空き、それらは天井にも広がっている。
輝く光の中には、一人の男と5体の異形の者がいた。
魔王と呼ばれた男――先ほどまで
「いや、疲れてなどいないよ。新しい魔王の召喚は無事に終わった。名は
疲れてはいない――そう言った彼だが、その見た目にはハッキリと疲労の色が残る。
そんな彼の正面に立つ異形。
その姿は石のような八角柱の頭に、下から延びるのは多数のタコのような触手。
足はうねうねと忙しなく動くが、頭に口のようなものは見受けられない。いや、それどころか目すらない。
そんな奇妙な姿の異形が、ホールに響く様な言葉を発する。
「新しい魔王を人類に
「変わるかもしれないし、変わらないかもしれない。もしかしたら、彼は魔王ではなく人類として、君達と戦う道を選ぶかもしれないね」
その言を受け、今度は三角錐の体に大豆のような頭、それに四本の手を持つ異形が発言する。
「相変わらず、中々いい加減な人デスネ。イエ、もちろん賛成いたしマスヨ。ソレが魔王の決定でアレバ、我等は意を挟みマセン」
タコの足を持つ異形とは違い、両手を広げ、仰々しく大げさな動き。だがその声には一切の抑揚が無く、いかなる感情も感じられなかった。
「心配せずとも大丈夫だよ。今度の魔王は僕自身が選んだ。義理堅く、人情味があり、何より生きる事に真剣な男だ。能力は足りないかもしれないが、その点は皆が支えてやればいい」
黄金の玉座に張り付いていた異形――大きさは1メートル程か。見た目は灰褐色の大きな尺取虫だ。それが体を曲げ、魔王の耳元へとやって来る。
「ですが、本当によろしいのですか? 魔王の考えは少し理解が出来ません。少なくとも魔王としての教育を施し、力の継承はさせるべきではないでしょうか?」
それは幼い子供の様に可愛らしい
「それをした結果が、今までの結末だろう」
魔王はゆっくりと玉座から立ち上がり、周りを見渡す。
「この世界には寿命が無い。生きようと思えば、千年だって一万年だって生きることが出来る。だが代々の魔王は皆短命だ。その最後は皆も知っての通りだよ。それを変えたいのだろう? なら僕に任せてもらおう」
それはまるで、子供に言い聞かせるかの様なやさしく静かな言葉。
「心配ないよ。僕はどの魔王よりも長く生きた。その分、より多くの事を視てきている。君たちの損にはならないはずだ。さあ、もうじきお客さんが到着する頃だよ。歓迎の準備をしよう」
そう言いながら左手を天空に伸ばすと、その手には銀の鎖のようなものが幾重にも巻かれ、そして霧のように消える。
同時に彼らの眼前には、遥か遠くの景色が浮かび上がる。
荒れ地を浮遊しながら疾走する板のような乗り物。その上には中世のような金属の鎧を
それが十、百、いや千、万と数を増やしながら一点を目指して進軍している姿だ。
「思ったよりも早かったデシ。デシが、これも予定通りデシか……」
ブクブクと泡立つ影のような異形は、その言葉を残すとやはり影のように消えていった。
「さて、皆も準備に入ってくれ。僕も最後の務めを果たすとするよ」
そう言って魔王が立ち上がると、4体の異形は闇の中へと消えていった。
――
玉座を降りた魔王の前に、最後の一体の異形が残る。
青い表紙の本を抱えた30センチほどの、二足歩行の蛙。
それは魔王の横にペタペタと歩み寄ると、その横にひっそりと並ぶ。
「イヤンカイクの仕事は魔王付き。それは最後まで魔王と共にあるという事」
「そうだね。嫌な仕事を任せてすまないと思うよ」
少し自嘲気味だが、決心の決まっている声。
「では行こう。そうそう、あの子も来ているね。少し時間を作って会う事にしよう」
一人の魔王と一体の異形が消えた後、巨大ホールの光は消え、闇だけが残された。
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