三 エイプの地区統制官
二週間後。俺は祖父ちゃんが住んでいる町の地区統制理事会に招集された。統制理事会開催にあたり、アライグマの連絡担当官アンマンが、統制理事会の統制官たちに自己紹介して貰うと言ったが、俺は、最初に俺の自己紹介をすると言って、退役前の戦闘経験を話した。
「もっと詳しく君の経歴を話してくれ」
会議テーブルの正面で長老統制官のエイプが俺を見て薄笑いを浮かべた。
「異星体との戦闘について話を聞きたいと言うから戦闘経験を説明した。
俺の経歴を首実験をする気か?」
俺は穏やかに言った。俺はトラー・タイガー、虎だ。この長老統制官は小賢しいエイプ・猿だ。
「いろいろやってもらうにも、どの程度の技量か訊きたいのでね」
長老統制官のエイプは偉そうに言った。おそらく森林から町に出たオラン・ウータンだ。一族の上層部で部下に指示する口先だけで統制官にのし上がったエイプだろう。こういう輩は地位だけで何でもできると過信し、いざとなれば現実の状況に何も対応できない。
「自己紹介を兼ねて説明しただろう?何を聞いていたんだ?アンタラの戦闘部隊がど素人だと言うから、傭兵にボラれないよう説明したんだ。
ここに居る者で、誰が俺の技量を確かめる知識と経験を持ってるんだ?」
俺の一言で長老統制官が閉口した。
思ったとおり、このエイプは己の言葉で人が動くと思ってる。現場で何が起こり、どうなっているか、知識も経験も無い。
「ここにいる皆が知識も経験も無いため、雇った傭兵の為すがままだった。おまけにこの地域の戦闘部隊は統制理事会の単なる下部組織で発言権も行動権も無い。
統制理事会は傭兵の紐付きか?傭兵に金だけ取られて実績効果の無い見せかけの戦闘を見せられてきただけだ。その事は現場の状況を見れば分かるはずだ。
この統制理事会の誰が戦闘前と後を確認したんだ?」
俺に反論して長老統制官が言った。
「連中には実績がある。過去の実績を見てくれ。ここに資料がある!」
「そんな物はクソの役にも立たねえ!戦闘後を見るがいい。侵略地域が増えただけだ!」
長老統制官が食い下がる。
「そんな事は無いぞ」
「では二週間前とくらべ、異星体がどれだけ侵略したか、地域を確認するがいいさ!
二週間前まで保持していたギスラマの大地は、傭兵がいい加減な防備をしたため異星体が侵略した。ギスラマの長老統制官は責任を取らず、傭兵がのさばってるだけだ。
アンタラの戦闘部隊は何してる?この統制理事会に本物の戦闘部隊員がいるんか?戦闘も知らんアンタラが俺に経歴を訊いて話の種にするだけか?
俺は戦闘方法を教えると言ってるんだ!」
「何だその言い方は!ここに来てこっちの状況も聞かずに何様の気でいるんだ」
「最初に俺は、自己紹介する、と言ったはずだ。当然、この戦闘状況に対する俺の考えも紹介の一部だ。統制理事会の状況がどうだなんてのは関係無い。
アンタラが俺の話を訊きたいと言うから、ここに来たんだ」
「何だ、その上から目線は?」
「上から目線はお前だ!何のために戦闘してるんだ?戦闘目的は何だ?答えてみろ!」
「そう言う訊き方で、お前の話を聞く者はいない。その時、お前はどうする気だ?」
「異星体が侵略したら、一人でも戦うさ。
アンタはどうする?まっ先に逃げるか?」
「我々はボランティアで・・・」
「アホか!オマエらはこの土地の統制官だろう?自分たちの土地を守るのはボランティアじゃない!」
「土地は我々の上部委員会が管理している。我々は状況を報告するだけだ」
「戦闘経験無しか?状況視察も無しか?
もしかして、兵器も銃器も扱ったことは無しか?」
「無い」
「土地をどのように管理してゆくか、その計画も無しか?」
「無い」
俺は呆れた。長老統制官が口先だけで人を扱おうとしているのが見え見えだった。やはり口先だけで騙してきたエイプだけの事はある。
他のメンバーが捕捉してその場をまとめた。
「専門家が現われたんだから、今後、我々はアドバイザとしてトラー・タイガー氏を迎え、相談に乗ってもらいましょう」
俺が最初に抱いたエイプの長老統制官の印象、
『口先だけで統制官にのし上がったエイプだろう。こういう輩は地位だけで何でもできると過信し、いざとなれば現実の状況に何も対応できない』
は外れていなかったらしい。
会議の議題が環境管理に変わった。異星体がこの地のどこかを侵略している今、明らかに環境管理より防衛が先決だ。俺はしばらく居座って黙って話を聞いた。
統制官たちは俺を煙たそうにしていたが、保身のための言い訳の話し合いをし、侵略している異星体に対策を講じないまま会議を終えた。
俺をこの場に呼んだ連絡担当官のアンマンは終始悪びれずにいた。そして退室後、この呆れた統制理事会の体質を、口先ばかりで何も行動しない、と嘆いた。
そう言うお前は人民の模範だ。お前が何もしなけりゃ人民も何もしない・・・。俺はそう思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます