第23話 重戦士と女子高生と新幹線
在来線を乗り継ぎ、新幹線の停まるターミナル駅に到着する。
「リクトさん、駅弁買いましょう。わたし、カツサンドにしようかな? 穴子飯も美味しそう。あったまる容器の焼肉弁当なんて反則ですよね! あぁ~、パン屋って香りが凶器! 旅行前なのにバゲット一本買いしたくなっちゃう」
駅ナカの店舗の前ではしゃぐ一花に、リクトは甲冑の身を縮めてオロオロしっぱなしだ。
「一花殿、大丈夫なのか? シンカンセンのチケットは普通のデンシャより『0』の桁が多かったし、この弁当は一つで一日の食費の三倍も……!」
「細かいこと言わないの!」
震える異世界人をわたし服の女子高生が笑い飛ばす。
「食は旅の醍醐味ですよ。お金は使うために溜めるもので、わたしの使い時はここなんです。で、リクトさんは何にします? 肉? 魚? ご飯? パン?」
一花の謎の迫力に説得され、リクトは「では、これで」と近くにあったおにぎり弁当を差し出すが、
「やり直し!」
すかさずダメ出しが入る。
「駅弁は一期一会です。適当に決めず、悩んで比べて数多あるお弁当の中から自分にとっての珠玉の一箱を選び取らないと!」
「……そんなに神聖な儀式なのか?」
この国の人間は食へのこだわりが半端ないと、異世界人は感心する。
それぞれに最良の駅弁を選んでから、新幹線に乗り込む。
「でも、新幹線で行ける場所で良かったですね。飛行機だと保安検査で引っかかって絶対乗れなかったもん」
「……
「駅員さんと鉄道警察隊ですよ。水沢さんが鉄道局に話を通してくれて助かりましたね」
自動改札前で止められて、異世界担当行政官に泣きついたのは旅のいい思い出だ。
「ここから二時間弱、あとは座ってるだけですね。あ、この席コンセントついてる。リクトさんも充電します? わたし、USBポートが二個ある充電プラグ持ってきたんで」
いそいそと自分のスマートフォンを充電しながら駅弁を広げる一花に、リクトは「平気だ」と答える。異世界人の彼は政府との連絡用にスマートフォンを支給されているが、掛かってきた電話を受ける以外は滅多に使わない。
「速いな」
流れる車窓を眺めながら、リクトが呟く。
「陸を行く乗り物でこれだけ速い物はトツエルデにはない。
「……なんとなく名前から形状が判る竜ですが、お目にかかりたくないですね」
一花は爬虫類は好きだが虫は苦手だった。
「この世界に来てかれこれ100日ほど経つが、まだまだ知らないことだらけだな」
感慨深げにため息を漏らすリクトに、一花は微笑んだ。
「わたしもトツエルデのことを全然知りません。だから、リクトさんの話を聞くのが好きですよ」
何も知らないからこそ、話すことで距離を縮めることができた。この時間が終わってしまうのは寂しいが……。
「帰る方法、見つかるといいですね」
「ああ」
真剣な眼差しを向ける一花に、リクトはギイッと兜を縦に振る。
不意に窓が暗くなり、新幹線はトンネルを通過する。明るくなった時には、一面の緑が見えた。
「わぁ! 山ですよ。山ですよ、リクトさん!」
下車駅まではあと少し。視界いっぱいの大自然に大喜びで一花が振り返ると、
「……こっちの山は緑色なのか」
ぼそっと発せられた言葉に、地球人は異世界人を二度見した。
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